カメラを引き立たせる“味付け”はケータイらしく――「W61S」の作り方:開発陣に聞く「Cyber-shotケータイ W61S」(後編)
「Cyber-shotケータイ W61S」の魅力を引き立たるのはやはりカメラ機能。着うたフルをBGMにしたスライドショーや撮った写真を素早くネット投稿できる機能など、“ケータイらしさ”を生かした魅力的な機能に仕上げられた。
「Cyber-Shotケータイ W61S」のカメラ機能におけるGUI(グラフィックユーザーインタフェース)は、本家Cyber-shotの世界観をしっかり踏襲しつつ、新たな試みが盛り込まれた。
W61Sはどちらかというと女性向け端末ということもあり、写真シール風に写真を装飾できる「デコフォト」がNTTドコモ向けの「Cyber-Shotケータイ SO905iCS」よりも進化しているという。
「デコフォトは、ゲームセンターなどにある、実際の写真シール機をかなり参考にしました。ハートやキラキラなどのスタンプもたくさん入れていますし、手書き風の文字を好きな場所に貼ることもでき、加工の自由度はかなり高いですね。もちろんサブカメラを使った撮影もできます。ケータイならではの機能として、完成した写真をメールや赤外線で送ったり、ブログにアップすることができます」(GUIデザイン担当の神山氏)
そして、待受画面やメニュー画面などのGUIには、本家Cyber-shotにも使われている“サイバーショットブルー”が用いられ、その世界観を継承している。
「“写真の面白さ”を表現したかったので、デフォルトのメニュー画面の背景にいろいろな写真を用意しました。これらの写真は、いかにもプロが撮った壮大な景色ではなく、あえて日常で撮れるスナップ的なものを選びました」(神山氏)
「音フォト」は、着うたフルなどの音楽データをBGMに、撮影した写真をスライドショーで再生する機能だ。SO905iCSにも同じ機能が備わるが、W61Sはテレビなどの外部ディスプレイに出力して楽しめるようにもなっている。さらに、“Kids”という画面切り替えエフェクトに顔検出技術が使われており、人物の顔を中心にした画面効果も楽しめる。音フォト用に5種類ものエフェクトも用意する。
「音フォトは、画像と一緒に着うたフルなどの音楽データも外部出力できます。例えば結婚式で撮影した写真を、流行りのウェディングソングをその場でダウンロードしてBGMにし、早速2次会でスライドショー再生するといったことができます。思い出がより深まりますよ」(企画担当の冨岡氏)
加速度センサーを搭載した「フォトビューアー」
ケータイで撮影した写真は、待受画面からメニュー画面、そしてデータフォルダにアクセスして再生するのが一般的。しかし、W61Sは一歩先を進んでいる。端末内の写真を素早く表示するための「フォトビューアー」を備え、側面の“再生キー”で一発起動できる。スライドショーはもちろん、ディスプレイいっぱいのサムネイル表示も可能。ちなみに、音フォトと同様にフォトビューアーの画面も外部出力できる。
「撮ったあとの写真はサクサク見てほしい。とはいってもケータイでは現状、デジカメと同じような処理速度が出せないジレンマもあります。そこで、小さなサムネイルを表示してたくさんの画像を一覧できる工夫を設けました」(冨岡氏)
フォトビューアーは端末に内蔵する加速度センサーを利用し、縦に構えて撮影した写真は縦向きに、横に構えて撮影した写真は横向きに自動で表示する。
「撮影時と再生時に上下左右の向きを検知し、向きのパラメータを追加する仕組みですSO905iCSにも同様の機能を搭載しますが、こちらは撮影時だけ有効になります。対してW61Sはフォトビューアーで再生するときも、加速度センサーを利用して向きを合わせます。『写真によって縦/横の向きが変わるのが嫌』という声が多く寄せられましたので、ここはこだわりました」(ソフトウェア(カメラ)担当の平澤氏)
またフォトビューアーを起動すると、“最後に撮影した写真が保存されたフォルダ”内の写真を表示する工夫もある。本体のフォトフォルダやムービーフォルダ、microSDのデジカメフォルダなどを選べるが、本体とmicroSDのデータを混在させたり、日付ごとのフォルダは選べない。これは、「撮った写真をすぐに見られるようにすることを重視したため」(冨岡氏)だという。
フォトビューアー起動時に[アプリ]キーを押すと、写真を縮小してサムネイル表示し、[EZ]キーを押すと写真を拡大表示する。これは、[アプリ]キーで広角、[EZ]キーが望遠という撮影時のズーム操作と同じ操作で、キー付近に広角と望遠を表す“W”と“T”の文字が青く光る。SO905iCSも撮影時にはキーが光るが、フォトビューアーでキーが光るのはW61Sだけ。再生時の使い勝手にこだわりを込めた結果だ。
ところで、GUIやカメラ操作時のバックライトなどにCyber-Shotの世界観を表す青色にこだわったW61Sだが、本体カラーにブルーを採用しなかったのはなぜだろうか。
「海外のCyber-shotケータイもブルーはワンポイントのみで、本家Cyber-shotもブルーのボディカラーはそれほど採用例がありません。ブルーは、Cyber-ShotとしてGUIや世界観を統一したいときに、限定的に使うことになっています」(冨岡氏)
ブログアップとGPS連動機能へのこだわり
撮影後に役立つW61Sのカメラ機能として、ブログアップとGPS情報付加機能にも注目したい。この2つは、通信機能を持つケータイならではの機能であり、コミュニケーションツールとしてケータイを役立てるという、W61Sのコンセプトとも合致するものだ。
「ブログアップはSO905iCSとまったく同じ機能で、ドコモとau向けに仕様を共通化しています。さらに、すべてのコンテンツプロバイダ(CP)さんにも広く使っていただけるよう、ブログアップの仕様はオープンにしています。
「待ち合わせで看板や目印だけでは分からないときに、それらを撮って送るだけで相手は迷わずにすみます。このGPS連動機能は従来のauケータイでも対応していましたが、あまり使われていないようなので、あらためて積極的に訴求することにしました。撮影直後に容易にGPS情報を付加できるショートカットを設けたのは、(ほかのau端末にない)W61Sの新しいポイントです」(冨岡氏)
KCP+の搭載で見送られた機能や仕様は復活する?
このように多彩な機能を誇るW61Sだが、サイズ感の問題や、KCP+対応になったことで、見送られた機能や仕様もあるなど課題も残している。
まず機能面では、FMラジオやドキュメントビューアー、ICレコーダー、電子コンパスなどの搭載が見送られた。メール受信や音楽などの情報を画面の上に表示するスマートバーや、スライド開閉と連動して電話に応答できるスライド連動機能など、過去のソニー・エリクソン端末ならではの使いやすい機能の一部も省かれている。
「ドキュメントビューアなら『EZドキュメントビューアー』、FMラジオなら『デジタルラジオ』で、ある程度カバーできると考え、代替できる機能があるものは省いています。そのほか、細かい機能もいくつか省きましたが、できるだけカスタマイズしてソニエリらしい路線は残すよう努めました。また、au oneガジェットを使うことで、似たような機能を提供できると思います」(冨岡氏)
従来の機能を復活させることは“物理的には可能”で、「ユーザーからの要望を見ながら優先順位をつけていく」(冨岡氏)ので、今後の反響次第では復活する可能性もあるのかもしれない。
「W53S」やSO905iCSで採用されてた「+JOG」が見送られたのも気になる。こちらは「KCP+の初号機でユーザーが満足できるジョグのパフォーマンスを出せるか」という点を考慮して見送ったという。
「フラットに見せたいというデザインのコンセプトもありますし、+JOG自体が万能なデバイスとは限らない。いろいろなポインティングデバイスを備えた機種がありますから、ユーザーが選べるようにしたいですね。スタンダードな十字キーが欲しいユーザーもいますし、いろいろな端末の個性やポジショニングによって、+JOGも含めて最適なポインティングデバイスを選びたいと思います」(冨岡氏)
auケータイはKCP+を採用する機種が主流になりつつあるが、プラットフォームが共通化されると機能は横並びになり、メーカーごとの差別化がいっそう求められる。その差別化の方法の1つに、カメラを強化する、ディスプレイサイズを大きくするなどデバイスの拡張が有効だが、「もっとも重要なのは、ユーザーが毎日使って、こんな新しい楽しみ方があるという、新しいユーザー体験を創造していくことです」と冨岡氏は話した。
5Mカメラと光学3倍ズームを搭載したCyber-Shotケータイ。携帯電話として最高クラスのカメラ機能を備えているが、気になるのは、次期モデルがどのように進化するのかだ。
「次をどうするかはお客様の反応を見てから検討したいと思いますが、カメラを重視する戦略は今後も続くと考えています」(冨岡氏)とのこと。Cyber-Shotケータイの後継機が登場する可能性は高いようだ。
Cyber-shotケータイ W61Sの開発スタッフ。上段左から商品企画担当の冨岡氏、機構設計担当の安西氏、デバイス開発担当の梅原氏、デザイナー(GUI)担当の神山氏、デザイナー(本体)担当の大倉氏、ソフトウェア(カメラ)担当の平澤氏
W61Sは単なるカメラ特化型のケータイではない。Cyber-shotのDNAを受け継いだカメラ機能とケータイのコミュニケーション機能を融合させることで、デジカメ単体や従来のケータイでは成し得ない「新しいユーザー体験」を創造した。ケータイ市場が成熟期を迎えつつある中、W61Sは「個々の製品をいかにして差別化すべきか」という問いに対して、1つの回答を示したケータイといえるだろう。
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