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総務省の「端末割引2万円まで」が業界に与える影響は? 残債免除プログラムとの整合性を考える石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

電気通信事業法の改正を受け、端末割引の上限を2万円までに定めた新制度案を総務省が公表した。割引の上限はドコモが3万円という水準を提案していたが、総務省案では根拠が不明瞭なまま、1万円引き下げられている。3キャリアが提供している残債免除プログラムは、一部見直しを迫られそうだ。

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 電気通信事業法の改正を受け、端末割引の上限を2万円(税別、以下同)、2年契約の解除料を1000円までに定めた新制度案を総務省が公表した。有識者会議では議論の進め方に異論が出たものの、既に省令案はパブリックコメントを受け付けており、原案通りの規制が実現する可能性が濃厚だ。もともと、割引の上限はドコモが3万円という水準を提案していたが、総務省案では根拠が不明瞭なまま、1万円引き下げられている。

 この制度が直撃することになるのが、各社が分離プランの導入に伴い、端末価格の負担軽減策として取り入れたプログラムだ。現状では、ドコモが「スマホおかえしプログラム」を、auが「アップグレードプログラムEX」を、ソフトバンクが「半額サポート」を導入している。ドコモは36回割賦のうち12回分を、他2社は48回割賦のうち24回分を免除する仕組みで、いずれも端末の返却が条件という点は共通している。

 一方で、端末割引の条件2万円が正式に決まると、アップグレードプログラムEXや半額サポートは、提供が難しくなる。スマホおかえしプログラムはグレーだが、関係者によると、「一部で上限に引っ掛かる機種が出てくるかもしれない」という。ここでは、その理由を解説するとともに、残債免除プログラムの行方を予想していきたい。

総務省
第15回「モバイル市場の競争環境に関する研究会」で、端末割引や2年契約の解除料の上限が決まった

「通信役務の継続利用を条件としない」が問題になるauとソフトバンク

 auとソフトバンクの残債免除プログラムは、ともに機種変更することを利用の条件に定めている。公正取引委員会の指摘を受け、同一プログラムへの再加入は必要なくなったものの、サポートを受けるには通信の契約は継続している必要がある。解約していても端末を返却するだけで割賦の支払いが免除される、ドコモのスマホおかえしプログラムとの最大の違いはここにある。

アップグレードプログラムEX
分離プランの導入に合わせ、割賦残債を免除するプログラムが導入された。写真はauの「アップグレードプログラムEX」だが、ソフトバンクの仕組みもほぼ同じだ

 総務省案では割引の上限を2万円に設定しているが、これはあくまで「通信役務の継続利用を条件としない」ときのものだ。回線契約や機種変更が必須の場合は割引そのものが禁止されるため、この条件に当てはまりづらくなる。そのため、最低限、2社とも機種変更しなくても残債が免除されるよう改定しなければならない。また、3社ともプログラム加入時に回線契約は必要になるため、残債免除プログラムが“割引”に該当してしまう場合は、ここも改定する可能性がありそうだ。

総務省
総務省
端末割引の上限を2万円に設定しているが、残債免除プログラムも、市場買い取り価格との乖離(かいり)が補助と見なされる
総務省
機種変更が条件になる残債免除プログラムは、見直しを迫られそうだ

 ただ、仮に機種変更の必要がなくなったとしても、その金額が問題になってくる。当たり前のことだが、半額分の残債が免除されるauやソフトバンクの方が、ドコモよりも免除される金額は大きくなりがちだ。この場合、中古買い取り価格の相場を上回っている分が「補助」と見なされるため、一般的には、免除される金額が大きいと2万円を超えやすくなってしまう。また、中古業者の買い取り価格は端末の需要にも左右されるため、不人気な端末ほど、買い取り価格が下がるため、補助と見なされる差額が大きくなりがちだ。

 大ざっぱにいうと、iPhoneであれば基準はクリアできそうだが、Androidは機種によっては2万円を超えてしまう可能性もある。総務省では、2万円を上限にする案を作成するにあたり、中古業者の買い取り価格の平均値を一例として公開しているが、やはりAndroidの方が、2年経過時の買い取り価格が低くなりがちだ。Androidの中でも、傾向としてグローバルモデルが高く、国内専用モデルは安くなる傾向にあることが分かる。

iPhone
総務省の公開した買い取り価格の一例。iPhoneの方が、より高いことが分かる

 総務省の資料では、Androidが全てドコモ版をベースにしているため、詳細はさらに変わってくることが予想されるが、仮に「Xperia X Performance」にアップグレードプログラムEXや半額サポートが適用されたとすると、発売日時点での価格である9万72円(税込、以下同)に対し、4万5036円の割賦が免除される計算になる。これに対し、中古買い取り業者5社の2年時点での買い取り価格は、平均値が1万8700円。差額は2万6336円(税別でも2万4385円)になるため、2万円(※2万円は全て税別)の上限を超えてしまっている計算になる。

 やや買い取り額が高い「Galaxy S7 edge」の場合も同様で、9万3960円の本体価格で半額が免除されたとすると、その金額は4万6980円になる。対する中古業者の平均買い取り額は2万3740円で、差額は2万3240円(税別でも2万1518円)と、こちらも上限の2万円を超えた補助が出ていると見なされる可能性が高い。

 一方で「iPhone 7(256GB)」は10万5624円に対し、割賦が免除される額は5万2812円だが、買い取り価格の平均が3万9500円になるため、差額は1万3312円(税別だと1万2325円)で、上限の2万円はクリアできている計算になる。上限いっぱいまで値引こうと思ったら、さらに7000円強、本体価格を直接割り引く余地も残されている。

本体価格 残債免除額 2年経過時の市場買い取えい額 差し引き
Xperia X Performance 9万72円 4万5036円 1万8700円 2万6336円
Galaxy S7 edge 9万3960円 4万6980円 2万3740円 2万3240円
iPhone 7(256GB) 10万5624円 5万2812円 3万9500円 1万3312円
Androidの場合、市場買い取り価格との差が2万円を超えるものが多い

 このように見ると、少なくともAndroidでは、割賦と免除する回数を減らす必要が出てくる。iPhoneとAndroidで条件を変える可能性もあるが、今と同じ条件でアップグレードプログラムを提供し続けるのは、難しくなりそうだ。

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