4G周波数の5G転用は「優良誤認」と「速度低下」の恐れあり ドコモの5Gネットワーク戦略を解説:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
総務省の省令改正により、4G周波数の一部を5Gに利用できるようになった。こうした状況に疑問を投げかけているのがNTTドコモだ。同社自身も4Gから5Gへの転用は行う予定だが、拡大には慎重な姿勢を示す。
秋以降に始まる周波数転用、通信速度には課題も残る
一方で、エリアを広げるには、より低い周波数帯を活用する手もある。4G周波数の転用がそれだ。冒頭で挙げたように、総務省はこの転用を認め、省令を改正。秋以降、既存の周波数帯を活用した5Gのエリア化も進められていく。ドコモも、4G用周波数の転用は「サービスの普及につながるため、制度化には賛成」という立場だ。ただし、他社と比べるとやや消極的にも見える。
例えば、ソフトバンクは宮内謙社長が「晩秋から来年(2021年)にかけ、5G祭が始まり出すと思っている」と語り、2022年3月に5万局の5G基地局を展開することを明かしている。この中には転用分の基地局も含まれる。対するドコモは「まずは新周波数による高速・大容量に対応したい」(中南氏)と、転用の数値目標は開示していない。
その理由は帯域幅の狭さにある。4Gから5Gへの転用をすると、通信方式は5Gになる一方で、「周波数の幅は変わらないため、単に5G化するだけでは高速・大容量が実現不可能」(同)だという。また、現時点では4G端末の方が圧倒的に数は多いため、転用といっても、1つの周波数帯を全て5G化するのは不可能だ。そのため、基本的には接続する端末の割合に応じて、同じ周波数帯で4Gと5Gを“同居”させる必要が生じる。
どの程度を5Gに割くかにもよるが、5Gで十分な速度が出るようにしようとすれば、「5Gにユーザーが移行していないと、4Gユーザー(の帯域を)圧迫してしまう」(同)。逆に、ユーザーの規模に合わせて5Gの帯域を減らせば、4Gよりも速度が出ず、本末転倒だ。エリアは確かに広がる一方で、速度や容量とのトレードオフになってしまうというわけだ。
「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」と呼ばれる技術を使うと、この割り当てをリソースに応じて、動的に変更することが可能になる。4Gよりも5Gが多ければ、一時的に4Gを減らし、5Gの速度を上げることが可能になる。逆もしかりだ。DSSはEricssonとQualcommが開発を進め、基地局ベンダーではNokiaも採用する。他社は「DSSを使うかはどうか検討中」(ソフトバンク広報)というが、周波数を効率よく利用できるため、その可能性はかなり高そうだ。
とはいえ、ドコモの中南氏によると、DSSも万能ではないという。「DSSについては、制御信号の部分にオーバーヘッド(付加的な処理)があり、4G、5Gの速度が少し下がってしまう。ドコモの検討だと、数%程度ではなく、数十%という割合で下がると考えている」(同)ため、導入には慎重だ。ドコモの主要な基地局ベンダーが国内系のNECや富士通といった国内ベンダーであることも、理由の1つだろう。DSSは欧州系ベンダーが先行しているため、KDDIやソフトバンクの方が採用は容易だ。新周波数での展開は有利な半面、ドコモにとっての転用は、他社に以上にハードルが高いといえる。
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