丸文が進める“誰でも取り組めるローカル5G” 機器、コスト、技術の課題解決へ:ワイヤレスジャパン 2021
ローカル5Gの導入を進める上で、機器選択とコストに関して多くの課題が挙がっている。丸文は「誰でも取り組める5G」を実現すべく、同社が取り扱っているAthonetの仮想5Gコアネットワークを活用したマルチベンダーのエコシステムを提案している。無線伝搬シミュレーションやエリアの品質測定もサポートする。
ワイヤレス通信専門イベント「ワイヤレスジャパン2021」の初日となる2021年6月2日の基調講演には、エレクトロニクス製品の商社である丸文が登壇。現在のローカル5G市場が抱える課題と、それを解決して誰もがローカル5Gに導入できるための取り組みを、同社が取り扱っているAthonetの5Gコアネットワークを中心に説明した。
企業からのローカル5Gに対する注目が高まりつつある昨今だが、実際に導入を進める上では幾つかの課題も見えてきている。そこで、ローカル5G関連の製品も扱っている丸文が、現在ローカル5Gに取り組んでいる人たちから聞いた課題と、その解決に向けどのような取り組みが必要かを基調講演で解説した。
丸文のシステム営業第1本部 営業第2部 情報通信課テレコムSBUリーダーである渡邊雅史氏によると、同社では約2年前からローカル5Gに関する取り組みを進めており、ウェビナーやイベントなどで情報発信をしているとのこと。そしてそれらのイベントで得たアンケートの内容によると、ローカル5Gの発展に期待しているという人が9割に上り、2年以内に導入したいという人も一定数に達しているという。
だが既に導入を進めている人からは、ローカル5Gを整備するための機器選択とコストに関して多くの課題が挙げられており、まだ導入していない人からはそれに加えて技術知識面での課題感も挙げられたとのこと。そこで渡邊氏は「誰でも取り組める5G」を実現すべく、同社が取り扱っているAthonetの仮想5Gコアネットワークを活用したマルチベンダーのエコシステムを提案した。
Athonetは仮想化コアネットワークを提供するイタリアのベンダーであり、「自営セルラー網のパイオニア」だと渡邊氏は言う。海外では既に、プライベートLTEの仮想化コアネットワークなどとしてさまざまなソリューションに使われている実績があるが、注目すべきは、基地局など無線アクセスネットワーク(RAN)側を、用途やニーズに応じて幅広い機器に対応できるマルチベンダー対応であることだという。
実際ローカル5Gでは、設置する基地局はマイクロセルかマクロセルか、室内向けか屋外向けか、あるいは今後の拡張性を考慮して最近注目されている仮想化RANやOpen RANを用いるか……など、用途に応じたRANを導入するのが理想的だ。そうしたときに幅広い機器導入への対応が柔軟な、マルチベンダー構成に対応するコアネットワークが重要になってくるというのだ。
日本ではまだローカル5Gの機器を導入する上で、マルチベンダーであることが前提になっていないと渡邊氏は話す。マルチベンダー化の潮流を広げることが、ローカル5Gの市場を活性化して機器の選択肢を増やすとともに、コスト削減へとつながるなど、現状市場が抱える課題の解決につながっていくのではないかと説いた。
続いて丸文のシステム営業第1本部 営業第2部 情報通信課の根本颯氏が、技術面での課題解決に向けた取り組みを説明した。ローカル5Gで課題となっている技術は幾つかあるが、そのうち代表的なものの1つは無線伝搬シミュレーションだと話す。
これは実際にネットワークを構築する前に、電波の届き方を事前にシミュレーションで予測するというもので、それをやらないまま整備してしまうと、他のローカル5Gや携帯電話会社の5Gネットワークと電波干渉してしまったり、逆に電波が思うように届いていなかったりといった事象が起き得る。そこでローカル5Gでは免許獲得の条件として、無線電波シミュレーションをすることが求められているというが、いかに精緻なシミュレーションをするかが課題になっているというのだ。
その無線伝搬シミュレーションをする上では、基地局からの距離をもとに電波の減衰を示す「距離減衰モデル」と、実環境の3Dデータをもとに電波の浸透や回折などを考慮する「3D Ray Tracingモデル」の2種類があるが、実際の環境を考慮した後者の方が高精度の結果が得られるとのこと。地図や建物のデータを入手するにはコストがかかりハードルが高いとの声もあるが、オープンソースの地図や2Dのフロアマップから3Dのモデリングができるツールもあることから、それらをうまく活用してコストを抑えることも重要だと根本氏は話す。
屋外での無線伝搬シミュレーションの事例。距離減衰モデルでは電波が建物を透過してしまうが、建物を考慮した3D Ray Tracingモデルでは建物の反射による低下が見られるなど、より現実に即した成果が出ているという
もう1つの技術課題とされる、実際のエリアの通信品質測定に関しても、実際の5G端末に専用アプリをインストールして測定する「UEツール」よりも「RFスキャナー」という専用の機器を用いて測定した方が高品質で正確な測定ができると根本氏は説明。ローカル5Gは電波干渉にシビアなことから、品質測定だけでなく電波干渉調査と干渉源をしっかり特定することも重要だとしている。
他にもローカル5Gでは、TDD(時分割多重)での運用が求められるためことから電波の「準同期」の正確性、そしてシステム内外で、デバイス管理の視点に立ったセキュリティ確保も重要だと根本氏は説明。同社としても重要な技術キーワードを確実に押さえるための取り組みを進めたいとしている。
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