MVNOが“VMNO”になると何が変わるのか? 商用時期や料金は? IIJ佐々木氏に聞く:MVNOに聞く(2/3 ページ)
MVNOの次の在り方として、「VMNO(Virtual Mobile Network Operator)構想」を提唱、リードしている1社がIIJだ。“真の5G”とも呼ばれるSA(StandAlone)方式では、5G専用のコアネットワークで運用され、通信の役割ごとに仮想的にネットワークを分ける「ネットワークスライシング」が可能になる。これを活用して柔軟な運用を可能するというのが、VMNO構想の中心にある。
ライトVMNOとフルVMNOの違いは?
―― 提唱されているVMNOには、MVNOと同様、ライトVMNOとフルVMNOがあります。その違いはどこにあるのでしょうか。
佐々木氏 ライトVMNOは、そのAPIを利活用するVMNOで、もともとのペーパーにもあったオリジナルのVMNOもこちらです。われわれが念頭に置いているのは卸で、VMNOに対するAPIを開放してもらえればそれを利活用すれば参入できます。卸なので、投資額も低い。VMNOがオペレーションするのは、OSS/BSS(Operation Support System/Business Support System)のところだけです。
ただ、本当にやりたいのはAPIではなく、コアネットワークをどんどん作っていった方がいい。最終的に、キャリアのコアネットワークでできることは限られるからです。例えばキャリアのネットワークとローカル5Gをつなごうとすると、それは卸ではなく、接続の世界になります。ライトVMNOだけでそういったことができるかというと、制度的には重くなります。その場合、VMNO自身でコアネットワークを持った方が、やりやすくなるのではないでしょうか。フルMVNOのメタファーだと思っていただければ、分かりやすいと思います。
フルMVNOぐらいの、あるいはフルMVNOを超える自由度を持った事業者をライトVMNOで作るのは難しくなります。先ほどのローカル5Gとの接続でも、コアネットワークを有する形にして、POI(Point Of Interface)の位置をキャリアのRAN(Radio Access Network)とコアネットワークの間にすればいい。リアルな基地局とバーチャルなコアネットワークの結節点にわれわれのコアネットワークをつなぎ、RANシェアリングするのが実現しやすい形になります。
これは、MEC(Multi-access Edge Computing)を視野に入れたときも、同じ話になります。基地局からそう遠くないところ、例えば各市町村の電話局のようなところにコンピューティングリソースを置き、それをMVNOのお客さまが利用できるようにするということもある程度はできると思いますが、ローカル5Gを考えると、電話局単位ではなく、工場なら工場の敷地内にMECが置かれていた方がいい。ローカル5Gまで含めて、複数のRANを使う、起きたいところにコンピューティングリソースを配置して、最適な経路を実現するといったところまでできれば、強力なイネイブラーになることができます。
―― それをやろうとすると、現状の相互接続と同じような料金体系は難しくなると思いますが、いかがですか。
佐々木氏 今は10Mbpsあたりいくらで計算していて、式としてはそれほど難しいものではありません。それは、キャリアの中でパケットが平等に扱われているからです。一方で、パケットごとに優先順位をつけ、こちらは自動運転用だから速く、こちらはテレメタリング用だから最悪明日でもいいとなれば、1パケットあたりの単価も変わってきます。それをMVNOにいくらで売るのかということをキャリアの中でしないといけない。接続と概念では回らなくなります。
昨年の総務省の有識者会議では、最終的にAPIのコール数で決められるのではないかという発言もありましたが、そういう観点もあれば、トラフィックをどこからどこまで運ぶのかでもコストは変ってきます。ネットワークが変わり、QoSも変わる中で、単純な1つのルールでやるのは無理があります。最終的にはキャリアの意見を聞きながら作っていくことにはなりますが、そうなると卸しかないのではないでしょうか。
2024年をめどに順次サービス開始を目指す
―― 現状ではまだ構想段階だと思いますが、キャリア側の反応はいかがでしょうか。
佐々木氏 まだ全然決まっていないことなので拙速に進めるべきではないというのが、パブコメの中の共通項で、これに対し、具体的に乗るとも反るとも言っていない状況と理解しています。ただ、これは鶏と卵で、彼らは標準化がないとできないと言いますが、逆にニーズがないと標準化は進みません。欧州の最初のペーパーがシンクタンクから欧州委員会に上っているように、まず目指すビジョンはこうで、こういうことをやりたいということは言わなければなりません。
われわれもMVNO員会にお願いして、報告書の中に掲載していただきました。このウィルによって、次にどうなるかです。場合によっては標準化活動もしなければいけないのかもしれませんが、日本企業には標準化に寄与できている人たちがいっぱいいるので、そういう人たちと総務省を含め、オールジャパンでやっていくようにならないと、ここから先はうまくいかないと思います。
―― お話をうかがっていると、法人向けの色合いが濃いように聞こえますが、コンシューマー向けでもVMNOのメリットはあるのでしょうか。
佐々木氏 かつて日本通信が大臣裁定をやった際に、Mbpsの単価になり、QoSもそこで決まりました。キャリアの網内は平等で、出口(の帯域)を潤沢に用意すれば、それだけ快適になる、逆にそこにコストをかけなければ、混雑時に快適に使えなくなります。ただ、5Gでみんなが定額になると、その料金モデルは成立しません。キャリアとMVNOの清算ルールをうまく作っていけば、混雑しているときに遅くならないような形で通信品質を上げることができます。ユーザーもゲームをやるのでレイテンシが低くなければいけないという人がいる一方で、若干遅くてもいいという人もいて、用途もバラバラです。いろいろなユーザーニーズがある中で、昼休みになったら遅くなるというのではない、別の形の料金モデルがあると思っています。
―― 構想段階のVMNOですが、実現は何年ぐらいになると見ていますか。
佐々木氏 5G SAのRelease 16は固まっていて、ある程度モディファイが必要だとRelease 17、18のスケジュールを待つ必要があります。少なくとも、2020年や2021年はあり得ないですね。2024年ぐらいにできればというスケジュール感です。ただ、それでも全てが順調にいったらという前提です。もっと遅れてしまうと、ビジネスとして成り立たないかもしれない。QoSが完璧でなくても、できるところからやるという逐次ローンチになるかもしれません。
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