楽天モバイルに聞く、法人向け5Gビジネス 「楽天経済圏」と「ミリ波」がカギ:5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)
携帯電話事業に新規参入した楽天モバイルだが、実はコンシューマー向けだけでなくビジネス開発に向けた取り組みも進めている。パートナーとなる企業らと、5GやIoTを活用した新たなサービスを開発する「楽天モバイルパートナープログラム」を打ち出している。ノエビアスタジアム神戸では、5Gを活用した新しい試合観戦などの実証実験を行っている。
2020年に携帯電話事業への本格的な参入を果たした楽天モバイルも、「楽天モバイルパートナープログラム」を打ち出すなどしてパートナー企業を募り、5Gによるビジネス開拓に向けた取り組みを進めつつある。楽天モバイルの5Gビジネス本部 ビジネスソリューション企画部の部長である益子宗氏に、同社の5Gビジネス開拓に向けた取り組みについて話を聞いた。
5G開始に合わせてパートナープログラムを拡大
携帯電話事業に新規参入した楽天モバイルだが、実はコンシューマー向けだけでなくビジネス開発に向けた取り組みも進めており、本格サービス開始前の2020年3月12日にはパートナーとなる企業らと、5GやIoTを活用した新たなサービスを開発する「楽天モバイルパートナープログラム」を打ち出している。益子氏によると「5Gを活用したビジネス創出や包括的な基礎研究を実施できればと考えた」ことから、発展途上の5Gが持つ可能性や活用方法を見いだし、社会に提供するべくこのプログラムを立ち上げるに至ったのだという。
ただ当初、このプログラムで募集していたのは「スポーツ」「配送」の2分野別に限定されており、募集対象も企業のみに絞られていた。益子氏はその理由について、楽天モバイルの商用5Gネットワーク整備がまだ始まっていなかったのに加え、社内のリソースも不足していたことから、ビジネスになりそうな領域に限定して検討を進めたと説明している。
それゆえ、5Gの商用サービスを開始し、ある程度環境が整った第2フェーズでは、プロジェクトの分野を問わず、5Gの検証をする場を提供する「ロケーション」、ソフトやハードなどを提供する「技術」、ユーザー向けのサービスを提供する「コンテンツ」、そして実証実験の機会を提供する「イベント」の4種類のパートナーを公募。対象も企業だけでなく自治体や大学、研究機関などに広げており、幅広い分野でのビジネス開発を進めていく方針へと切り替えている。
益子氏によると、パートナーの応募に偏りはなく、「割と満遍なく来ている」とのこと。例えば技術パートナーとしては、AIや画像解析など5Gと親和性が高い技術を持つ企業をはじめ、幅広い企業からアプローチされている他、自治体もスマートシティーや社会課題解決など、さまざまな取り組みで話し合いが持たれることが多いという。
同様のパートナープログラムは他キャリアも展開しているが、益子氏は同社が楽天経済圏によるエコシステムを持っており、将来的に楽天のIDによる連携が期待できる点に注目する企業も多いという。楽天はグループで70以上のサービスを持つだけに、それらのリソースを生かした実証実験ができるというポテンシャルも大きい。
一方で同社は、5Gビジネス開発の拠点となるオープンラボに類する施設は用意していない。それゆえPoC(概念実証)や実証実験に関しては、商用の5G環境を直接活用する他、楽天が展開しているネットワークの試験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」の活用も進めている。
スタジアムで実証実験を実施、ミリ波の知見も
楽天モバイルパートナープログラムの具体的な取り組みは現在進めている最中であるため、益子氏は「タイミングを見て紹介したい」と話すにとどめている。ただ同プログラムに限定しなければ、具体的な取り組みが既にいくつか打ち出されている。1つは2020年9月29日、同社と神戸大学が、兵庫県神戸市が公募した研究活動助成プロジェクト 「大学発アーバンイノベーション神戸」に採択されたこと。そしてもう1つは2020年12月3日に、楽天ヴィッセル神戸と5Gを活用した新たな試合観戦体験の実証実験を公表したことだ。
これは、楽天ヴィッセル神戸が運営するプロサッカーチーム「ヴィッセル神戸」のホームスタジアム「ノエビアスタジアム神戸」に設置された、商用の5G環境を用いた実証実験。5Gスマートフォンを試合中のグラウンドにかざすと、ARで選手やオフサイドラインの位置などをリアルタイムで表示する。このような5Gを活用した新たな試合観戦の実現に向けて、成果を得たとしている。
楽天モバイルと楽天ヴィッセル神戸が実施した新たな試合観戦体験の実証実験。ノエビアスタジアム神戸に設置したミリ波の5G基地局を活用し、試合中の選手の動きなどをARで表示するなどの取り組みを実施している(写真提供:楽天モバイル)
楽天は傘下にプロスポーツチームを持つことから、それを活用した実証実験はやりやすい立場にあるが、なぜ商用5G環境を用いた最初の実証実験にスタジアムソリューションを選んだのか。益子氏によると、理由の1つはスポーツと5Gの高速大容量通信の親和性が高く、世界的にも5Gを活用したスマートスタジアムの取り組みが積極的に実施されていることから、「ある種5Gネットワークのベンチマークの1つにもなっている」ためだという。
そしてもう1つは、同社がノエビアスタジアムにミリ波の基地局を設置していることにあるという。ミリ波のみで整備された5G環境は日本でまだ数が少なく、そこに魅力を感じて実証実験をしたいというパートナー企業も多いとのこと。楽天モバイルとしても、ミリ波を活用した実験には力を入れていきたい考えのようだ。
実証実験では、5Gの低遅延を生かしたソリューションも検証した。先にも触れた通り、今回は試合の進行に合わせて選手やオフサイドラインなどをARでリアルタイムに表示する必要がある。「われわれが知る限り、他社がやっていないチャレンジングなところ」(益子氏)でもあることから、5Gによる低遅延でいかにそれを実現できるかを検証し、成果を得たことは大きかったようだ。
現在の楽天モバイルの5Gネットワークはノンスタンドアロン運用であり、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)もまだ導入していない。5Gによる低遅延の実力を存分に発揮できる状況ではないが、益子氏によると、それでもLTEやWi-Fiよりもかなり遅延が抑えられ、「ARの選手番号表示などはもう少しずれるのかなと思っていたが、ネットワークが耐えてくれた」とのことで、期待以上の成果が得られたそうだ。
実証実験では、試合開始前にリアルタイムのマルチアングル映像を5Gネットワーク経由で送り、専用サイトでストリーミング配信。MECなどは導入していないものの、Wi-Fiなどと比べると遅延はかなり抑えられたという(写真提供:楽天モバイル)
今回の実証実験は、ミリ波に関する知見を得る狙いも大きかったという。ミリ波で広域のスタジアムをどれだけカバーして通信速度を高められるか、ハンドオーバーがスムーズにできるかといったネットワークの検証に加え、実証実験ではミリ波対応のスマートフォン「Rakuten BIG」の検証も行った。
関連記事
「楽天モバイルパートナープログラム」始動 5GやIoTを活用したサービスの創出を目指す
楽天モバイルは3月12日、5GやIoTを活用した新たなサービスを企業や自治体と共に創出する「楽天モバイルパートナープログラム」を発表。同日に参加企業や自治体の募集を始めた。6月以降は法人と自治体を対象に「プロジェクトデザインパートナー」の募集を開始する予定。楽天モバイルの新料金プランは「1GBまで0円」で成り立つのか? 楽天の河野CMOに聞く
ワンプランを維持しつつ、段階制を導入することで、低容量や中容量のユーザーに対する値下げに踏み切った楽天モバイル。同社の「UN-LIMIT VI」は、月額2980円でデータ容量が使い放題になる特徴はそのままに、一定容量以下の場合、自動的に料金が安くなる。1GB以下なら0円で済む。なぜ楽天モバイルは、このような新料金プランを導入したのか。異例の新プランを発表した楽天モバイル 解約率は下がるも、収益性を上げられるか
楽天モバイルの新料金プランは、段階制を導入することで、20GB以下と3GB以下の料金を低廉化。さらに1GB以下の場合、料金を無料にするという大胆な手を打った。大手3社のオンライン専用料金プランに対抗した格好で段階制を導入することで、小容量と中容量のプランにフィットするユーザーの負担感を軽減するのが狙いだ。5Gは「企業のDXを実現する手段」、ソラコムとも連携 KDDIの法人戦略を聞く
携帯大手3社の中でも、5Gが低調なスタートを切ったことに最も危機感を募らせているのがKDDIだ。一方で、コロナ禍が企業のDXを加速させていることから、キャリアにとっては大きなビジネス機会となることも確か。現在は5Gの高速大容量通信を生かし、AI技術を活用した画像解析の活用が多いという。ソフトバンクが「プライベート5G」を打ち出す狙い、ローカル5Gに対する優位性は?
自社が免許を保有する周波数帯を活用して自営型の5Gネットワークを構築・運用する「プライベート5G」を打ち出したソフトバンク。これはパブリックの5Gとローカル5Gの中間と位置付ける運用形態となる。海外では自営の4Gネットワークを構築・運用する「プライベートLTE」が既に活用されていることから、同様の取り組みとしてプライベート5Gを推進するに至った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.