「最低限の“ギガ”を最小限のお金で」 IIJmio「eSIM」正式プランの狙いと課題:MVNOに聞く(1/3 ページ)
2019年7月からβ版としてeSIMのサービスを展開してきたIIJが、正式版の料金プランを打ち出した。新たに登場した「データプラン ゼロ」は、プリペイド的に利用できるのが特徴。データ通信を全く使わない月は、わずか150円で維持できる。このデータプラン ゼロの戦略を聞いた。
2019年7月からβ版としてeSIMのサービスを展開してきたIIJが、ついに正式版の料金プランを打ち出した。既存の料金プランの1つをそのままeSIMに適用したβ版とは打って変わり、新たに登場した「データプラン ゼロ」は、プリペイド的に利用できるのが特徴。データ通信を全く使わない月は、わずか150円で維持することが可能だ。初回の1GBは300円(税別、以下同)で、基本料と合わせて450円。以降、1GBごとに450円と、1GBあたりの単価も割安に抑えている。
このデータプラン ゼロで狙うのは、大手キャリアの“2回線目”だ。大手3キャリアは、データ量に応じて料金が変動する段階制プランを導入しているが、この2回線目としてデータプラン ゼロを設定すれば、トータルで料金を下げることができる。データ量が足りないときに追加で購入するときも、大手キャリアは1GB=1000円が相場。データプラン ゼロであれば、その半額以下で1GBを追加できる計算だ。
一方で、格安SIMとして展開するIIJmioは、あくまで主回線として使われることを目指している。なぜ、データプラン ゼロでは、副回線狙いの戦略に転じたのか。正式プランとはいえ、選択肢が1つしかないのも気になるポイントだ。IIJとして、コンシューマー向けのeSIMをどう育てていくのか――。同社の執行役員 MVNO事業部長(インタビュー当時はMVNO事業部長)の矢吹重雄氏と、MVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏にお話を聞いた。
“大容量”以外のところでiPhoneユーザーを狙いに行く
―― 最初に、データプラン ゼロの狙いを教えてください。
亀井氏 β版のときは、月額料金そのままでeSIMを使ってもらえるよう、既存のプランの延長線上に6GBのプランを建てつけました。ただ、マーケットを見ると、3キャリアのiPhoneを使う人がかなりいる。そこを狙いに行かないのは、普及を図る上でもったいない。その人たちに使ってもらいやすいのは、どういうプランかを考えました。大容量は大手キャリアの得意分野なので、それ以外の追加で使う部分を仕立てていったら面白いと考えました。まずそこを狙うというのが、正式版で決まったことです。
その上で、都度チャージしていくのがいいのか、階段式に上っていくのがいいのか、プリペイドがいいのかを考えました。非常用のサブ回線を狙うのであれば、少額だけいただいて回線を保持していただき、追加の部分として最低限の“ギガ”を最小限のお金で買えるのがいい。そんな副回線狙いとして、改めてプランを作ってみました。当初は主回線としてもいけないかという狙いもありましたが、副回線に徹した方がいいということで、今のプランを作っています。
―― β版も残しています。その心は?
亀井氏 主回線として使っている方がいるのと、毎月チャージするのが面倒という方がいるからです。β版は最終的に、今の3GB、6GB、12GBにマイグレーションするのが一番キレイではないかと思ってこういう形にしています。
―― ということは、今後、3GBのミニマムスタートプランや、12GBのファミリーシェアプランが出る可能性もあるということですね。
亀井氏 いくつかの階段を作りたいとは思っています。ただ、電気通信事業法改正以降、正しい値段できちんと勝負しなさいという(総務省の)メッセージを踏まえると、どこかの段階でメニューそのものを改正する可能性もあります。eSIMを今のプランに吸収させるのか、新しいプランに吸収させるのかという議論はあると思いますが、βを外すときは、階段があるプランでもプラスチックのSIMとeSIMのどちらかを選べるようにするのが自然だと思います。
矢吹氏 キャリア(MNO)の動きを見ていくと、そろそろ1世代前のサービスとして捉えるべきなのか、逆にキャリアが大容量に移っていく中で、(今の低容量プランを)1つの市場として捉えるべきかを、ちょうど今議論しているところです。当初のユーザーはSIMロックの解除が自分でできたり、SIMフリーの端末を使えたりする人で、こういう人たちのことを社内では「堂前チック」(「IIJmioミーティング」や「てくろぐ」でおなじみの広報部副部長兼MVNO事業部シニアエンジニアの堂前清隆氏のこと)と呼んでいるのですが――。
―― ちょ、堂前チック(笑)。
矢吹氏 (笑)。そういうところからスタートした市場ですが、だんだんとMVNOが一般の方に普及していった。その市場がそのまま続くのかどうかは、今年(2020年)いっぱいかけて見ていきます。大手キャリアの傘下になるMVNOもあり、いろいろなところからお金が苦しいという声も聞こえてきます。料金とのバランスが取れなくなっているのではないでしょうか。格安SIMというマーケットをどういう形にしていくかを、考えなければいけないと思っています。
5G SA(4Gとはコアネットワークを共有しない、スタンドアロン方式の5Gのこと)が始まれば、コスト構造は変わりそうですが、まだ数年先の話です。そこまでどう工夫していくのか。今年も卸料金が公開されましたが、そこを見据えながら、大胆なものが作れるのか、工夫の範囲でしかできないのかは見極める必要があります。
「休止」を可能にするとコスト効果がない
―― 使わない月が150円というのは、かなり攻めている金額だと思いました。
亀井氏 ギリギリまで攻めてみようと思ったところです。
―― 一方で、フルMVNOの場合、ライフサイクル管理として休止もできます。これを取り入れなかったのはなぜでしょうか。
亀井氏 休止にして、プロファイルもゼロにしてというのはありますが、月中にそれをやってしまうと、コスト効果がありません。確かに法人側には休止のプランがありますが、あれは複数回繰り返すケースを抑止しています。例えば9カ月間ぐらいの長期に渡って工場を止めるというときに休止できるようにしていますが、1カ月の間でバタバタと変えられてしまうと、対応ができません。
―― なるほど。個人と法人だと、そもそものスパンが違うということですね。ところで、金額設定ですが、最初の1GBが300円、以降450円というのが、少し分かりづらいと思いました。あれは要するに、基本料の150円と合わせて、使ったときは必ず1GB=450円になるということですよね。
亀井氏 はい。デポジットというか150円分をちゃんとギガに換えてあげたいということで、最初の1GBは300円にして、合計で450円になるようにしています。使ったときに、ちゃんとお得になるようにしておきたかったというのがその理由です。
関連記事
IIJmioがeSIMの正式プラン「データプラン ゼロ」発表 月額150円+1GBごとにチャージ
IIJが、「IIJmio」向けeSIMサービスの正式プラン「データプラン ゼロ」を3月19日から提供する。必要な分だけ高速データ容量をチャージする仕組みを採用。月額料金は150円で、最初の1GBは300円、以降は450円でチャージできる。eSIM市場を広げて、キャリアからの開放へつなげたい IIJmio「データプラン ゼロ」の狙い
IIJが、eSIMサービスの正式プランとして「データプラン ゼロ」を提供する。β版で出たユーザーからのニーズに応えるべく、必要に応じてチャージするスタイルを採用した。eSIM市場を広げ、より幅広いユーザーに使ってもらうことを狙う。なぜβ版でスタート? 独自プランは? IIJに聞く「eSIM」戦略
国内のネットワークを使った初のeSIMサービスが、IIJから登場した。当初はβ版という位置付けで、料金プランは月額契約が必要な「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」のみ。なぜ、このタイミングでコンシューマー向けサービスの提供にかじを切ったのか?キャリアの脅威になる? IIJmioの「eSIM」が業界に与えるインパクト
IIJは7月18日から、個人向けのeSIM対応データ通信サービスを開始する。6GBプランしかなく、対応端末も限られるが、オンラインで気軽に“2回線目”を追加できるのは魅力だ。サービス詳細や、市場に与えるインパクトを検証する。ソラコムがコンシューマー向けeSIMサービスを提供する狙いは? 玉川社長に聞く
ソラコムが、コンシューマー向けeSIMサービス「Soracom Mobile」を提供開始した。iPhone用にアプリを提供しており、プランの購入からプロファイルの発行までを、端末内で完結できるのが特徴だ。IoT向けの回線を提供してきた同社が、なぜこのタイミングでコンシューマー向けのサービスを提供するのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.