4G周波数の5G転用は「優良誤認」と「速度低下」の恐れあり ドコモの5Gネットワーク戦略を解説:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
総務省の省令改正により、4G周波数の一部を5Gに利用できるようになった。こうした状況に疑問を投げかけているのがNTTドコモだ。同社自身も4Gから5Gへの転用は行う予定だが、拡大には慎重な姿勢を示す。
優良誤認を警戒するドコモ、エリア競争からサービス競争に転換できるか
速度は4G並みでも、遅延が小さくなるため、周波数の転用には一定のメリットがあると思われるかもしれない。これに対し、ドコモはインターネット区間の遅延が大きくなれば、4Gと5Gで大きな差は出ないと主張する。確かに5G化すれば、「基地局とスマートフォンの間は無線方式が変わるため、最低で1msの低遅延になるが、実際の遅延はスマートフォンからコンテンツサーバの距離で変わってくる」(同)。いくら無線部分の遅延が小さくなっても、インターネットでの遅延が積み上がっていけば、無線区間の低遅延化は誤差になってしまうというわけだ。
こうした状況に対し、ドコモは危機感をあらわにする。中南氏も「ユーザー目線で考えると、5Gで速度が変わらないのは優良誤認の恐れがある」と語る。ユーザーが高速・大容量や低遅延を期待して5Gのスマートフォンを買ったにもかかわらず、実際には4Gと変わらなければ、だましているのと同じになってしまうというわけだ。そうならないためには、「新周波数による5Gは高速・大容量だが、4G周波数の5Gは高速・大容量ではないと、エリアマップで分けていく必要がある」(同)というのがドコモの主張だ。
競争上、転用に積極的な他社をけん制したという見方もできる。KDDIやソフトバンクが4Gからの転用でエリアを一気に広げた場合、5G用の周波数が中心のドコモのエリアが狭く見えてしまう恐れがあるからだ。実際、どちらの周波数をつかんでも、端末には「5G」の文字が表示される。ただ、ユーザーが都度、通信速度やエリアマップを確認するとは考えづらい。4Gと5Gを同時に使って比較することもないため、ある程度速度が出ていれば満足してしまうだろう。
結果として、マーケティング上、ドコモが不利になってしまうことも考えられる。特に、3社が横並びで採用するiPhoneが5Gに対応し、周波数の転用が始まれば、KDDIやソフトバンクは、エリアの広さを訴求し始めるはずだ。
中南氏は「われわれとしては、新周波数の帯域での高速・大容量が5Gの価値だと考えている」と言うが、その価値をどう伝えていくのかがドコモにとっての課題といえる。同社は、2021年度に「SA(Stand Alone)」方式の5Gを導入することを明かしたが、一面的なエリア競争に陥らないためには、こうした新技術で実現できるサービスの具体像を、しっかり見せていく必要がありそうだ。
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