iOS 12と新型iPhoneを取り巻く「Apple Pay」最新事情:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/3 ページ)
2016年10月に日本にもApple Payが正式上陸してから2年が経過した。Apple Payの登場は「モバイル決済」というジャンルに大きな変革を促した。そんなApple PayがiOS 12と新型iPhoneでどのように変化し、モバイル決済の世界にどのような影響を与えたのかをまとめた。
バックグラウンドでの「NFCタグ」読み込み機能がもたらすもの
Apple Payに関してだけでもiPhoneは世代ごとに地味な進化を続けており、iPhone XS/XS Max/XRではついに「NFC with reader mode」がサポートされた。これは「NFCタグをバックグラウンド動作で読み込める」機能で、挙動的にはNFC対応Androidスマートフォンのそれに近い。
このNFCタグ(RFIDタグ)を読み込む機能はiPhone 7以降の機種でサポートされているが、XSより前の世代では「NFCタグを読み取る機能を持ったアプリがフォアグラウンドで起動している」状態である必要があった。具体的にはiOS 11でサポートされた「CoreNFC」というフレームワークがあり、この仕組みを利用することでアプリ開発者はNFCタグの読み取り機能を自身のアプリに実装できる。
逆にいえば、OS標準では「タグを読み取って(記述されているURLでWebブラウザを開くなどの)アクションを起こす」機能を持っておらず、正直いってiPhoneの使い勝手を大きく変えるものではなかった。
だが「NFC with reader mode」に対応したiPhoneでは、幾つかかの条件付きながら「バックグラウンドでのNFCタグ読み取り」が可能になっている。詳細はAppleが公開しているサポート文書にあるが、ユーザーが意図しないタイミングで“バックグラウンド読み取り”が実行されないためだという。例えば、机に端末を置いただけの状態で勝手にタグ読み取りが発生してブラウザが起動したり、第三者がタグを利用して悪意あるサイトにユーザーを誘導したりといった事態を最小限に抑えるためだ。同社によれば、下記のケースではバックグラウンド読み取りが無効化されるという。
- ロック解除が行われていないデバイス
- Core NFCの読み取りセッションが既に進行中
- Apple PayのWalletを利用中
- カメラ機能を利用中
- フライトモードが有効化されている
現状で(Androidスマートフォン中心に)NFCタグがどのように活用されているかを列挙すれば、
- Bluetoothデバイスのペアリング
- NDEF(NFCタグの記述フォーマット)を使ったURLなどの情報へのアクセス
あたりに集約されるだろう。ペアリングはNFCの用途としてはメジャーなもので、Bluetoothヘッドフォンやスピーカー、その他インプット系デバイスなど、USBの有線接続を用いない場合に簡単にPCや周辺機器を接続する手段として用いられる。この他、車載システムではスマートフォン充電可能な充電台にNFCタグを仕込んでおき、自動的にカーオーディオと連動してスマートフォン内の楽曲ライブラリを再生できる仕組みも考案されている。
NFCタグはNDEF(NFC Data Exchange Format)でデータ記述方法が標準化されており、ここに情報を書き込むことでスマートフォンなどに読ませることができる。一般的にはURLを記述しておき、スマートフォンでタッチさせて特定のサイトに飛ばすといった使い方が多い。観光地での情報案内板の他、レストラン等でメニューの詳細を見る際に活用する方法がある。
応用例も幾つか検討されており、例えば駅や店頭のディスプレイにNFCアンテナを仕込んでおき、広告に興味を持ったユーザーがスマートフォンをタッチすることでキャンペーン情報やクーポンを入手できる仕組みだ。このあたりはQRコードでも代用可能で、実際に中国ではQRコード利用が全盛なこともあり、街の至る所にQRコードを埋め込んだ広告があふれている。
NFCタグの利用例。これは2010年からフランスのニースで実験されていた「Cityzi」と呼ばれる街のNFCプロジェクトでのデモストレーション。トラムの停留所でNFC対応スマートフォンをタッチすると最新の運行情報を入手できる
QRコードでは難しい用途での応用としては、ブランドワインの栓の部分にNFCタグを仕込んでおき、開封するとアンテナが断線してNFCタグが無効化されるというものだ。タグの情報で銘柄が保証される上、ボトル詰め替えによる偽物の流通防止効果などが期待できる。またiPhoneでは密着する距離でないと読み取れないが、読み取り装置のスキャン範囲を拡大することで数十センチからメートル単位での離れた場所での読み取りが可能になる。商品や荷物にタグを付与することで棚卸し作業が楽になる他、流通分野での検品で省力効果が期待できる。
ただ、この分野はこなれていないソリューションも多く、正直いって何が可能か未知数である部分が大きい。実際、MifareやFeliCaタグが登場してから20年近くが経過するが、いまだ有効な活用法が登場したとはいい難い。筆者がiPhoneでの「NFC with reader mode」サポートに期待するのもここで、多くの最先端デベロッパーの集まるiOSプラットフォームにおいて、「NFCタグを使って何ができるのか」の活用研究が進むのではないだろうか。
実際、モバイルNFCが求める「カードエミュレーション(CE)」「リーダ/ライター(R/W)」「ピア・ツー・ピア(P2P)」という3つの標準モードのうち、2つ(CEとR/W)を既にiPhoneではサポートしている。NFC対応といいつつも「厳密にはNFCではない」といわれてきたiPhoneのNFC機能だが、P2Pのソフトウェアでの対応も含め、あまり活用の進んでいないR/WとP2Pのアプリケーション開発をiOSデベロッパーがリードしていくことになるのではないか。
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