ドコモが「Amazonプライム1年間無料」で見据える先 ECを強化し、5Gへの布石に:石野純也のMobile Eye(2/2 ページ)
ドコモが、「ギガホ」「ギガライト」ユーザー向けにAmazonプライムを1年間無料とするキャンペーンを実施する。ドコモがこのタイミングでAmazonとの関係性を深めた背景には、競争環境の変化がある。Eコマースサービスが手薄だったドコモならではの事情も、Amazonと手を組んだ理由の1つといえる。
Amazonを引き込み、au・楽天連合やソフトバンクに対抗するドコモ
他キャリアに対抗する上でも、Amazonは強力な味方といえる。キャリアが回線契約を基盤にした経済圏を作ろうとする中、Eコマースのサービスは重要なピースの1つになりつつある。楽天市場で培った基盤を元に、通信事業に参入した楽天はその好例だが、ソフトバンク・ワイモバイルもヤフーと連携し、「Yahoo!プレミアム」を無料にしている。
一方で、KDDIは2016年にDeNAと共同運営していた「auショッピングモール」の事業を取得。DeNAショッピングを統合する形で、2017年に「Wowma!」(現・au Wowma!)を立ち上げている。さらにKDDIは、2018年11月に楽天との提携を発表。楽天モバイルにローミング用の回線を提供する代わりに、楽天の物流基盤を使ってau Wowma!の事業を強化している。ドコモ自身もdショッピングがマガシークを使ったdファッションなど、Eコマース事業を抱えているが、au・楽天連合やソフトバンクと比べ、見劣りしていたのも事実だ。
dショッピングなどとAmazonがバッティングしないかを問われた吉澤氏は、「もっと幅広い分野に渡るものという意味では、Amazonのサービスは魅力的」と回答。「ドコモの契約者にお使いいただくメリットは、大きなものがある。競合というのではなく、それぞれいいところを享受してもらう」(同)と語っている。自前のサービスが弱かったぶん、Amazonを引き込みやすかった側面は否定できないだろう。dファッションで扱っているファッション分野はAmazonが弱く、住み分けも成り立つ。
Amazonにとっても、Amazonプライムの拡販にドコモを利用できるのはメリットといえる。ドコモの担当者によると、「ドコモショップの店頭でもサポートしていくことになる」といい、リアルな接点を拡大した格好だ。Amazonプライムの料金は、「私どもが特典としてつけさせていただく」(マーケティング部長の野田浩人氏)ため、ドコモが負担する。ボリュームディスカウントなど、裏で何らかの割引が存在する可能性もあるが、Amazonにとってもメリットのある話といえそうだ。
完全定額が当たり前の5G時代に向けた布石、2020年には正式プラン化も?
とはいえ、AmazonプライムやDisney DELUXEとの連携は、あくまでキャンペーン。終了時期は未定だが、「デフォルトの料金プランを作ったわけではない」(吉澤氏)。現状では無料になるのも1回線、1年間のみだ。ただし、キャンペーンにはテストマーケティング的な意味合いもあり、好評なら正式な料金プランになる“昇格”する可能性もある。吉澤氏が「サービス、料金を少し融合した形でのプランは、5Gにつながっていく」と語っていたように、5Gではサービスをバンドルした料金プランが主流になるとみられているからだ。
その理屈はこうだ。5Gは、高速・大容量のため、「アンリミテッド(容量無制限)の料金が視野に入ってくる」(同)。実際、KDDIは5Gを先取りしたプランとして、容量無制限の「auデータMAXプラン」を投入しており、ドコモも5Gの導入に合わせ、ここに対抗する見込みだ。吉澤氏は、7月に筆者のインタビューに答える形で、ギガホの金額は「5Gが出たとき値づけがしやすいよう、ああいう設定になった」と明かしている。ただ、容量無制限が当たり前になると、他社との差別化がしづらくなる。ここで生きてくるのが、サービスのバンドルだ。
すでにauは「auデータMAXプラン Netflixパック」や「auフラットプラン25 NextflixパックN」など、Netflixの料金がコミコミになった料金プランを導入しているが、KDDIの高橋誠社長よると、「非常に調子がよく、解約率が下がっていく」効果があるという。普段利用するサービスをお得に使えることもあり、キャリアとの「エンゲージメントが上がる」(同)のがバンドルプランの効果だといえる。高速・大容量で享受できるメリットを、サービス名で分かりやすく示せるのも、バンドルプランの魅力だ。
Amazonには、Amazonプライムとは別料金の「Kindle Unlimited」や、「Amazon Music Unlimited」があり、連携を深めていけば、ドコモがこうしたサービスをバンドルプランで提供する可能性もある。ドコモも「dヒッツ」や「dマガジン」といった競合するサービスを抱え、ユーザー数も多いが、Amazonとはサービス内容やコンテンツでの差もある。
吉澤氏は「いろいろな場面、カテゴリーで何ができるかについては、可能性があると思っている。今後決めていき、決まった段階で発表する」と明言は避けたが、Netflixパックに「ビデオパス」を含めたauのように、自社サービスとセットにすることもありえない話ではない。現時点ではあくまでキャンペーンの1つだが、5G時代の布石という点で、注目しておきたい取り組みといえる。
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