品切れ続出、905iシリーズ人気の裏に潜むドコモの弱点 :神尾寿の時事日想:
NTTドコモの「FOMA 905iシリーズ」が人気で、在庫不足が続いている。「他キャリアユーザーを取り込めるかもしれない」と期待する声も上がる中、当のドコモは慎重な姿勢を崩さない。“どんどん増産”と言えないドコモの事情とは?
NTTドコモの最新機種「FOMA 905iシリーズ」(参照記事)の在庫が払底している。
P905i、N905iが足りない!
家電量販店やドコモショップを覗けば一目瞭然。発売直後に人気商品になったP905i、N905i(参照記事)を中心に「売り切れ」の札がかかる。この状況が、昨年12月から慢性的に続いているのだ。
「うちでは週2回の入荷日があるのですが、(人気の)P905iは数量割り当てが直前まで明らかにされず、入荷しても午後には人気色から品切れになってしまう。お客様に『いつ来れば買えるのか』と尋ねられても、答えられない状況なのです」(都内家電量販店)
905iシリーズすべてが品切れというわけではないが、ユーザーとしては「欲しい機種を買いたい」のは当然だ。ドコモが905iシリーズから導入した新販売方式では(参照記事)、割賦支払いを選ぶと最長2年間の分割払いになるのだからなおさらだ。
905iシリーズの人気機種が不足する状況は、東京や大阪、名古屋など大都市に限った話ではない。全国的に在庫が乏しく、せっかくの商機を取り逃すことになった販売現場からは不満の声が上がっている。
「905iシリーズは確かに人気なのですが、売れ筋商品であるP905iとN905iが入荷数が少なすぎる。(ドコモショップでは)かなりの販売機会損失が発生しています」(地方の販売会社幹部)
「905iシリーズは、既存のお客様の買い換え需要が旺盛なだけでなく、他キャリアのユーザーも惹きつけています。特にauユーザーの905iシリーズに対する関心は高く、MNP(の流出入)で『勝てる』ようになりつつある。しかし、肝心の人気機種が品薄では、せっかくのいい流れが生かし切れない」(ドコモ地域会社幹部)
せっかくの好調に、“人気機種の品不足”が足かせとなっているのだ。「もっと在庫があれば……」。販売現場に近いドコモ関係者は、その歯がゆさに心底悔しがっている。
調達計画の前倒しをするも、慎重な対応のドコモ
人気機種が慢性的な品不足。この状況に対して、ドコモ本社は「当初の(端末)調達計画を可能なかぎり前倒しにする形で対応している」(広報部)と話す。
「店頭在庫が潤沢になる時期としましては、機種や色によって状況は異なりますが、おおむね1月下旬には品不足が解消されると見込んでいます」(ドコモ広報部)
日本の携帯電話業界では、通信キャリアが端末メーカーから端末を仕入れる形で調達し、販売会社に卸す仕組みになっている。そのため「いつ・どれだけ」端末が市場に流通するかは、キャリアの調達計画によって決まるのだ。今回の品不足に対してドコモは、調達時期を早めることで市場流通量を増やす考えであり、“売れているから”とメーカーに増産を指示し、調達数そのものを増やすことには慎重な構えを見せる。
店頭では人気が沸騰し、長引く品不足が販売機会を逸する問題も引き起こしている。それでもなお、ドコモが強気の調達に踏み切らないのは、新販売方式(参照記事)によって端末の売れ方や、発売後の需要変動がどう変わるかが予想しきれていないためだ。
さらにドコモは1月後半から、スタンダードモデルとなる705iシリーズ 13機種(参照記事)を順次発売する予定である。905iシリーズ偏重の販売体制を敷くことで705iシリーズの需要を縮退させたり、その逆に705iシリーズ投入によって905iシリーズの流通在庫がダブつくといった事態は避けたいというのが本音だろう。特に905iシリーズは調達・販売コストが高いため、後者のシナリオはドコモにとって最悪だ。
「新販売方式で売れ方がどう変わるのか、またハイエンドモデルとスタンダードモデルの構成比がどうなるのかなど、春商戦にかけて(販売環境の)変化を見極めたい」(NTTドコモ 営業本部 営業部長の坂口昌平氏)
“流通で弱気”のままで、春商戦に勝てるのか
売れているときに、強気な賭けに出られない。905iシリーズの人気とそれによる品不足は、皮肉なことに「流通で弱気」「見通しが甘い」というドコモの弱点を露呈してしまった。特に今年の冬商戦は、auのハイエンドモデルの発売が遅れていたことで、ドコモはソフトバンクモバイルだけ意識すればよいという“有利な市場環境”だった。バリューコース(参照記事)に対するユーザーの反応はよく、ハイエンドモデルである905iシリーズには追い風が吹いていた。ここで迅速な決断と大胆な攻めに出られなかったところに、今のドコモの課題が垣間見える。
2月後半から4月にかけての春商戦は、携帯電話業界にとって最大の商戦期である。目下、純増数No.1で勢いに乗るソフトバンクモバイルはもとより、冬商戦ではオウンゴール的な不振に陥ったau(参照記事)も躍起になって巻き返しを図るだろう。この正念場において、人気機種の品不足は許されない。ドコモの手腕が問われそうだ。
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