発表前日にギリギリ完成――イルミネーションキーへのこだわり:開発陣に聞く「WILLCOM 03」 中編
「WILLCOM 03」の特徴であるイルミネーションキー。タッチパネルに加え、ダイヤルキーや十字キーもタッチセンサーで操作するという試みは、どのように生まれたのだろうか。
「WILLCOM 03」の特徴の1つに、タッチセンサーを使ったイルミネーションキーの存在がある。タッチパネルからフラットに続く操作部分が、用途に応じてダイヤルキーと十字キーに切り替わるのだ。WILLCOM 03を開発したウィルコム サービス計画部 課長の須永康弘氏は、イルミネーションキー搭載の経緯をこう振り返る。
「イルミネーションキーはシャープさんのアイデアです。家電用に設計されたもので、電子レンジなどで使うために基礎開発していたそうです。ある機会に教えていただいたのですが、新しい技術を見せられるとどうしても使ってみたくなるんです」(須永氏)
須永氏がイルミネーションキーの採用を決断したころ、世界的に話題となったタッチセンサー搭載端末が国内で販売された。早速須永氏も使ってみたが、想像以上に使いにくかったという。さらに、“販売店では興味を持つ客であっても、購入を勧めないようだ”という話まで、開発陣の耳に聞こえてきた。須永氏は、タッチセンサーによるUIが果たしてうまくいくのか、とハードルの高さを感じたという。そしてそれは現実となる。
「“我々の作ったものなら大丈夫だ”と開発進めましたが、試作機を作ってモニターテストに回してみたものの結果は芳しくない。“試作機の出来が悪かったから”とポジティブに判断して調整を繰り返しましたが、デバイスのサイズ的な問題もあり、満足な使い勝手になるまで非常に時間がかかりました」(須永氏)
須永氏はイルミネーションキーの開発に「できるまで待つ」と腹をくくったが、日程はウィルコムが計画する発売スケジュールに食い込みつつあった。余裕はなかったが、ここで妥協してはライバルに勝てない。実はWILLCOM 03のイルミネーショキーが完成したのは、発表会(5月26日)の数日前だったという。
「間に合わなかったら、シャープさんと心中するつもりでした」(須永氏)
最初は全自動だったイルミネーションキー
開発に非常に時間がかかったイルミネーションキー。製品版では、左側面にある[イルミネーション切替]キーで十字キーとダイヤルキーのモードを切り替えるが、開発段階では全自動で制御されていた。
「シャープさんはかなりの時間をかけて制御ロジックを設計したのですが、いざ使ってみると、待受画像、メール、Webブラウザ、設定メニュー、発信画面と状態ごとにイルミネーションキーがめまぐるしく切り替わる。使っていて落ち着かないので、思い切って手動に戻してもらいました」(須永氏)
ただし例外があり、電話を発信する場合は自動でダイヤルキーモードになる。電話をかけるときはユーザーが明示的に発話キーを押すため、イルミネーションキーが自動でダイヤルキーモードになっても不自然ではないからだ。
日の目を見なかったイルミネーションキーの全自動モードだが、開発していたシャープのスタッフも「確かに使っていて気持ち悪いと思う」ことがあったという。しかし須永氏は、タッチセンサーを使ったUIの普及で全自動モードが当たり前になるかも――と話す。
「こういう物があたりまえになって、使っていても気持ち悪くならない時代がくる。その時、我々にはベースとなるロジックができているので、今以上にいいものが出せるはずです」(須永氏)
では、タッチパネルやタッチセンサーを搭載した端末が当たり前になれば、ハードウェアキーは存在しなくなるのだろうか?
「それは避けて通れないテーマですね。我々も、QWERTYキーボードをどうするのか、いつか取り組まないといけません。ただ日本の場合、メールなど文字入力をする場面が多く、ハードウェアキーがないと本当に使いにくい。では音声認識ならどうか、というとそれもちょっと違和感がある。例えば、タッチパネルを使った新しいコミュニケーションが文字入力よりも楽しかったり、便利だったりすれば、価値観が変わるかもしれません。そうでなければ、最低限のハードウェアキーは残るのではないでしょうか」(須永氏)
次回の開発陣インタビュー後編では、WILLCOM 03で変革したウィルコムスマートフォンの今後について、ケータイOSやユーザーインタフェース(UI)など、端末がどのように進化するのか展望を聞く。
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