日本で勝たなければ世界で勝てない――ノキアシーメンスのLTE戦略(2/2 ページ)
パナソニック モバイルや富士通とともに、ドコモ向けのLTEインフラを手がけるノキアシーメンスネットワークス。「日本で勝てなければ世界で勝てない」と語る日本法人代表の小津泰史氏に、同社の事業戦略を聞いた。
―― グローバル市場と日本市場、ビジネスの違いはなんでしょうか。
小津氏 「我々はグローバルカンパニーだからグローバルのやり方でやらせてくれ」というのは通用しないと思います。日本には日本のやり方がありますから、外国の本社から来た技術者が、導入企業に英語で説明をするというスタイルではこの先、難しいでしょう。逆に、ヨーロッパの人間に日本語を勉強しろというのも無理な話です。双方の差を吸収するのが、日本法人の最大の役割だと考えています。
そのためには、日本のお客様を理解した上で海外のやり方も学び、フレキシブルにならなければならない。「中華料理は日本が一番うまい」などと言われることがありますが、それは日本人の口に合うようにアレンジされているからであり、我々にもその姿勢が求められるのだと思います。これは日本法人が勝手に考えているわけではなく、本社のエグゼクティブメンバーにも説明し、ヨーロッパとはやり方が違うことを理解してもらっています。
北欧出身のNokiaがなにゆえグローバル市場でここまで生き残れたのか。これは私も入社してから分かったのですが、Nokiaには国内市場というものがないんですね。フィンランドは人口500万人の国ですから、国内にものを売っているだけでは売上が立たない。これは我々のライバルであるEricssonも同様で、人口900万人のスウェーデン国内でビジネスをしていても将来性は限られています。つまり、NokiaやEricssonの辞書には“国内市場”という言葉が存在しない。アメリカも日本も韓国も中国も“市場”であって、“海外市場”ではないんです。
我々の本社はフィンランドにありますが、CEOはオーストラリア人です。販売部門のトップはドイツ人で、研究開発のトップはフィンランド人と、トップ3の国籍が全員違う。サービス部門はインド人ですし、人事担当はドイツ人、財務担当はイタリア人、広報担当はアメリカ人が統括しています。
しかも彼らは、1カ月のうち1週間も本社にはいません。常に世界中を飛び回っています。全員が集まるエグゼクティブミーティングが毎月1回あるのですが、それは本社でなく“その時一番集まりやすい場所”で行われます。あるときは中国、あるときはヨーロッパ、ある時は南米と、世界中に散らばっている彼らが集まりやすい場所が選ばれる。このことからも、弊社にとっての市場は“グローバル市場”だけということを読み取っていただけると思います。
グローバル市場の中の日本は、まだ非常に小さい市場です。しかし、経営陣は日本市場を非常に重視しています。開発のトップはすでに4回来日していますし、各ビジネスユニットのトップもほぼ全員日本を訪れたことがあります。その度にお客様と話をし、街に出て、日本を理解しようとしています。
開発はフィンランドやドイツが中心ですが、そこの10人近い開発部隊が日本に駐在しています。販売部門の人間ではなく、エンジニアが市場の生の声を直接情報収集しています。お客様との技術ミーティング、不具合の対処、日本での標準動向の調査といった仕事を行っています。これは、日本で勝てなければ世界で勝てないと考えているからです。
不況の時こそLTEでコストを削減
―― 金融の混乱による世界的な景気後退が顕著になってきた中、通信インフラへの設備投資が抑制されるおそれがあるのではないでしょうか。
小津氏 世界中でさまざまな動きがあり、最終的な評価をするにはまだ早いと考えていますが、世界の通信加入者は継続して増えています。通信サービスの加入者は2015年に50億人となり、そのうち40億人が携帯電話を使うという予測があります。これは、現在の金融問題があっても変わらないと考えています。いったん使い始めた携帯電話を手放すということはめったにありませんから。
また、トラフィックの推移を見ると明らかに右肩上がりです。グローバルで見ると全トラフィックは毎年5倍のペースでふくらんでいる。この状況を見る限り、通信事業者は設備投資せざるを得ない状況にあると思っています。ただし、価格に対する要求は厳しくなります。定額制の料金プランが各国で導入されていますので、トラフィックが5倍になっても事業者の収入が5倍になるというわけではありません。ということは、インフラ投資を低コストで行う必要がある。
この問題に対する1つの答えがLTEだと考えています。LTEになってインフラの値段が上がるかというと、逆に下がっている。これは技術論的に見て、下がる根拠があるということです。今まで必要だった基地局内の制御装置(RNC:Radio Network Controller)が不要で、回線もATMネットワークではなく完全にフラットなIPネットワークに接続できる。
3Gと同じ周波数帯域の幅でも、より多いトラフィックを収容できるというように、いろいろなところにコストが下がる要素があるわけです。
LTEは基地局の値段が同じであれば、従来のほぼ倍の加入者を収容できます。LTEへ移るということには、もちろんトラフィックの容量を上げるという効果はありますが、ビットあたりのコストを下げることもできるわけです。したがってLTEへの移行という点においては、世界経済の厳しい状況は必ずしもマイナスに働くのではなく、ポジティブに働く部分もあると考えています。ただ、我々には販売単価が下がるという影響があるでしょうね。
環境対応は上位ベンダーに課せられた使命
小津氏 弊社のW-CDMA基地局は世界シェアで33%を超えています。こういう会社の使命として、環境への取り組みは絶対にやらなければならない。例えば「基地局の消費電力を10%削減する」といっても、シェアの小さいベンダーがやるのと我々がやるのとでは重みが違います。エコに対する責任は非常に大きいと思っています。
3年ほど前の製品に比べて最新の基地局は、同じかそれ以上のトラフィックを処理しても30%低い消費電力で動作します。このような技術を大きな世界シェアのうえできちっと展開していくというのは、我々に課せられた重要な任務だと思っています。また、新興国では石油エネルギーで基地局を駆動することも多いのですが、ソーラーや風力などの代替エネルギーを採用することも、事業者やほかのベンダーなどと協力して取り組んでいます。
コアネットワークの設備では、消費電力そのものを削減することは基地局のそれよりも難しいのですが、同じ消費電力や設置スペースの中で処理能力を上げることで対策しています。最新のW-CDMA用パケット交換機には、既存の製品に比べ同じ消費電力でも10倍の処理能力を実現したものもあります。
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