MVNOが“VMNO”になると何が変わるのか? 商用時期や料金は? IIJ佐々木氏に聞く:MVNOに聞く(1/3 ページ)
MVNOの次の在り方として、「VMNO(Virtual Mobile Network Operator)構想」を提唱、リードしている1社がIIJだ。“真の5G”とも呼ばれるSA(StandAlone)方式では、5G専用のコアネットワークで運用され、通信の役割ごとに仮想的にネットワークを分ける「ネットワークスライシング」が可能になる。これを活用して柔軟な運用を可能するというのが、VMNO構想の中心にある。
大手3キャリアが5Gの商用サービスを開始する中、MVNOも、既存の枠組みとは異なる新たな形態を模索している。MVNOの次の在り方として、「VMNO(Virtual Mobile Network Operator)構想」を提唱、リードしている1社がIIJだ。VMNO構想は、MVNO各社が集う業界団体のテレコムサービス協会を通じて、総務省の研究会などでも提案されている。
現状でスタートしている5Gは、4Gのコアネットワークを使いながら無線部分だけを高速化するNSA(Non-StandAlone)方式。これに対し、“真の5G”とも呼ばれるSA(StandAlone)方式では、5G専用のコアネットワークで運用され、通信の役割ごとに仮想的にネットワークを分ける「ネットワークスライシング」が可能になる。このネットワークスライシングを活用し、MVNO以上に柔軟な運用を可能するというのが、VMNO構想の中心にある。
MVNOとVMNOでは、アルファベットの「M」と「V」の位置が入れ替わっただけだが、事業者が実現できるサービスの範囲は大きく異なるという。では、具体的に、MVNOがVMNOになることで、どのようなことが実現できるのか。IIJのMVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長の佐々木太志氏にお話を聞いた。
VMNOは「進化」というより「革命」
―― 最初に、そもそもVMNOとは何なのかということを佐々木さんからご説明していただけないでしょうか。
佐々木氏 もともとは100ページぐらいある欧州の政策ペーパーで提唱されたものです。欧州のシンクタンク「CERRE」が欧州委員会に提出したペーパーの中で、5G時代に欧州がグローバルでリーダーシップを取るにはどうすべきかといったことが書かれています。(欧州の)自画自賛ですが(笑)、2Gは欧州発で規格が進み、米国初のCDMAを駆逐する形になりました。欧州のベンダーもそこに乗り、各国政府も投資をした。そのモデルがなぜ4Gでうまくいかなかったのかというところに、彼らの問題意識があります。われわれから見ると、少し他人ごとなところもありますが。
その論文には、途中から、5Gでのリーダーシップを担う2つのモデルがあるということが記載されています。1つが4Gをそのまま進化させていく路線。LTEのダメだったところを直すという、エボリューション(進化)シナリオです。もう1つがレボリューション(革命)シナリオで、VMNOはその中に出てきます。
ここで書かれているのは、次のようなことです。今の4Gは通信事業者の数が非常に少なく、ビジネス開発が進んでいかない。インダストリー(産業)に受け入れられるには、各インダストリーに特化した形で作らなければいけない。そのためには、オペレーターの数をもっと増やさなければなりません。5Gでスライスが出来上がったとき、そのスライスを活用する仮想事業者が考えられます。
幅広いAPIが標準化できれば、多様な事業者が参入してくる。MNOのB2B部隊がブロードバンドのSIMを売るのではなく、ソリューションに特化したり、インダストリーが自分たちに向けたモデルを作ったり、間にSIerが入ることもある。5Gの利活用に特化したオペレーターが増えればインダストリーでの活用が進み、それを欧州が政策的に実行することで、リーダーシップが取れるのではないか。
ただし、この論文は欧州でもまだ議論の段階です。今の欧州は、それどころではないですからね。MNOにどう周波数を割り当て、設備投資をさせるのか。設備競争にどうやって火をつけるのかというところが始まったばかりで、彼らから見ても、(VMNOは)一足飛びの議論に見えていると思います。論文を書いた助教授とは、リアルでもバーチャルでもお話をしていますが、置かれている状況は日本に近いと思います。
日本でも、5Gのユースケース開発は、漢字が違いますが各社が「きょうそう」(ドコモは協創、KDDIとソフトバンクは共創)をいろいろとやっている中で、まだMVNOは参入していません。たまたま新型コロナでテレワークやリモート学習がフィーチャーされていますが、それが2、3年後にキラーアプリたりえるのかは、まだまだ分からない。日本においても、MVNO自身がソリューションを持っているということを政策的に訴えていく、場合によってはそのころに設備ができた欧州と一緒にやっていくには、われわれも巻きを入れていかなければなりません。そんな話をし始めたのが2019年で、今年(2020年)から来年(2021年)にかけてが転換期になると思い、議論を続けています。
―― VMNOとは、具体的に言うと、5Gのコアネットワークで実現するネットワークスライシングのスライスの1つを使うという理解でよろしいでしょうか。
佐々木氏 5Gのスライスを利活用する中で、MVNOにスライスを出し、MVNOごとに品質を分けていき、あるMVNOの品質が他のMVNOに影響しないという応用モデルは、2017年、18年ごろから聞こえてきました。IIJ向けのスライス、OCN向けのスライスを作るというのが、それです。ただし、それはあくまで1社ごとにスライスを切るという発想から抜けていません。
僕らが要求しているのはそういうことではなく、5GのコアネットワークがQoS(Quality of Service、品質保証の意)を達成でき、それがイノベーションを生むのであれば、僕らのために必要な分だけスライスをくださいということです。例えば、APIをたたいたら15分後に新しいスライスを使えるようになっているような、今で言うとAWS(Amazon Web Service)に近い世界観です。そういう世界観でキャリアのネットワークを、リアルタイム性の高い形で使えるようにしてほしい。今はALADIN(ドコモの顧客管理システム)のAPIをたたくのが精いっぱいですが、ネットワーク全体でそういうことが可能な構成を作っていきたいと考えています。
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