音声で買い物ができる「Vコマース」のインパクト 日本でどこまで普及するか(1/2 ページ)
キャッシュレス決済を加速させる手段として、海外では音声で買い物ができる「Vコマース」が注目を集めている。2020年1月に全米小売業協会が開催した「NRF2020」でも、Vコマースは大きく取り上げられていた。日本の小売業界の課題を踏まえ、Vコマースがどのようなインパクトを与えるのかを解説する。
国内では、政府によるポイント還元を追い風にいっそうの盛り上がりを見せているキャッシュレス決済だが、それを加速させる手段として、海外ではVコマース(音声を活用したインターネットショッピング)に注目が集まっている。
2020年1月にNational Retail Federation(全米小売業協会)が開催した「NRF2020」では、膨大なデータをAIによって分析し、顧客体験や業務オペレーションをデジタル変革する技術などが取り上げられていた。その中でもVコマースは、Amazon Payが連日講演したり、スターバックスが音声オーダーシステムを高度なパーソナライズ手段として紹介したりと、2019年と比較して大きく存在感を増していた。
本記事では、日本の小売業界の課題を踏まえ、Vコマースがどのようなインパクトを与えるのかを解説する。
Vコマースの仕組みは?
まず、Vコマースの仕組みについて触れたい。
Vコマースで用いるボイス決済は、声紋認証技術を活用した決済手段だ。声紋認証とは、人の身体的特徴から個人を認証する生体認証(バイオメトリクス)の1つで、人の発声を時間(横軸)と声の周波数(縦軸)のグラフで示す。これらを示したグラフは声の特性を示す横じま模様の「声紋」として表示する。この声紋から話者の声の特徴を抽出し、話し方やイントネーションなどの特徴をあらかじめ登録したデータと照合することで、個人を特定する技術である。
既に英大手銀行HSBCでは、テレフォンバンキング上で声紋認証を実用化しており、入電後にPINコードを入力せずに残高照会や送金、公共料金の支払い等の各種取引が声紋認証で行える。国内でも、クレジットカード大手のJCBでは電話問い合わせ時の本人確認の省略に向けて声紋認証の実証実験が行われるなど、実用化段階まで来ている。
NRF2020から見えた未来の決済の姿
Amazon Pay副社長のPatrick Gauthier氏は、NRF2020の講演「How voice and other AI-powered experiences are reshaping retail(Vコマースやそれを取り巻くAI技術を活用した体験が小売業にもたらす変革とは)」の中で、「消費者の決済手段は、Web決済、モバイル決済へと進化を遂げ、2017年から決済手段として新たに音声が登場した。現在、米国の消費者の20%、すなわちイノベーター層とアーリーアダプター層は既にVコマースの利用意向を示していることから、今後の市場拡大を確信している」と明言した。
英OC&C Strategy Consultantsによると、Vコマース市場は毎年拡大を続け、米・英国合算の2022年の消費額は、2017年比で約22倍の450億ドル規模まで拡大すると発表している。
Vコマースが急速に拡大している背景には、「サイトにアクセスして目当ての商品を探し、比較検討し、決済方法を選択する」というネットショッピングの消費行動を簡潔にしたいというニーズがある。Patrick Gauthier氏は「近い将来にVコマースを利用したい理由の1位は、『easy to use(=欲しいものを簡単に探せて買えるから)』だ。タイピングが早い人でも1分間に65~75文字くらいだが、ニューヨーカーは1分間に175文字は発する。発声によってアクションする負荷を大きく下げることができ、2倍以上のスピードで情報を伝えることができる」と話す。
Amazon Payが2019年に米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、日本、インドで約1万人に実施したアンケート(Amazonユーザー以外を含む)で、「今後3年間でボイスを買い物のどの場面で利用したいか」という設問では、商品検索、比較検討、購入後の商品追跡についてニーズが高いという結果が出ている。
さらに驚くべきことに、「3年後、商品の購入手段はどのように変化するか」という設問に対し、オンライン59%、Vコマース21%、実店舗11%、他9%と、実店舗よりもVコマースを通じた買い物の割合が高くなるという結果が出ている。
米国はITテクノロジーの普及が日本より3年進んでいるといわれているが、デジタルツールの普及や消費者の購買行動の変化からも、今後、国内市場でVコマースが普及することがうかがえる。
日本の小売業界が抱える課題と、Vコマースへの期待
このように海外で注目を浴びているVコマースだが、日本ではどうか。国内で想定される課題とVコマースの可能性についても考察していく。
Vコマースは大きなくくりではECに含まれるが、国内のEC化率は6.2%であり、中国20.4%、米国11.8%と比較すると低い(2018年経済産業省調べ)。その要因は多々あるが、中でも「実店舗が充実していること」と「高齢化の進行」の2つが考えられる。
店舗については、デジタルツールの普及がさらに進むことによって、消費者とのタッチポイントは多角化していくことが想定される。その中で、事業者は商品が届くまでのリードタイムの短縮や返品対応を受け入れるなどの現状改善に加えて、消費者のニーズに合わせた新たな顧客体験を提供していくことが求められていく。
そのためにカギを握るのが「Generation Z(Z世代)」だ。1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代(年齢で言うと13歳の中学生~22歳の大学生くらい)のことを指し、「ソーシャルメディアの活用」が他の世代にはない購買行動の特徴だ。ソーシャルメディア起点で商品を探し、情報を収集し、決済までをオンライン上で行うことも多い。ソーシャルメディア上の膨大な情報の中から自身に合った商品を検索する、スマートフォン上で検索から決済まで完結する、といった場面でもVコマースは有用だ。
Vコマースを浸透させていくためには、高齢者層への対応が課題となる。高齢者にとって、店舗に出向いて日用品を購入し、持ち帰ることは身体負荷が高いが、話すことで注文ができれば、日々の暮らしを大きく変える可能性がある。ただし、音声認識精度の向上や、高齢者層への注文方法のレクチャーなどが必要になることから、普及にあたっては国や事業者による支援が必須だ。今後、日本以外の先進諸国でも高齢化が進むことを踏まえると、成功したケースを海外に展開していくなどのリードケースにもなり得るだろう。
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