「コロナ禍への対応」「機械学習の活用」「デバイス連携の深化」――3つのキーワードで見るAppleの新OS:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
AppleがWWDC21でiOS、iPadOS、watchOS、macOSの最新バージョンを披露した。最大公約数のキーワードになりそうなのが、「コロナ禍」「機械学習」「デバイス連携」。ホーム画面を刷新してウィジェットに対応したiOS 14ほどの大規模なアップデートではなかったが、どのOSも着実に進化している。
Appleは、6月8日(日本時間)の未明に、WWDCの基調講演を開催。iOS、iPadOS、watchOS、macOSなどの最新バージョンを、CEOのティム・クック氏らが披露した。現在はデベロッパー向けのβ版が公開されており、7月には一般のユーザーが利用できるパブリックβに移行する予定。正式版のリリースは秋を予定しており、例年通りのスケジュールであれば、次期iPhoneが登場する前のタイミングになりそうだ。
基調講演では、同社の扱う製品に搭載されるOSを横断的に紹介したため、内容は多岐にわたるが、どのOSも進化の方向性は共通している。最大公約数のキーワードになりそうなのが、「コロナ禍」「機械学習」「デバイス連携」。ホーム画面を刷新してウィジェットに対応したiOS 14ほどの大規模なアップデートではなかったが、どのOSも着実に進化している。ここでは、3つのキーワードを軸にしながら、新OSの中身やAppleの狙いを解説していきたい。
コロナ禍で変わったユーザーのライフスタイルに寄りそうiOS 15やiPadOS 15
iOS 15やiPadOS 15には、コロナ禍で大きく変わったライフスタイルに合わせた機能が複数搭載される。2020年のiOS 14やiPadOS 14も、コロナ禍で発表された新OSだが、感染拡大からあまり時間がたっていなかったこともあり、関連した機能が手薄だった。マイナーアップデートでApple Watchを使ったマスク着用時のロック解除などは追加されたものの、メジャーバージョンアップに合わせて、OSそのものを“新しい生活様式”に合わせてきた格好だ。
代表的な機能の1つは、Zoomなどのオンライン会議アプリに対抗するFaceTimeのアップデートだ。これまでのFaceTimeは、どちらかといえば電話やビデオ電話の延長線にある機能だった。電話番号やApple IDで発信し、着信側がFaceTimeを受け入れたらコミュニケーションが始まるという作法は、電話のそれに近い。これに対し、新しいFaceTimeは、URLを発行して、あらかじめビデオ通話を“予約”できるようになる。
発行したURLは、メールやメッセンジャーで相手に送ったり、カレンダーに登録したりできる。まさにZoomなどのビデオ会議アプリのように使えるというわけだ。ブラウザでFaceTimeにアクセスできるようになるのも大きな変化といえる。これまでのFaceTimeはiOSやiPadOS、macOSに閉じたコミュニケーションツールだったが、ブラウザ対応することで、AndroidのスマートフォンやWindowsのPCでも利用可能になる。ビデオ会議アプリを志向するうえで避けて通れない、デバイスの拡大も実現する。
ただし、1対多数の講演形式に近いウェビナーのような機能はなく、あくまでコミュニケーションツールである点は変わっていない。ポートレートモードのように背景をボカす機能にも対応するが、ビデオ会議アプリで主流の、背景合成機能にも未対応。既存のツールを完全に置き換えるまでには至らないだろう。役割を拡大したFaceTimeだが、あくまでその第一歩を踏み出した段階といえそうだ。
iOS 15やiPadOS 15に搭載される「集中モード」も、コロナ禍のテレワーク環境を意識した機能といえそうだ。自宅での仕事は、オンとオフの切り替えが難しいのが課題だが、集中モードはそれを助ける機能の1つと捉えられる。集中モードは「仕事」や「プライベート」などのモードを設定することで、着信や通知を許可した人やアプリのみに制限できるのが特徴。位置付けは現行バージョンに搭載される「おやすみモード」に近く、機能的にもこれを拡張したものだ。
一方で、着信や通知だけでなく、ホーム画面までシーンに合わせて変更可能なのが、集中モードとおやすみモードの大きな違いだ。「仕事」に設定した場面では、ゲームや個人用のSNSアプリなどは非表示にして、Officeアプリやメールなど、業務に必要なものに特化させることができる。シーンの設定や、許可する通知、表示させるアプリなどはユーザー自身で選択できるため、テレワーク以外の場面でも幅広く活用できる。
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