世界共通のプラットフォームを目指すモバイルWiMAX
モバイルWiMAXは、KDDIを筆頭に、多くのキャリアが興味を示し積極的に実験を行っている注目の技術だ。WiMAXフォーラムは日本市場をどう見ているのだろうか。
「モバイルWiMAX」は今や日本の携帯電話キャリアに大人気の通信規格だ。KDDIは「ウルトラ3G」構想の中でモバイルWiMAX(IEEE802.16-2005として標準化。旧IEEE802.16e)を重要な要素と位置づけ、積極的に実証実験を行っている。大阪で実施した実験(2月16日の記事参照)では、CDMA 1x EV-DOとのハンドオーバーなども成功させた。またイー・アクセスやBBモバイル、アッカ・ネットワークスは、社内にWiMAX推進室やWiMAX推進準備室といった部署を設置し、導入へ向けて検証作業を行っているという。ドコモも3月28日にWiMAXの実験免許を申請し(3月28日の記事参照)、性能評価に乗り出した。
インテルのサービス・プロバイダー・ビジネス事業部に所属し、WiMAXを推進する国際的な非営利団体「WiMAXフォーラム」の代表も務めるロナルド・J・レスニック氏にモバイルWiMAXの現状を聞いた。
モバイルWiMAX対応製品は年末までに登場
日本では、いわゆるラストワンマイルをカバーする技術としてのWiMAX(IEEE802.16-2004)よりも、移動体で利用することを前提に改良されたモバイルWiMAXに関心が集まっている。キャリア各社は3G携帯電話のネットワークと補完させることなどを検討している(2月17日の記事参照)。
「世界的に見ても、WiMAXよりモバイルWiMAXの方が圧倒的に大きな市場だと考えている」とレスニック氏。もともとWiMAXは固定回線向けの技術としてスタートしているが、現在はモバイルWiMAXの技術開発が進んでいる。「はっきりした数字はわからないが、モバイルWiMAXが立ち上がれば市場は固定向けしかない現在の10倍、いや100倍以上の規模になるだろう」(同氏)
日本市場でモバイルWiMAXが成功するかどうかは「キャリアの動向次第」と話す。モバイルWiMAXは、Wi-Fi(無線LAN)のようにエンドユーザーが販売店でアクセスポイントを購入して自由に増設できるものではなく、キャリアが基地局の設置と端末の供給を行い、サービスとして提供するものだからだ。ただ「3GとモバイルWiMAXが融合すれば、短期間でブロードバンドアクセス環境が整うだろう。スーパー3Gなどを待っていたら2~3年はかかる」と、導入のメリットを強くアピールした。
冒頭でも述べたように、国内のキャリアはみなモバイルWiMAXにかなり前向きだ。2.5GHz帯の70MHzのブロックについては、総務省のワイヤレスブロードバンド推進研究会がモバイルWiMAXを含む新しい移動通信方式用に割り当てる方針を示していることもあり、前途は明るいといえる。
レスニック氏は、モバイルWiMAX対応製品が「米国では今年の年末までには出てくるのではないか」とコメントした。まずPCカードやPCIカードなどのアドオンカードとして製品が発売され、2006年後半にはノートPCなどへの搭載が始まる。そして2008年ごろにPDAや携帯電話、Ultra Mobile PCなどの小型の端末にも搭載されるようになると予測する。日本市場では、周波数の割り当てがまだであることもあり、「もう少し時間がかかる可能性はあるが、携帯端末には米国と同様2008年くらいには搭載されていることを期待したい」と話す。
モバイルWiMAXの仕様は全世界で共通化していきたい
ほぼ準備が整ってきた感のあるモバイルWiMAXだが、1つ重要な問題があるとレスニック氏は言う。それは機器間の相互運用性だ。モバイルWiMAXに限らず、インターネットにアクセスするサービスは「世界中のどこででも、PCやPDA、携帯端末といったプラットフォームを問わず使え、なおかつ低価格であることが理想」だ。ユーザーの視点に立ったとき、これらの要素は極力実現していきたいと考えている。
レスニック氏は、米国や欧州では普通に使える自分のGSM携帯電話が、日本では使えないことを例に挙げ、「3Gの端末なら使えるものもあるが、GSMの携帯電話は日本で使えない。だから私は日本に来るときだけは携帯電話を持って来ない。モバイルWiMAXではそういうことがないようにしたい」という。
具体的な方針として、世界の各地域で可能な限り同じ周波数帯を利用できるよう政府などに働きかけていくこと、ローミングなどのサービスが適宜受けられるようにすること、WiMAXフォーラムで認証する機器は、ワールドワイドで使えるものにすることなどを打ち出している。
IEEE802.20はライバルとはいえない
モバイルWiMAXというと、米Qualcommが積極的に推進しているモバイル向けの高速無線通信技術「IEEE802.20」と比較されることが多い。WiMAXフォーラムとしては、802.20をどう見ているのだろうか。
レスニック氏は、モバイルWiMAXと802.20には「非常に大きな違いがある」という。同氏はどちらもOFDMAをベースにした技術ではあるものの、モバイルWiMAXが2005年12月にIEEEで802.16-2005として承認されているのに対し、802.20はまだスペックの定義すら固まっていないことを挙げた。「もはや技術的な優位性などを競うような段階ではない。リアルに存在しているものとまだ世の中に存在しないものであり、比較の対象にはならない」と指摘する。
「そもそも多くの通信関連企業がモバイルWiMAXより802.20の方が優れていると考えているなら、WiMAXフォーラムのような組織(802.20のフォーラム)が発足しているはずだ。それがないのは、802.20を必要としている企業がさほど多くないからではないか」(レスニック氏)
WiMAXフォーラムには現在356もの企業が参加しており、モバイルWiMAXはすでに標準化がすんでいる規格だ。世界では現在150以上の事業者が実験を行っている。一方802.20には共同で規格化を推進する団体もなければ、標準化された規格もない。「彼らは4年近く標準化作業を行っているが、世の中はすでにモバイルWiMAXに向かって進んでいる。どちらが優れているか、という議論はもはや意味がなく、すでに結論は下されていると考えている」
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