“通信と端末の分離”で何が起こる? キャリア、MVNO、端末メーカーへの影響を考える:MVNOの深イイ話(4/4 ページ)
5月17日に国会で可決された電気通信事業法改正は、「端末と回線の分離」「行き過ぎた囲い込みの禁止」「代理店届出制度の導入」の3つが主な柱です。これらの法改正により何が変わるのか? MVNOはどうなるのか? 端末と回線の分離と行き過ぎた囲い込みの禁止が与える影響をお伝えします。
5G時代に向けて考えなければならないこと
端末メーカーへの影響はどうでしょうか。端末メーカーは、MNOに頼ったビジネスがしづらくなることで大きな影響を受けるでしょう。特にAppleには廉価モデルがないことから多くの利用者に敬遠される可能性もあります。これまでiPhoneのシェアが高い日本は同社にとっては非常に重要な市場でしたが、今後は同社の中で日本市場が軽視される流れとなることも懸念されます。
反面、安価なモデルも充実しているSIMロックフリースマートフォン陣営にとってはAppleの苦境はチャンスとなるかもしれません。
このような流れで懸念されるのは5Gへの道筋です。SIMカードが導入されて以降、2Gから3Gへの移行、3Gから4Gへの移行と、携帯電話市場は2回の世代交代を経てきましたが、いずれのときも端末と回線は分離されておらず、MNOによる端末購入補助により利用者は大きな金銭的負担なくスムーズに世代交代を経てきました。
しかし、4Gスマホに比べ大きく値段が上がることが想定される5Gスマホへの移行は、端末と通信の分離により利用者に大きな痛みをもたらすことが考えられます。5GスマホがSIMロックフリースマートフォンとして広くオープンマーケットに流通し、市場競争によって価格が低下するのは、世界の5G移行が日本より大きく遅れるであろうことを考えると、相当先のこととなるでしょう。
5G推進はMNOのみならず日本のICT全体にとって至上命令ですが、利用者の負担が増える形でしか実現できないとしたら、うまくいくはずはありません。今後は5G普及に向けて、さらなる政策的対応が必要となるでしょう。
冒頭に述べたように、今回の議論は2018年11月に案が公表された「緊急」提言に端を発するもので、どちらかといえば長期計画ではなく、目先の競争活性化に重きが置かれたものです。しかし、その先には5Gに向けての道筋が必要となります。
総務省の有識者会議では、今回の法改正に続き、今後は5G、LPWA、eSIM、仮想化といった携帯電話市場の将来的課題を検討していきます。腰を据えた長期的なグランドデザインの策定に向け、MVNO業界でもできる限り協力していければと考えています。
著者プロフィール
佐々木 太志
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 事業統括部 事業統括課 担当部長
2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。
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