なぜこうなった!? 改めて「Rakuten Mini」の周波数“無断”変更問題を知る:5分で知るモバイルデータ通信活用術(2/2 ページ)
楽天モバイルのオリジナルスマートフォン「Rakuten Mini」が、ユーザーに告知することなく2度の仕様変更が行われていたことが判明しました。その仕様変更の何が問題なのか、改めて解説していきます。
2度の「仕様変更」を行ったRakuten Mini 何が問題なのか?
Rakuten Miniは発売後、対応Bandを2度変更しています。最終的に、北米や中南米での通信に最適なBand 4やBand 5への対応を追加した代わりに、初期ロットでは対応していたLTE/W-CDMAのBand 1を“非対応”としました。
端末の識別番号(IMEI)によって、Rakuten Miniは「初期ロット」「中期ロット」「現行ロット」が存在し、中期ロットと現行ロットでは以下のような仕様変更が行われました。
- 中期ロット:Band 5(FD-LTE/W-CDMA)とBand 38(TD-LTE)を追加
- 現行ロット:中期ロットからさらにBand 4(FD-LTE/W-CDMA)を追加し、Band 1(FD-LTE/W-CDMA)を削除
2度の仕様変更によって、Rakuten Miniには“3種類”の製品が存在することになります。
発売済みの端末における仕様変更自体は、実はそんなに珍しいことではありません。発売後のボディーカラー追加は、ある意味で仕様変更です。
ハードウェアとして対応済みだった無線通信規格に、ソフトウェア更新で追加対応することもあります。直近の実例では、国内向けの「Galaxy S10」や「Galaxy S10+」におけるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応や、NTTドコモ向けの「Galaxy S20 5G SC-41A」における5G対応などがあります。
では、Rakuten Miniにおける仕様変更は何が問題だったのでしょうか。大きく分けると3点あります。
問題点1:ユーザーに告知せずに仕様変更した
先述の通り、楽天モバイルはRakuten Miniの仕様変更をユーザーに告知することなく実行しました。
ユーザーによるネットへの投稿で仕様変更が明らかとなった後、同社はLTEの仕様変更を実施したしたことを公表しました。しかしその後、ネット上で「W-CDMAについても仕様変更をしているのでは?」という指摘があり、W-CDMAの仕様変更も明らかにしました。
このように、楽天モバイルはユーザーに指摘されてから仕様変更したことを公表しています。対応が後手後手に回ってしまっています。言い方を変えれば、指摘がなければ公表するつもりはなかったと取られてもおかしくありません。
問題点2:使い方によっては「悪い意味」で影響が出る
Rakuten Miniの仕様変更について、楽天モバイルは「国際ローミング利用時の接続性向上」を理由に挙げています。中期ロットと現行ロットで追加されたBandを見れば分かる通り、主に北米での利用を特に強く意識した仕様変更です。
一方で、国内におけるモバイル通信について、同社は仕様変更による影響はないとしています。仕様変更後の個体でも、同社が自社エリアの構築に使っているLTE Band 3は問題なく使えますし、エリア外でのローミングパートナーであるau(KDDIと沖縄セルラー電話)がメインで使っているLTE Band 18/Band 26にも対応できます。
確かに、オーソドックスな使い方では国内における使い勝手に変化はありません。
しかし、仕様変更後のRakuten Miniは使い方によっては使い勝手が悪くなる可能性があります。その1つが、楽天モバイル以外のeSIMカードを使って通信するケースです。
携帯電話事業への参入を発表した際、楽天モバイルは「端末へのSIMロック」や「料金プランに対する最低利用期間と契約解除料」を設けないことをアピールしました。この方針の下、Rakuten MiniもSIMロックフリー端末として発売されました。
日本国内では、インターネットイニシアティブ(IIJ)がeSIMを使った個人向け通信サービスを提供しています。このサービスが利用するNTTドコモのXi(LTE)/FOMA(W-CDMA)ネットワークについて、初期ロットと中期ロットは問題なく使えますが、後期ロットではXi/FOMAがメインに据えているBand 1が利用できないため、非常に使い勝手が悪くなってしまいます。
海外渡航時も、渡航先によっては通信品質が悪化する可能性があります。
仕様変更によって、確かに北米や中南米では接続性が大幅に向上します。しかし、現行ロットで削除されたBand 1は北米や中南米以外において広く使われていて、日本におけるドコモやソフトバンクのようにメインに据えるキャリアも少なくありません。Band 1の非対応化で、かえって「圏外」が増えてしまう可能性もゼロではないのです。
「北米では使いやすくなった」ことは間違いないですが、世界全体を見渡すと「海外で全体的に使いやすくなった」とアピールするのは少々言い過ぎの感もあります。
問題点3:端末の認証申請に不手際があった
日本国内で電波を発する機器は、電波法に基づく「技術適合証明」または「工事設計認証」を取得する必要があります。また、公衆通信回線に接続する通信機器は、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」も取得しなくてはなりません。これらはまとめて「技適など」と呼ばれており、法令で定める方法で端末に「技適マーク」と合わせて表示しなくてはいけません。
現行の法令では、無線部分のハードウェアに大幅な変更がない限り、取得済みの認証に“追加”する形で新しい通信規格や周波数帯に対応することができます(参考リンク、PDF形式)。先述のGalaxy S10/S10+におけるWi-Fi 6対応やSC-51Aにおける5G対応は、この制度を活用して行われています。この場合も、追加される通信規格や周波数帯での通信について、証明機関においてチェックを受け、法令に定める基準を満たしていることの証明を取得しなければなりません。
Rakuten Miniの仕様変更について、楽天モバイルは当初「同一の認証番号で追加の認証を取得した」という旨の説明をしていました。繰り返しですが、同一の認証番号で追加認証を取得できるのは無線部分のハードウェアに大幅な変更がない(≒過去の製造分でもソフトウェア更新で変更に対応できる)ことが前提です。
この理屈に従うと、過去のRakuten Miniでも、ソフトウェア更新をすることでBand 4/5/38に対応できるはずです。しかし、現実として「初期ロット」「中期ロット」「現行ロット」で対応Bandに違いがあり、ソフトウェア更新によってそれを埋めることもできていません。よって、無線部のハードウェアにも設計変更があったと見るのが自然です。
先述の通り、1つの端末で対応できるBandには限りがあります。対応するBandを変更するためにハードウェアの設計も変えること自体は悪いこととは言いきれません。しかし、無線のハードウェアに変更があった場合は、本来であれば“別の無線機”として新規に認証を受けなければいけません。
この辺りの認識に混乱があったためか、Rakuten Miniの初期ロットと現行ロットにおいて技適などの表記に誤りが生じてしまいました。それが発覚する少し前には、Rakuten Miniにおける対応Band変更について、総務省が報告を要求しています。
本件について、高市早苗総務大臣は6月16日、「必要に応じて、厳正に対処をしてまいります」と述べています。総務省への報告期限は6月26日で、同社は同日までに報告を完了したようですが、その内容次第では同社に対する行政処分が行われる可能性もあります。
総務省は6月12日付で、Rakuten Miniの対応周波数帯変更についての報告を楽天モバイルに要求した。報告は期限の6月26日までに行われたが、その内容への判断次第では、行政処分が行われる可能性もある
Rakuten Miniを巡る一連の動きには、楽天モバイルの「自己矛盾」も見え隠れしています。
キャリア(MNO)事業への参入前、同社は総務省に特定の通信事業者でしか使えない端末(≒SIMロックのかかった端末など)の販売を規制するように要求していました。通信と端末の「民主化」を旗印に掲げていたからです。
繰り返しですが、Rakuten Miniの現行ロットにおけるBand 1対応の削除は、サイズに限りのあるボディーにおいて、自社回線での利用を前提に、北米や中南米での利便性を高めた結果ではあります。しかし、うがった見方をしてしまうと、SIMロックに頼らない方法で他キャリア(ドコモやソフトバンク)での利用を阻止しているようにも思えることも事実です。
今回の問題を機に、楽天モバイルには、より一層の「モバイル通信業界の民主化」にまい進してもらいたいものです。
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