コラム

米中摩擦で「TikTok」に利用禁止の動き、日本での事業は継続されるのか?(1/2 ページ)

日本でも大人気の動画投稿サービス「TikTok」が、世界各国でサービス停止の危機にある。その背景には米中摩擦をはじめとした、中国と各国との対立激化が大きく影響している。日本のTikTokのサービスにどこまで影響が及ぶのだろうか。

 日本でも大人気の動画投稿サービス「TikTok」が、世界各国でサービス停止の危機にある。その背景には米中摩擦をはじめとした、中国と各国との対立激化が大きく影響しているのだが、日本のTikTokのサービスにどこまで影響が及ぶのだろうか。

爆発的人気から一転して規制の動きが拡大

 2018年に日本でも大ブレークし、流行語大賞にもノミネートされるなど、高い人気を獲得しているショートムービーの投稿サービス「TikTok」。最近ではTikTokに動画を投稿する「TikToker」が人気となったり、芸能人がTikTokを積極活用したりするなど、その人気は現在もなお高まり続けている。

 TikTokが人気となったのには、基本的に15秒という短い動画を投稿するサービスであり、視聴者はさまざまな動画を短時間で手軽に視聴できることがスマートフォンとマッチしていたことが挙げられる。だがそれだけでなく、独自のAIを活用した動画のレコメンドの仕組みが優れていること、さらに音楽レーベルや版権団体などと提携して音楽を使った動画をスマートフォンだけで簡単に作成できることなど、使い勝手の面が優れていたことも大きな要因といえる。

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音楽に合わせたショートムービーを撮影しやすいことから、リップシンクやダンス動画などで人気が高まったTikTokだが、現在投稿される動画はVlogや料理、ペットなど幅広い分野に広がっている

 だがそのTikTokに関して、ここ最近不穏な動きが相次いでいる。それは幾つかの国でTikTokのサービスが提供できなくなる、あるいはなりつつあることだ。実際インドでは既にTikTokが利用禁止となっているが、より大きな注目を集めているのが米国の動向である。

 というのも、米国政府が2020年8月6日に、中国のバイトダンス(ByteDance:北京字節跳動科技)とその子会社であるTikTokの運営会社などに対して、45日後に米国企業との取引を禁止するという大統領令を発令したのだ。これはTikTokが米国でサービスを終了させるか、継続するにはバイトダンスがTikTokの米国事業を米国企業に売却するよう迫る内容である。

 2020年8月14日にはその期限が90日に延びたものの、現在も米国政府のTikTokに対する方針は変わっていない。バイトダンスらは大統領令の差し止めを求め、2020年8月24日に訴訟を起こしているが、米国におけるサービス提供の行く末は今なお不透明な状況が続いている。

背景にある米中摩擦と国家情報法

 なぜこのような事態になっているのかを知るには、バイトダンスとTikTokの関係、そしてTikTokがどのような経緯で人気になったのかを知っておく必要があるだろう。

 バイトダンスはもともとAI技術に強みを持つ企業であり、そのAI技術を活用して2016年に中国で提供を開始したのがショートムービーの動画投稿サービス「抖音」である。この抖音をベースにしながら、子会社を通じて海外で展開しているのがTikTokなのだ。

 そのTikTokが海外で足掛かりを築いたのには、2018年に同様のサービス「musical.ly」を提供する米国企業を買収したことが大きい。musical.lyの顧客とサービスを取り込んだことでTikTokは米国でも高い人気を博し、短期間のうちに世界規模のサービスとして急拡大を遂げたといえる。


TikTokは世界各国で展開されており、これまで日本の他、米国やタイなどでApp Storeでのダウンロードランキング1位も記録している

 そうしたことから、TikTokはバイトダンスという中国企業の影響が非常に強いサービスであることが、一連の出来事に大きく影響しているようだ。現在中国は米国をはじめいくつかの国との関係が急速に悪化しており、それを受けて中国企業のサービスを禁止する動きが広がっているのだ。

 実際インドでTikTokの利用が禁止されたのは、2020年6月にインドと中国の国境付近で武力衝突があったことを受けたものとされているようで、TikTokをはじめとした中国由来とされる59のアプリが一斉に禁止された。またTikTokに対して米国の大統領令が出された際には、同時に中国のテンセント・ホールディングスが提供するメッセンジャーアプリ「WeChat」にも同様の大統領令が発令されている。

 もう1つ米国などが懸念しているのが、中国で2017年に施行された「国家情報法」の存在だろう。これは中国政府が、中国の企業や個人に対して情報提出を要請した場合、それに応えることを義務付けるものである。

 特に米国は国家情報法にかねて強い懸念を示しており、それを理由に幾つかの中国企業に対して制裁を課している。中でもよく知られているのが中国の通信機器メーカーであるHuaweiへの制裁であり、米国の制裁によって同社は米国をはじめ日本など幾つかの国への通信設備提供が実質的にできなくなっている他、Googleなどとの取引が禁止されたことで、新しいスマートフォンの開発も難しい状況となりつつある。


米国から制裁を受けているHuaweiは、米企業との取引が制限されており、特にスマートフォンでは米Googleのサービスが利用できくなったため、独自のアプリストア「HUAWEI AppGallery」を展開している

 実際TikTokに対する大統領令を見ると、安全保障の脅威に対する制裁を定めた「国際緊急経済権限法」に基づいて発令されたものとなっており、TikTokを通じて米国の利用者の検索履歴や位置情報が蓄積され、それらに中国共産党がアクセス可能になることを懸念するとの内容が記されている。中国の企業であるバイトダンスは国家情報法の影響を受けるため、米国政府はTikTokが持つ情報が中国に流れ、安全保障に大きな影響が出ることを懸念しているようだ。

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