顧客とベンダーの視点から見るローカル5Gの現状 普及に向けた課題は?:Interop Tokyo カンファレンス 2021(1/2 ページ)
オンラインイベント「Interop Tokyo カンファレンス 2021」でローカル5Gに関するセッションを実施。4.7GHz帯の割り当てなどで活性化しているローカル5Gに関して、サービスを提供する側とそれを利用する側の双方の視点から議論した。ローカル5Gに求めるは「自由」「安さ」「セキュリティ」という意見が出た。
2021年6月22日、オンラインイベント「Interop Tokyo カンファレンス 2021」でローカル5Gに関するセッション「いよいよ躍動するローカル5G」を実施。4.7GHz帯の割り当てなどで活性化しているローカル5Gに関して、サービスを提供する側とそれを利用する側の双方の視点から、ローカル5Gが必要とされる理由とその現状、今後に向けた期待や課題などについて議論がなされた。
通信がインフラとなり、都市の在り方に変化
セッションでは、企(くわだて)の執行役員である伊賀野康生氏がモデレーターを務め、ローカル5Gによるサービスを提供する側と、それを利用する側の視点から議論を行った。
伊賀野氏は、自身がコンサルタントとして6年間、新規事業開発に携わってきた経験から、ビジネス開発には顧客を起点に考えることが重要だと説明。そしてローカル5Gのビジネスでは一般のユーザーを相手にしたB2Cではなく、企業や特定の業種を相手としたB2Bのビジネスが主流になることから、ローカル5Gを利用する企業側の視点が重要であるとした。
そこでローカル5Gの活用を考えているというイーヒルズの取締役である渡部宗一氏が登壇し、顧客の視点から見たローカル5Gについて説明。イーヒルズは大手都市デベロッパーである森ビルの子会社で、ビルの制御や運営などに関するシステム開発を手掛けていることから、セキュリティや通信に関する技術研究も進めているという。
渡部氏は、不動産業界と通信との関わりについて、飛鳥時代から現代に至るまでの歴史を振り返りながら解説。飛鳥時代から江戸時代までは水路、ひいては水運が主要なインフラとなって人やモノ、さらにはそれらがもたらす情報の流通を支えており、水路のある所に街が作られ、都市が生まれていった。だが明治時代に入ると鉄道が登場してインフラに変化が起き、その後は道路が整備され、現在に至るまで道路と自動車が主要な都市インフラとなっている。
だが2000年頃から通信が新たなインフラとして伸びてきており、そのことが都市の在り方を大きく変えている。人やモノを運ぶ従来のインフラでは、輸送を効率化するため移動時間の短縮化が求められ、それが都市への一極集中をもたらしていた。一方、情報のみを流通させる通信の普及は逆に人口を分散化させ、サテライトオフィスやテレワーク、さらにはワーケーションといった形で、働く場所を選ばず地方に住んだままでも働ける環境を生み出している。
そうしたことから、通信インフラの重要性が増すに従って「土地があまり重要でなくなってきていた」と、人口が分散化する時代の在り方が不動産業界でも求められるようになったと渡部氏は話している。
ローカル5Gに求めるは「自由」「安さ」「セキュリティ」
ただ一方で、通信インフラを活用する企業側からすると、現在の通信インフラを整備しているのが大手の通信事業者に限られ、選択肢がないことが問題を生み出していると渡部氏は指摘する。
例えば工場のIoT向けに5Gのネットワークを使いたいと思っても、キャリアのネットワークはオーバースペックでコストが非常に高額で、「うちでは使えないとなってしまう」と同氏。またテレワークで欠かせないWebミーティングでも、時折映像が止まってしまうケースが少なからずあるが、これもキャリアが、一般ユーザーが下りの通信を多く利用していることを意識してダウンロードの高速化を重視しているため、「上り(アップロード)が欲しいと思っても、それを実現できない」ことの影響が大きいと渡部氏は話す。
つまり企業が求めるスペックの通信を、できる限り安く導入したいというのが通信に対する企業側の要望であり、それを実現する存在として注目しているのがローカル5Gであるという。とりわけ渡辺氏がローカル5Gに求めているのは低コストと低遅延だというが、もう1つ、SIMなどによる高いセキュリティを実現できることも高い期待を持つ要因だとしている。
その上で渡部氏は、同社で検討しているローカル5Gの事例を示した。1つは自動運転車と建物との通信で、建物内ではGPSが利用できず正確な位置を把握できないことから、ローカル5Gを活用して建物と自動車が通信することにより、建物内での安全な駐停車を実現したいとしている。
そしてもう1つ、渡部氏が挙げたのがエレベーターの制御だ。渡部氏によると、オフィスビルの2大クレーム要素は空調の暑さと寒さ、そしてエレベーターの遅さだという。一方で、エレベーターを制御するのは各階のホールにある上下の呼びボタンと、エレベーターの籠内にある行先指定ボタンの2つしかなく、それだけで待ち時間を減らすのは難しい。
そこで通信とIoTの技術を活用し、監視カメラからホールや籠の映像を収集したビッグデータを分析し、エレベーターを運行すれば待ち時間を減らせるのではないかと渡部氏はみる。その際監視カメラの映像データなどには高いセキュリティが求められることから、そこにもローカル5Gが重要な役割を果たすと渡部氏は考えているようだ。
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