5年後には確実に世界は変わり、ケータイは新たな成長期に入る──NTTドコモ 辻村清行副社長:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
2009年は、NTTドコモが2010年以降に展開予定の「スーパー3G(LTE)」を控えた重要な準備期間。そんな年に、ドコモはどのような戦略を持って臨むのか。そして携帯電話の可能性は今後どこまで広がるのか。辻村清行副社長のビジョンを聞いた。
LTE時代はソーシャルサポート分野など新市場が鍵
── LTE時代を見据えると、「アプリケーションをどうするか」というのは1つの課題です。特にグローバル市場で、LTEの必要性に足るアプリケーションやニーズが生まれるかは、その後の普及ペースにも関わる重要なテーマです。
辻村氏 (LTE時代の)具体的なアプリケーションとして、もちろん「動画が見られます」といったようなリッチコンテンツの世界はあるのですが、そういった機能的な要素だけではなくて、社会的な課題である「医療」「ヘルスケア」「環境問題」といったものに解決策を与えるようなモバイルブロードバンドのサービス展開が重要だと考えています。社会的な課題と向き合うアプリケーションがLTE上で広く普及すれば、“モバイルブロードバンド”の世界を実現する(社会的な)意義がまったく違ってきます。
── これまでのモバイル産業は、「携帯電話」の中で閉じていました。だから携帯電話業界とも言われていたわけですが、次の10年という視座に立つと、ドコモをはじめキャリアの事業領域は拡大していくわけですね。
辻村氏 ええ。ドコモとしても、新たな取り組みを強化しています。社内的な状況をお話ししますと、2008年7月にフロンティアサービス部を設立し、その中にソーシャルサポートサービスを開発するセクションを作りました。ここではさまざまなソーシャルサポートサービスをオープンOS上で実現するべく、検討と開発をさせています。
── ソーシャルサポート分野以外で、2009年以降重要になってくるアプリケーション領域はどのようなものでしょうか。
辻村氏 ソーシャルサポート分野以外ですと、大きく2つあります。
1つは(携帯電話を使った)パーソナライズと行動支援型のサービス。この最初の布石は「iコンシェル」ですけれども、レコメンデーションが1つの重要領域になります。ここでのポイントは、(ドコモの考える)レコメンデーションはサイバー空間だけでなく、リアルの局面でお客様がどう行動するかのデータを蓄積して、より適切な情報のフィルタリングを行わなければならないということです。お客様が迷惑に思わないレコメンデーションをしなければなりません。
私は「リアルとサイバーの融合」と言っていますけれども、リアルの局面での行動を(携帯電話が)記憶して、サイバーのコンテンツやサービスを用いて、再びリアルの行動に結びつく支援をしていく。こういったパーソナル化を進めるサービスが、重要領域の1つになっていきます。
2つ目は、「画面の連携」です。前回ユーザーのライフスタイルにおける重要な画面が3つあるとお話ししまたが、今後はその画面同士がシームレスに連携していくでしょう。例えば映像コンテンツでしたら、外出中に携帯電話の画面で見ていた映像の続きを、帰宅したら自宅の50インチのテレビで見る。お客様から見たら、そういう自由な(コンテンツやサービスの)利用環境が理想だと思うのですよ。
この実現の鍵になるのが、クラウドです。サーバ側で(コンテンツや権利処理を)コントロールして、端末は問わないようにしていく必要があるでしょう。お客様が自由に、その時々に使いたい端末で、シームレスにコンテンツやサービスを利用できるようにしていきます。2009年中にお客様にお届けできるのはその一部になるでしょうが、「クラウド」と「オープンOS」は、(LTE時代を見据えて)これから数年をかけて取り組むドコモの重要なミッションになります。
ドコモは「パートナーシップ重視」でビジネスを広げる
── これまでの10年を振り返りますと、「携帯電話」の中にモバイル産業のほとんどのリソースが集約し、キャリアはそのエコシステムの中心であり頂点という位置づけでした。しかし、今まで辻村さんが話されていたビジョンですと、こうした産業構造やステークホルダーとの関係も変わっていきそうですね。
辻村氏 変わるでしょうね。今後ドコモが目指す方向というのは、すべてドコモ一社で実現できるものではありません。今後は異業種も含めて他の企業と“横のつながり”を作っていく、パートナー重視の形になっていくでしょう。
例えば、「リアルとサイバーの連携」ですと、流通業の方々としっかりと連携していかなければなりません。コンテンツやサービスのクラウド型の連携では、放送業界やPC業界、家電業界とのつながりが重要になります。固定網インターネットや多くのネット企業、さらにITSでは自動車業界との連携をしっかり図っていかなければなりません。今後のドコモにとってパートナー作りは、とても大切なものになるでしょう。
── これまでの「携帯電話」という視点でも、メーカー各社は携帯電話事業部がドコモとパートナーシップを持つという形でしたが、今後は状況が変わりそうですね。メーカーの中でもさまざまな部署がドコモと接点を持って新ビジネスを創造する“横展開”が重要になりそうです。
辻村氏 そうですね。今後は、携帯電話メーカー内部で、TV事業やPC事業と携帯電話事業の共同作業が重要になってくるでしょう。
日本発で「インターネットが新たなレイヤーにシフトする」
── 2009年、日本経済全体は厳しい局面で年明けを迎えました。その中で、携帯電話ビジネスに関わるビジネスパーソンは、どのようなスタンスで新たな年に臨むべきなのでしょうか。
辻村氏 携帯電話には「本人性」「常時性」「位置情報」という大きな強みがあります。これらはほかのメディアにはなく、携帯電話が圧倒的な優位にある部分です。この3つを活用したビジネスやサービスは、まだまだ開拓すべき領域が膨大に存在します。
そして、(本人性・常時性・位置情報という)これら3つの特長は、今後のインターネットにおける可能性でもあります。これまでのインターネットはPCが中心の世界でした。しかし、ここに携帯電話などモバイルの特性が加わることで、インターネットの利便性や価値が、新しいレイヤーに上がる可能性があるのです。そのくらいの起爆力や変革力を、携帯電話を筆頭とするモバイル産業は持っています。私は「インターネットのモバイル化」だ考えています。
日本のモバイル産業が技術的に幸運なのは、LTEのサービスが、この2~3年のうちに身の回りに展開されるということです。LTEはFTTH並みの通信環境をモバイルで実現するもので、この通信インフラと、先ほどの(携帯電話の)特性を組み合わせることは、ものすごく大きな潜在力になります。
もちろん、世界的な景気というのは、消費者心理に大きな影響を与えるでしょう。我々のビジネスへの影響がまったくないとも申しません。しかし、それでもなお、モバイル産業は今の景況感の中で、とてもラッキーで幸せな業界だと思います。
── 携帯電話をはじめとするモバイルビジネスの革新は続いています。今を次の時代へのチャンスと捉えるスタンスが大切なのかもしれません。ユーザーの視点でも、新しいサービスや端末の登場に、期待していいのでしょうか。
辻村氏 多くのお客様の目から見たとき、今は確かに成熟感があると思います。最近では(携帯電話サービスやビジネスが)コモディティ化するリスクを指摘する声もありますが、私はそれほど悲観していません。なぜなら、携帯電話にはまだ多くの潜在力があるからです。技術革新は続いており、新たなサービスも次々と登場するでしょう。私たちの生活を、ケータイがこれからも変えていく。そういった大きなポテンシャルがあるのです。
これから先の半年や1年では実感しにくいかもしれませんが、5年後には確実に世界が変わっているでしょう。ケータイは新たな成長期に入るのです。そこに期待してください。
(完)
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