MVNOが“VMNO”になると何が変わるのか? 商用時期や料金は? IIJ佐々木氏に聞く:MVNOに聞く(3/3 ページ)
MVNOの次の在り方として、「VMNO(Virtual Mobile Network Operator)構想」を提唱、リードしている1社がIIJだ。“真の5G”とも呼ばれるSA(StandAlone)方式では、5G専用のコアネットワークで運用され、通信の役割ごとに仮想的にネットワークを分ける「ネットワークスライシング」が可能になる。これを活用して柔軟な運用を可能するというのが、VMNO構想の中心にある。
ローカル5Gとキャリアのネットワークをつなぐメリットは?
―― ローカル5Gとキャリアのネットワークの接続というお話が出ましたが、ローカル5Gはどの程度ニーズがあるのでしょうか。
佐々木氏 今、一番ニーズがあるのがファクトリーオートメーションの分野で、それなりにまとまった設備投資ができ、他の無線テクノロジーでは信頼性やレイテンシを達成できない人たちが興味を示しています。ある程度資本を持ち、きちんとした投資のできる人たちが最初のカスタマーになると見ています。
―― IIJがそれをやろうとしたとき、物理的な無線部分のノウハウはないと思います。その点はいかがでしょうか。
佐々木氏 本当の意味でのラジオ(無線)のノウハウはないので、いろいろなところと協業することになると思います。ケーブル会社向けのソリューションを一緒にやっていく合弁企業に入っていますが、こういったところでも、ケーブル会社は電波に関するノウハウをお持ちです。ラジオを構築できる人たちとは、ある程度一緒にやっていかなければいけないと思います。
ファクトリーオートメーションでも、基地局配置をこうしてというところまで全部やるかというと、あまりそういうイメージではありません。僕らがやっていくビジネスはもう少し上のレイヤーです。
―― VMNOでは、そのローカル5Gとキャリアのネットワークをつなぐというお話でしたが、メリットはどのようなところにあるのでしょうか。
佐々木氏 キャリアのネットワークはどこでも使えるものなのに対し、工場の中でのネットワークは、機械が固定的に使うものです。例えば倉庫において、集荷ロボットをローカル5Gで運用しているときに、そこから一歩も出ないのであればキャリアのネットワークは必要ありません。ただ、何らかの理由で電波が切れてしまったときに、そこに人が走っていくとなると、高コストです。最低限、自動復帰するための回避行動にキャリアのネットワークを使うといったことは考えられます。
また、構内PHSの置き換えでも、当然人間は自由に動き回ります。ローカル5Gにつながっている病院でも、お昼に近くのお店に行っているドクターにドクターコールがかかるときにはキャリアのネットワークになるでしょう。今のプライベートLTEでも同じ問題がありますが、(プライベートLTEとキャリアのネットワークは)別のネットワークなので、1回圏外になってからでないと切り替わりません。一方で、フルVMNOのシナリオでは、ラジオの部分はキャリアから借りますが、今のMME(Mobility Management Entity)にあたるSMF(Session Management Function)というシグナリングのところは、全てのコントロール機能をフルVMNO側が持つことになります。標準化的にそれで足りるのかは分かりませんが、今よりは使いやすい形で提供ができます。
―― VMNO構想はIIJがリードしているように見えますが、他のMVNOの反応はいかがでしょうか。
佐々木氏 きっかけは僕らの提案で、IIJの力が入っているように見えるのかしれません。そういうふうに見えてしまうのは僕の力足らずですが、IIJがやりたいことをMVNO委員会にはかり、オーソライズを取ってから総務省の研究会で発表するということをしています。少なくとも、今の段階では他のMVNOと個社としてのIIJのベクトルが全く違うということはありません。他のMVNOでも、こういったものは絶対に必要という話や、できればフルVMNOになりたい、いや、ライトVMNOでいいといった議論はしています。業界を挙げてやっていきたいですね。
取材を終えて:MVNOの在り方を変える第一歩に
SA方式の5Gではコアネットワークの構成が大きく変わるため、今のような単一の接続方式ではビジネスが成立しない。IIJやMVNO委員会が提案したVMNO構想は、こうした時代に向けた種まきと捉えることができそうだ。現時点ではあくまで構想段階で、キャリアとの協議によってどのレベルまで実現できるかは未知数だが、MVNOの在り方を変える第一歩として注目しておきたい。
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