新春対談/北俊一氏×クロサカタツヤ氏(前編):「分離プラン」と「端末値引きの規制」は正しい施策なのか?(2/3 ページ)
2019年は改正電気通信事業法(改正法)が施行され、モバイル業界でさまざまな動きがあった。2020年に5Gサービスが始まる中で、分離プランを軸としたルールは、本当にユーザー目線で考えられたものなのか。有識者として総務省での議論にも参加していた、北俊一氏とクロサカタツヤ氏に語っていただいた。
ソフトバンクの「半額サポート+」は問題の玉手箱
―― ソフトバンクの半額サポート+については、北さんが総務省の会合で「穴に落ちた」という話もされていました。あれはSIMロックの部分と、結局また買い換えないといけないところで拘束性があるということが引っ掛かったのだと思いますが、そこはどう考えていらっしゃいますか?
ソフトバンクが2019年9月に発表した残債免除プログラム「半額サポート+」は、他キャリアユーザーでも適用可能としていたが、分割で購入するので100日間はSIMロックを解除できないという問題をはらんでいた
北氏 あれはホントね、問題の玉手箱みたい。ありがたいサービスをぶち込んできてくれました。
クロサカ氏 正直、分かりやすかったですね(笑)。
北氏 あのときも発言しましたけど、わざと落ちてくれたんじゃないかなと。
―― そういうサービスが出てくるだろうということを、あらかじめ読んでいたんですか?
北氏 だってそうでしょう、ソフトバンクさんは、分かっていますよ。
―― 名前を変えたトクするサポートは、特に問題ないですか?
北氏 いや、あれも問題ですよ。買い換えが条件になっています。ソフトバンクさんが、半額サポート+の数週間前に、まず「2年縛りを止めます」というリリースを出した。
クロサカ氏 (2年契約のあるプランとないプランの)差額をゼロにしたんですね。
北氏 そのとき、すぐソフトバンクさんに、素晴らしい、よく無くしてくれたとメールしたんです。そう褒めた矢先に、「えーっ」となるプランが出てきました(笑)。回線で縛るのを止めて、端末で縛ることにしたんだなと。やっぱりソフトバンクさんは1枚も2枚も上手だと思ったんですけれど、謎のプログラム利用料があり、半額じゃないのにサービス名称が半額サポートだとか、SIMロックを解除できない100日間は使えないとか、それに買い換えが条件。これについては総攻撃を受けました。
―― 同様のサービス(アップグレードプログラムDX)を発表したauは結局止めましたね。ドコモ(スマホおかえしプログラム)と同じ条件にしました。どちらがよかったんですかね。
北氏 auさんについてはノーコメントです。ドコモさんはドコモさんの意志で、法を順守するというか、真面目にやっています。
―― ドコモらしいですよね。
北氏 かたやソフトバンクはソフトバンクですよ。常に抜け目なく、穴があればそこを突いてくる。そういうプレーヤーも必要なんですよ。今回は端末単体ならいくらで売ってもいいということなので、そこに早速乗り出してきたということ。むしろ、完全分離時代にどういうことが問題になるのかを浮き彫りにしてくれました。SIMロックは本当に必要なのか、これもまた年明けから議論することになります。問題を先に浮き彫りにしてくれるのでありがたいです。ソフトバンクはこのままでいてほしい(笑)。
クロサカ氏 ソフトバンクのアプローチに関して、SIMロックとそれに関連する短期間の拘束は、明らかにずっこけた話ではあります。ただ、端末を今後どのように販売してくのかということについては、一律に厳しい規制を設けるだけではなくて、もう少し議論されていいと思います。端末単体になってしまえば単なるモノなわけで、モノの売り方に対してどういう規制が適正なのかは、より一般原則を考える必要がある。
海外でそうしているから全てOKというわけではありませんが、例えばアメリカだと「iPhone Forever」あるいは「Galaxy Forever」というプログラムがあり、AppleもSamsungも、自社製品を使い続けてくれれば、いい条件を提示するアプローチを取っているわけです。あるいはクルマでは残価設定ローンの事例もしばしば引き合いに出されます。ただそれも、だからOKということでは必ずしもない。残価設定ローンに関しては、自動車業界においても、拘束性が強すぎるんじゃないか、1度そのブランドのクルマを買ったら事実上抜け出せない構造になっているのは消費者行政的におかしいんじゃないかという意見も、やはりあるわけです。
他の分野や海外の状況も参考にしながら、日本のユーザーにとって何が本当に適正なのか、消費者が本当にフラットなコンディションになっていくために何が必要か、議論が行われていくべきだと思っています。これまでの日本の通信産業のいびつなやり方を受けた後の現状ですから、それも踏まえて、今回で終わりではなく、状況やファクトを追いかけていくべきだと思います。
料金プランの値下げは「これで終わりじゃないですよね?」
―― 2019年は料金プラン自体も変わりました。特に変わったのがドコモだと思います。ただ、4割安くなったのはデータ容量が1GB未満のライトユーザーで、大容量プランは確かに安くはなっていますが、よく使う人には恩恵が少ないという声があります。各社の料金プラン自体はどう評価していますか?
クロサカ氏 基本的な考え方として、従来、高い通信料金を取って端末料金を補填(ほてん)していたような部分がありました。今回は、まず、そのいびつな構造を是正しようとしたわけです。それは裏を返せば、キャリアはそれによって「余剰原資がなくなるわけだから、通信料金を下げられるわけだよね」ということになるはずです。その意味では「北風と太陽」じゃないですけど、あまり批判せずに、まず「料金を下げてくれてどうもありがとう、これからももっとよろしくね」と太陽政策をやりたいなと(笑)。
逆に言うと「まさかこれで終わりってわけじゃないですよね?」という意味です。ただ、2020年に始まる5Gのサービスの味付けをどうしていくのかを、キャリアさんは考えていると思う。そこも含めて、例えばあえて4Gより5Gを安くするみたいな、韓国でやっているようなアプローチも、可能性としてはあり得ると思います。「消費者にちゃんと利益がより大きく還元されるようなことが、2020年の春以降出てくるんですよね」と期待しています。
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