“通信と端末の分離”で何が起こる? キャリア、MVNO、端末メーカーへの影響を考える:MVNOの深イイ話(1/4 ページ)
5月17日に国会で可決された電気通信事業法改正は、「端末と回線の分離」「行き過ぎた囲い込みの禁止」「代理店届出制度の導入」の3つが主な柱です。これらの法改正により何が変わるのか? MVNOはどうなるのか? 端末と回線の分離と行き過ぎた囲い込みの禁止が与える影響をお伝えします。
以前、こちらの連載でもお伝えしたように、2018年から進んでいる電気通信事業の「包括的検証」と呼ばれる見直しの中で、1つのエポックメイキングな法改正が5月17日に国会で可決成立しました。
この電気通信事業法改正は、2018年11月26日に案が公表され話題を呼んだ「緊急提言」にて示された論点を盛り込んだもので、「端末と回線の分離」「行き過ぎた囲い込みの禁止」「代理店届出制度の導入」の3つの柱からなっています。
その後、この法改正に伴う詳細を定める省令についての議論が行われ、現在は公表された省令案に対するパブリックコメントが6月21日から募集されています(7月22日まで)。既にこの件に関しては多くの報道がなされており、またネットでも大きな話題となっています。これらの法改正により何が変わるのか? MVNOはどうなるのか? 端末と回線の分離、行き過ぎた囲い込みの禁止が与える影響をお伝えします。
端末と回線の分離について知っておくべきこと
携帯電話の長い歴史の中で、通信サービスを契約することと、端末を購入することというのは、常にセットで行われるものでした。ただし携帯電話の黎明(れいめい)期には、昔固定回線でもそうだったように電話機は買うものではなくレンタルするものでした。
多くの利用者にとって、通信サービスを契約するのと同時に携帯電話会社から端末を買うことは当たり前だったのです。この2つの商取引を分離しよう、分割しようという試みは、2007年の「モバイルビジネス研究会」報告書でもなされ、その後も度重なるガイドライン策定が行われたのですが、その後も完全分離に向けた取り組みは一進一退という状況でした。
MNOは、依然としてメーカーから端末を大量に買い取り、それを利用者に自社ブランドで販売する際に通信料金の収益を原資に端末を大きく割り引いたり、利用者へのキャッシュバックを行ったりするビジネスモデルを強く残しています。
それに比べてMVNOは、大量の端末をメーカーから買い取るための通信料金からの収益がないことから、量販店でも売っている既製のスマートフォンを少数だけ仕入れて販売したり、SIMカードだけを利用者に提供したりするビジネスモデルで、MNOよりも分離がなされているといえます。この裏側の状況については、こちらの記事をご覧ください。
今回の法改正で、法律の施行日となる可能性の高い2019年10月1日以降、携帯電話会社はついに端末販売と通信サービスの分離を行わなくてはならなくなります。具体的に禁止されるのは、以下の行為です。
- 特定の端末を購入した利用者に対し、そうでない利用者に提供していない通信料金の割引その他の利益を提供すること
- 2年縛り等の拘束性の高い通信契約を結んだ利用者に限定して、端末価格の割引その他の利益を提供すること
- 通信契約を結んだ利用者に対し、2万円を超える額の端末価格の割引その他の利益を提供すること
この「割引」には、携帯電話会社が提供するものだけでなく、代理店が独自に行うキャンペーン等も含まれます。また、新規契約やMNP転入を条件とする端末の割引等も含みます。つまり10月1日以降は、例えば15万円のiPhoneを買う場合には、少なくとも13万円は利用者が負担する必要が生じる、ということです(縛りのないプランでも組み合わせられるセットの場合。2年縛りプランの利用者のみを対象としたセットでは15万円全額を利用者が負担)。
これまでのガイドラインでは「実質0円」が1つのボーダーラインであり、iPhoneであれば、若干古いiPhone8などのモデルは、条件等にもよりますが、新規契約やMNP転入の場合は自己負担なく買える場合もあったことから、10月1日以降は新しいスマートフォンを購入する際には多くの利用者が驚くことになるかもしれません。
この「利益の提供」の中には、ポイント還元や、例えば今使っているスマートフォンを市場の買い取り価格よりも有利な金額で下取ることなども含まれるとされていることから、利用者にとっては新しいスマートフォンを買いづらくなることも予想されます。
なお、この規律には、いくつかの例外が設けられています。まず、回線数が約100万を超えていない独立系のMVNOは適用除外となります(後でご説明する「行き過ぎた囲い込みの禁止」についての規定も除外となります)。
ただし、独立系でないMVNO(いわゆる「サブブランド」等)およびMNO(新規参入の楽天を含む)は、回線数を問わず対象となるだけでなく、これまでのガイドラインが対象としていなかったWiMAXのモバイルルーターやタブレットについても適用対象となります。
面白いところでは、2年縛りの利用者のみに限定した端末購入時の利益の提供は一切認められないのですが、青少年が利用する際のフィルタリングアプリだけは例外的に無償で提供することが許可されています。
多くのMVNOが提供している音声SIMなど、1年以下の最低利用期間を持つ自動更新でない通信の契約、あるいはMVNOのデータ通信専用SIMのように縛りのない通信の契約とのセットで端末を販売する場合は、2万円までの割引等を提供することが可能となります。
MVNOは、回線数が100万を超えている事業者は少数であり、また現状で2年縛りのプランを提供していなかったり、2万円を超える端末の割引を提供していなかったりする事業者が多いため、この規律によるMVNOへの影響は比較的軽微といえるかもしれません。その他にも、現行のガイドラインでも設けられている不良在庫端末やローエンドモデル等の特例、3G端末や周波数移行等への特例がありますが、詳細は割愛します。
関連記事
- 総務省の「端末割引2万円まで」が業界に与える影響は? 残債免除プログラムとの整合性を考える
電気通信事業法の改正を受け、端末割引の上限を2万円までに定めた新制度案を総務省が公表した。割引の上限はドコモが3万円という水準を提案していたが、総務省案では根拠が不明瞭なまま、1万円引き下げられている。3キャリアが提供している残債免除プログラムは、一部見直しを迫られそうだ。 - 総務省、施行前でも改正法に反したプランを縮小するようキャリアに要請
総務省が3キャリアに対し、改正法を円滑に施行するための要請を行った。改正法の趣旨に反する料金プランや販売手法は、施行前でも早急に見直すよう要請。新料金プランの周知も徹底するよう呼び掛けている。 - 解約金の値下げ、端末割引と長期利用割引の規制――総務省の新政策は何が問題なのか?
総務省が研究会で提案した「解約金1000円」「端末割引2万円まで」「長期利用割引の規制」は、寝耳に水という印象。「1000円」「2万円」という数字はいずれも根拠に乏しく、構成員からも疑問の声が多く挙がった。総務省が提示した制度案の問題点を整理する。 - 「解約金値下げ」と「端末割引の制限」、キャリアはどう考える? ドコモ料金制度室長に聞く
総務省の有識者会議で、2年契約に関する話題が議論されている。この会議で、端末購入補助について踏み込んだ提案をしたのが、NTTドコモだ。同社は上限を3万円までと明記し、その根拠も明かした。なぜ3万円なのか? 解約料の値下げも含め、ドコモの料金制度室長の田畑智也氏に話を聞いた。 - 「2年契約の解約金1000円」「端末割引2万円まで」の根拠は? 総務省に聞く
総務省が6月11日に開催した有識者会議で、2年契約の解約金を1000円にすること、端末の割引額を2万円までにすることを提案した。「1000円」と「2万円」の根拠はどこにあるのか。総務省の料金サービス課に疑問点を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.