「明確な形をアウトプットしてはいけない」──坂井氏の難題に応えた3人のクリエイター:INFOBAR展/Trilogy展同時開催記念スペシャルトークショー(2/2 ページ)
11月3日に原宿のKDDIデザイニングスタジオで開催された「INFOBAR展/Trilogy展同時開催記念スペシャルトークショー」。深澤氏のトークもさることながら、3人のクリエイターが手がけたコンセプトモデルのデザインプロセスも非常に興味深いものだった。
「Kaos」──もうカオティックなラインをプロダクトに反映させるのは無理だと思った
次に“ひび割れ”ケータイをデザインしたフレイザー氏の説明が続く。コンシューマー向け製品のデザインにあるラインを見ていて、そこから全然違うラインを生み出したい、という思いからデザインは始まった。北京のオリンピックのドームからも、ラインのアイデアを参考にしたという。そして、いろいろな自然界にあるカオスなラインを見ていくなかで、そのようなラインをケータイに取り入れられないかとフレイザー氏は考えた。
「工業製品をデザインするときは、ラインというのが非常に大切になってきます。深澤直人さんのデザインも常にラインのことを気にしていて、とても尊敬しているデザインです。そういったラインを尊重して、そこからすごくよく考えていけば製品の面白さを出せるのではないかと思いました。そこで、自然界の中のカオスなラインに注目してみました」(フレイザー氏)
フレイザー氏は、カオティックなラインを出すために、最初はいろいろなものを壊してラインを探し始めた。途中段階では「もうカオティックなラインをプロダクトに反映させるのは無理だと思った」(フレイザー氏)こともあったという。しかし、自然なグラフィックを実現するソフトウェアを見つけることができ、このラインを表現できるのではないかと思い始めたのが、現在の形に結びつく。
その結果、ひび割れのラインを、キーやイヤフォンジャックに落としこむことになった。さらに、何かを割って壊したときに破片ができる、その破片を何か部品にできないかということで、Bluetoothでつながるミュージックプレーヤーのリモコンまでデザインしてみたという。
「深澤直人さんがおっしゃったとおり、かなり過激なデザインですが、ケータイもファッションに近いようなサイクルで動いているので、ファッションに近い考え方でデザインしました」(フレイザー氏)
「cypres」──“装飾的な実験”と“手との隙間のデザイン”
最後に田村奈穂氏の“基板ケータイ”「cypres」について、ウォーター・デザインスコープが解説した。田村氏はau design projectで坂井氏と「MACHINA」「HEXAGON」を一緒に手がけているが、今回のcypresもニューヨークにいる田村氏と坂井氏が連携して作り上げたものだ。
最初に坂井氏側が投じたコンセプトに対して、田村氏もやはり他の二氏と同じようにボックスを作った。坂井氏のコンセプトには、ジュエリーやメガネといった貴金属のイメージが入っており、これを古いトランクに詰めてプレゼンテーションしている。実はこのトランク、田村氏の祖母がサンフランシスコと日本の往復に、実際に使ったものだという。こうした“コンセプトワーク”のプロセスで、どのようなデザインをしたいか、という世界観を構築していった。
「我々のコンセプトを田村氏が噛み砕いたところ、基板というものはとても綺麗なのではないかという答えを返してきました。それに我々も感動しました。基板はもともと作られる段階で理論的にいちばん効率のいい配置をすることになっていて、実は見た目も綺麗にできている。それをそのまま見せればいいのではないか、ということになり、それがコンセプトになっています」(ウォーター・デザインスコープ)
本体とは別の小型のディスプレイパネルは“ペンダント”で、Bluetoothで親機とつながっている。パーティ会場などで親機をバッグに入れた状態で、このペンダントも首から提げておくと、電話を受けたり音楽を聴いたりできる、というものだ。
本体側で最も印象的な、透けて見える基板上のキーのパターン。通常、携帯電話のキーは、シート状の“フレキ”という曲がる基板の上にドームキーが付いている。さらにそれを開けると、非常に極細のラインが引かれていて非常に綺麗なのだという。それをどうにかデザインに生かせないかということで、田村氏はいろいろな形を試すと同時に、中に見えるフレームなどもデザインした。仕上がったコンセプトモデルには、本物のフレキが使われている。
「中身がどんどん薄く小さくなってきているので、実際のスペックと手との間をデザインしようという話がありました。“隙間”をデザインしようと。“ペンダント”で画像が動いて胸元にあれば、今後のジュエリーを超える新しく美しいメディアアートが生まれるかもしれませんね。ミニマリズムも美しいのだけど、その反対にあることも面白いのではないかと、少し装飾的な実験をしてみました」(坂井氏)
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