インタビュー

セカオワのアジア進出も支援 聴き放題の「KKBOX」がリアルな音楽事業も手掛ける理由(1/2 ページ)

台湾発の音楽聴き放題サービス「KKBOX」。日本を含むアジア6地域で1200万会員を擁する先駆者は相次ぐ新規参入をどう見ているのか? 主催する「KKBOX Music Awards」に合わせて取材した。

 成長鈍化が指摘されているスマートフォン販売だが、端末が世界的規模で普及し、通信環境も高速化したことで、スマホユーザー向けのコンテンツビジネスは拡大し続けている。


「The11th KKBOX Music Awards」に出演したSEKAI NO OWARI

 中でも2015年後半から新規参入が相次ぎ、市場を広めているのが定額制音楽配信サービスだ。「Apple Music」「Google Play Music」「Amazon Prime Music」といったグローバル陣営が国内でサービスを開始し、人気、規模ともに世界トップといわれる「Spotify」の日本上陸もうわさされている。

 そして「LINE MUSIC」「AWA」と日本発のサービスも次々と登場。「レコチョクBest」「dヒッツ powered by レコチョク」「うたパス」など既存サービスとの比較も注目された。

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 その中で独自のポジションを築いているのが、台湾を拠点とする「KKBOX」だ。2004年に設立された同社は、台湾でシェア8割を超える音楽配信サービスに成長。香港・マカオを足掛かりに海外進出をスタートし、現在はシンガポール、マレーシア、日本、タイの6つの国と地域でサービスを提供中だ。

「KKBOX」アプリ。シチュエーションや気分に合わせたレコメンデーション機能が充実している

もちろんジャンルやアーティスト別に聴き放題を楽しむことも

 同社は2010年12月にKDDIの連結子会社となり、翌2011年6月にKKBOXのインフラを使った国内auユーザー向けの「LISMO unlimited powerd by レコチョク」を開始した。しかしLISMOブランドではauユーザー限定のイメージが強く、国内でキャリアフリービジネスを強化する目的もあり、国内サービスもオリジナルの「KKBOX」へリニューアルした経緯がある。

 KKBOXが現在配信するコンテンツはレーベルが500以上、楽曲は2000万曲以上(国内は1500万曲)で、アジア圏のアーティストを多数ラインアップ。ユーザー数は2015年末時点で1200万人を超えるという。日本での月額料金は980円(税込)で、1カ月間の無料期間を設けている。


「KKBOX」のアイコン

 そして台湾ではライブなど音楽イベントの興行やチケット販売、音楽情報誌の発行といったリアルな音楽ビジネスも展開。年に1度開催する「KKBOX Music Awards」は、配信アーティストのアジア進出を支援するイベントで、6つの国と地域から人気のアーティストが参加。合わせて10カ国でテレビ放映やネット中継が行われている。2016年は1月23日に台湾・台北で行われ、日本からはSEKAI NO OWARIが出演した。


「The11th KKBOX Music Awards」に出演したSEKAI NO OWARI

「The11th KKBOX Music Awards」に出演したSEKAI NO OWARI

「The11th KKBOX Music Awards」に出演したSEKAI NO OWARI

「The11th KKBOX Music Awards」の会場となった台北アリーナ(Taipei Arena)

 音楽配信サービスの圧倒的な利用者数をベースに、リアルな音楽事業も展開するKKBOX。配信ビジネスが広まり音楽CDの売上が低迷するなか、音楽業界はライブやコンサートなどのイベント事業に回帰しているという。KKBOXは新しい音楽との出会いを聴き放題サービスで提供しつつ、イベントを主催しチケットを販売することでアーティストのパフォーマンスをじかに体験できる機会も用意している。

 では音楽配信サービスのライバルの増加でどんな影響があったのか、そしてこれからの日本とアジア市場の攻略にはどんな戦略が必要なのか。2016年のKKBOX Music Awardsに合わせて、創業者でもあるクリス・リンCEO、COOのアイゼロ・リー氏、シニアバイスプレジデントのジョセフィン・チャン氏に話を聞いた。

――(聞き手、ITmedia Mobile) 定額制音楽配信サービスには2015年後半から「Apple Music」「Google Play Music」「LINE MUSIC」「AWA」と新規参入が相次ぎました。ライバルが増えたことで、KKBOXのサービス展開にはどんな影響がありましたか。

クリス・リンCEO KKBOXは現在、6つの国と地域でサービスを展開しており、トータルのユーザー数は1200万人を突破しました。このうち有料会員は200万人です。ユーザー数はここ数年で確実に増えています。


KKBOXのクリス・リンCEO

 新規参入が増えたことで、市場が活発になりました。特に日本は定額制音楽配信サービスの普及が非常に遅れていると感じています。全世界の定額制市場は、台湾、韓国、スウェーデンがリードしているといわれています。特に台湾と韓国はスマホで音楽を楽しむユーザーの10%が、定額制サービスを利用しています。米国は5%、日本は2%以下ではないでしょうか。

 月間の平均利用額も日本は1000円程度。米国が5ドル、台湾・韓国はそれ以下です。日本と比べて他の市場では、店頭に並ぶ音楽CDなどフィジカルリリースされた音源の価格が半分からそれ以下。エリアごとの価格差もそれに沿ったもので、これは問題だとは思っていません。

 台湾・韓国は数十年前から海賊版の問題があり、現在はフリーミアムのYouTubeが人気ですね。それなのに10%以上の課金ユーザーがいる。こうした現状を見ていると、音楽に対価を払うことが根付いている日本で数%という規模はまだまだ遅れている。その反面、非常に大きなポテンシャルを持った市場だと思います。

―― 日本で定額制音楽配信サービスを拡大させるには、どんな点が重要になりますか。

クリスCEO ポイントは3つあります。まずはライセンスの問題、コンテンツをどこまで確保できるかです。現状、日本のオリコントップ100のうち、KKBOXで配信できるのはその4割くらい。果たして、洋楽やインディーズしか扱いっていないCD屋さんに客足を期待できるでしょうか。もちろん特定のニーズはありますが、大きな成長は望めません。ただあまり悲観していません。以前はもっと低い比率でしたから、今後もさらにライセンスできる楽曲が増えていくと思います。

 そしてビジネスモデル。Apple Musicはサービスのプレミアム感を全面に打ち出していると思います。そしてSpotifyはフリーミアムですね。こうした収益モデルが形になるまでには、非常にたくさんのチャレンジが必要です。そして常に軌道修正をかけていく。われわれも理想的な収益モデルを模索している段階です。

 最後がマーケティング戦略です。AWAやLINE MUSICが行ったキャンペーンは、その規模に見合った効果がでているとは思えません。ただ、失敗ではなかったと思います。市場が拡大中ですから、さまざまなチャレンジが必要です。その中で、結果が見えてくるでしょう。

 例えばLINE MUSICが始まる直前、プロモーションの規模感などが業界内部に伝わり、その本気度からかなりざわついたものです。しかし投下予算と獲得会員数を予測、分析すると、費用対効果は高くなかったと思われます。定額制の音楽サービスは、ゲームアプリのようなマーケティングが通用しない独特の業種といえるでしょう。

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