インタビュー

なぜ貼るタイプなのか? H.I.S.モバイルと日本通信に聞く「変なSIM」の狙いMVNOに聞く(3/3 ページ)

日本通信とH.I.S.の合弁会社、H.I.S.モバイルが、海外で利用できる「変なSIM」を発売。SIMカードに貼るタイプもあり、1つのSIMスロットで2枚のSIMを使える。この変なSIMの狙いを聞いた。

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フルMVNOに“一番乗り”したい

―― フルMVNOになれば、そこに日本の情報を書き込めるようになっていくのでしょうか。

福田氏 日本通信としては、フルMVNOを早く実現したいと考えています。後どのくらいかかるのかというところですが、公取委や総務省も動いている一方で、今現在いつからとはいえません。個人的にはIIJさんがフルMVNOといっているのは違うと思っていて、一番乗りしたいですね。

―― IIJがフルMVNOではないというのはどういう意味でしょうか。

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福田氏 フルMVNOといっても、音声機能が入っていないと意味がないと思います。フルMVNOの定義はさまざまですが、フルでできると考えるとIMS(IP Multimedia Subsystem)まで含めて実装して、VoLTEまで全部できることだと思っています。IIJさんはデータ通信に関してはHLR/HSSの接続をしていますが、それだけでは日本のお客さま向けとしては成り立たない。本来のフルMVNOは音声まで提供してとこそという思いは強いですね。まだ制度上の問題はありますが、機は熟しているので、われわれとしては早く実現したいと考えています。

―― 現状、日本向けの料金プランは別のSIMカードとして分かれていますが、この状況はいかがですか。

猪腰氏 微増で増え続けてはいます。もともと発表していたプランに変なSIMが特典として付くようにしましたが、そこは他社にはない点だと思います。MVNOの競争というと価格や通信量の大きさになりがちですが、海外に行こうとすると、そもそも国際ローミングができません。

 H.I.S.モバイルは、そこで戦うというより、海外に行くお客さまにどういうサービスを提供できるのかを考えています。もともとこういうふうに売りたかったのですが、延期、延期になり、7月までサービスができていませんでした。先ほどこれからスタートと申し上げたのも、そのためです。

貼るSIMが使えない端末もある

―― 端末によって、微妙にSIMカードスロットのサイズが異なると思います。実際に使えるかどうかの検証は、どうされているのでしょうか。

猪腰氏 一応させてはいただいていますが、Androidに関しては、全端末ではできません。iPhoneについては基本全端末で問題がなく、Androidは別のチームで数十台単位ではテストをしています。Androidもスロットタイプのものであれば、基本的に問題はありません。ただ、以前あったように、バッテリーの下にSIMカードスロットがあるようなタイプの端末の中には、厳しいものもあります。キャリア端末によっては微妙に仕様が異なることもありますが、1台1台までは検証できないので、ある程度見切り発車しました。

 とはいえ、ご迷惑はおかけできないので、入らない場合は責任を取るということで交換を受け付けています。ダメだったというものについてはリスト化しながら、情報提供していく予定です。

―― 実際、交換する人もいるのでしょうか。

猪腰氏 います。人によっては貼り方が悪いことがあり、iPhoneでもうまくいかないというケースもあるようですが……。今後は、マニュアルの更新などをして、一定水準まで、選んで失敗したと思われないところまでやって、普及させていきたいと考えています。

―― 変なSIMの店舗展開はどうお考えでしょうか。

猪腰氏 日本の主要店舗で、9月ぐらいに扱えるように段取りをしていこうと思っています。関東は何となくターミナル店に置こうという話はしていて、その先に関西や北海道などの政令指定都市を中心に、拠点を広げて在庫を持たせていくことを計画しています。ただし、まだどこにというのは正式には決まっていません。

200MB以上のプランや端末レンタルの提供予定は?

―― ちなみに、先ほど90%の主要な渡航先をカバーしているとおっしゃっていましたが、残り10%はどんな国になるのでしょうか。

猪腰氏 パッケージツアーで行くようなところだと、ドバイやサイパン、カリブ海などですね。渡航者数自体は少ないですが、一定数は行っているような国だと、モルジブなどがあります。また、アフリカが全般的にカバーできていないので、モロッコのような観光で人気のあるところでは使えませんし、南米もブラジルぐらいしかカバーできていません。

 割合にすると1%は行かない国でも、数にすると一定数は行っているということもあります。一律で500円という価格設定にしたので、やりにくい部分もありますが、将来的には、そういう国でも高ければプランがあるということもできると思います。

―― そういう意味だと容量の大きなプランも欲しいかなと思います(現在は1日200MBのみ)。

猪腰氏 仕入れの拠点が複数あるので、1社ができてもここができないとなると、一律の料金でできません。それが行けそうであれば磨きに行くことは考えますが、一方でプランを買い増せるようにするという方法もあると思います。今は低速になったときにプランを捨てて買い直す形なので、複数日のプランを買っているようなときは、買い直しができませんから。

 200MBは用途にもよると思いますが、確かにInstagramなどをたくさん使うと厳しいと思います。そういう使い方が多いような国や地域だけでも、500MBや1GBプランがあってもいいと思います。

―― 利用にはSIMフリー端末やSIMロックを解除した端末が必要ですが、持っていない人向けに、端末までセットにしたレンタルなどは考えていく予定はありますか。

猪腰氏 そもそもとして、SIMロック解除を普及させたいという思いもあります。SIMロックは本来なくてもいい機能で、乗り換えの障害にもなっています。なるべくならレンタルには逃げたくない。SIMロック解除のハードルが高いからレンタルをやりますというのは、ちょっと違うと思っています。

取材を終えて:貼るSIMのトラブルを防ぐのも大事

 設立時には海外向けのサービスがなく、目的と現実が一致していない印象もあったH.I.S.モバイルだが、変なSIMの提供を開始したことによって、旅行会社が手掛けるモバイルサービスらしくなった。MVNOのSIMカードで国際ローミングができない現状を考えると、貼るタイプのSIMカードはいいアイデアだといえる。今はSIMカードが付くだけだが、国内用のSIMカードを契約していると割引を受けられるといった特典があれば、頻繁に海外渡航をするユーザーには魅力的になるだろう。

 一方で、インタビュー中にも語られていたように、貼るタイプのSIMカードはSIMカードの厚みがわずかながら変わってしまうのが難点だ。端末によってはSIMカードが抜き出せなくなったり、スロットが破損したりする恐れもある。ユーザーの裾野が拡大した際に、トラブルにならないよう、店舗展開した際には注意が必要になりそうだと感じた。

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