eSIM市場を広げて、キャリアからの開放へつなげたい IIJmio「データプラン ゼロ」の狙い
IIJが、eSIMサービスの正式プランとして「データプラン ゼロ」を提供する。β版で出たユーザーからのニーズに応えるべく、必要に応じてチャージするスタイルを採用した。eSIM市場を広げ、より幅広いユーザーに使ってもらうことを狙う。
IIJ(インターネットイニシアティブ)が、3月19日から「IIJmio」向けeSIMサービスの正式プラン「データプラン ゼロ」を提供する。毎月6GBの高速データ容量(クーポン)が付くβ版の「ライトスタートプラン」と異なり、必要に応じてチャージして使うのが大きな特徴だ。正式サービスは、なぜこのような設計になったのか。3月17日に開催した発表会で、MVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏が説明した。
男性や20代のユーザーが通常よりも多い
2019年7月に開始したβ版のeSIMサービスは堅調にユーザー数を伸ばしており、2020年2月時点での契約数は1万4000に上る。eSIMユーザーのうち、74%がIIJmioを利用したことのない新規ユーザーで、eSIMという新しい技術に興味を示して申し込んだ人が多いことがうかがえる。
男女比は男性が約90%で、通常のIIJmioよりも男性比率が高い。年齢層は20代が通常よりも多く、「eSIMということもあって、新しいことに興味がある、若い方が飛びついてご利用いただいたのでは」と亀井氏はみる。利用端末は「iPhoneが圧倒的に多い」とのこと。
「プリペイドのように使いたい」という声も
β版を提供したことで、eSIMに対して想定以上のニーズがあることを確認できたが、その一方で、月に6GB固定なので「これまでのIIJmioとの違いがない」「6GBもいらない」という声や、「プリペイドのようなスタイルで利用したい」というニーズがあることが分かったという。そこで新たな使い方ができるよう、新プランでは1GBごとにチャージをするスタイルを採用した。
SIMロック解除の規制が緩和されつつあることも、IIJは追い風だと捉えている。IIJmioのeSIMは、対応機種でもSIMロックを解除しないと使えないが、「うまく伝わっておらず、SIMロックを解除せずに申し込んで、後から(解除方法など)対応するケースも多かった」(亀井氏)という。
料金は月額150円をベースに、1GBのチャージで300円、2GB以降のチャージで1GBごとに450円が加算されていく。月額料金は1GBで450円、2GBで900円、3GBで1350円、4GBで1800円という具合だ。ここで勘のいい読者はお気付きかと思うが、ライトスタートプランは月額1520円で6GBを使えるので、毎月4GB以上をコンスタントに使うのならライトスタートプランの方がお得だ。
ライトスタートプランも継続して提供するので、ユーザーは利用スタイルに合わせてプランを選べるので、どれだけの容量を追加したいかによって、プランを選ぶといいだろう。
サービス名から「β版」が取れたが、これは物理SIMで使える「SIMの追加」や「データ容量のシェア」などの機能をeSIMにも取り入れる、というよりは、むしろ物理SIMとは差別化を図った正式プランという位置付けになる。チャージした容量を使い切ると通信不可になる、チャージした容量の有効期限は当月末(ライトスタートプランは3カ月後)など、正式版の方がスペックでは劣る面もあるので注意したい。
キャリア回線と一緒に副回線として使ってほしい
ライトスタートプランでは新しい技術に興味があるSIMフリーユーザーをターゲットとしていたが、データプラン ゼロでは、キャリアでiPhoneやiPadを使っている層をターゲットにして間口を広げる。キャリアの回線は使い続け、eSIMは副回線として使うスタイルだ。
データプラン ゼロは、あくまで主回線のデータ容量が足りなくなったときに使うことを想定しているため、大容量の利用には向かない(そもそも月間10GBまでしかチャージできない)。IIJmioのeSIMではSMSや音声通話は利用できないため、そもそも主回線として使うのは厳しい。
ただし副回線としてはお得といえる。大手キャリアだと1GBのチャージに1000円かかるが、IIJmioのeSIMなら1GBあたり300円か450円なので半額以下で済む。また、大手キャリアの段階制プランでは、最低容量の1GBから2GBに切り替わると、料金が1000円〜2000円上がるため、ライトユーザーならキャリアのプランは1GBにとどめて、超過する分はIIJmioのeSIMで賄うという使い方も有効だ。
「iPhone XS」以降のiPhoneは物理SIMとeSIMのデュアルSIMに対応しているため、データ通信は必要に応じてキャリアとIIJに切り替えられる。
販路も拡大し、IIJのWebサイトだけでなく、ビックカメラ、コジマ、ソフマップでの専用パッケージを販売する。SIMロック解除やプロファイルのインストールを含め、eSIMを利用するハードルは初心者にとって高い面もある。そうした部分を実店舗でフォローすることでも、利用者の裾野を広げていく考えだ。
キャリアにはeSIMを開放してほしい
MVNO事業部長の矢吹重雄氏は、キャリアと同じ設計のサービスだと「つまらない」と言い、独自のサービス設計にこだわる。eSIMのサービスは、今回の新プランを皮切りに順次拡大していく。矢吹氏は、データプラン ゼロでeSIM市場を広げていき、「4キャリアに対してeSIM(のプラットフォーム)を開放してほしいところを訴えていきたい」と話す。
楽天モバイルを除く3キャリアは、国内のスマートフォン向けeSIMサービスの提供にはいまだ消極的で、MVNOへの開放も進んでいない。だが、対応機種やユーザーが増えてeSIMが当たり前の存在になれば、その状況を変えるかもしれない。
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