コストはソフトで解決、本命は4.8GHz帯 先駆者が語る「ローカル5G」の極意:Interop Tokyo Conference 2020(1/2 ページ)
「Interop Tokyo Conference 2020」の初日となる6月10日に、「ローカル5G:活用のための課題克服に向けて」と題したローカル5Gに関するパネルディスカッションが開催。NEC、ファーウェイ・ジャパン、阪神ケーブルエンジニアリング、IIJのキーパーソンが登壇。ローカル5Gの活用に向けた取り組み、そして利用拡大に向けた課題と解決策について議論した。
2020年はオンラインでの開催となった、ネットワークインフラ・ソリューションに関する見本市イベント「Interop Tokyo」。そのカンファレンスイベント「Interop Tokyo Conference 2020」の初日となる6月10日には、「ローカル5G:活用のための課題克服に向けて」と題したローカル5Gに関するパネルディスカッションが開催。ローカル5Gの活用に向けた取り組み、そして利用拡大に向けた課題と解決策について議論が行われた。
キャリアに縛られないローカル5Gへの期待
イベントではまず、企(くわだて)のチーフ・テレコム/メディア・コンサルタントである伊賀野康生氏が、ローカル5Gの概要について説明。ローカル5Gは携帯電話以外の事業者が自ら持つ建物や敷地などでスポット的に5Gのネットワークを構築できるようにするもので、工場など場所を限定した閉域での無線ネットワークや、ケーブルテレビ事業者などが固定通信のラストワンマイルとして利用する、FWA(Fixed Wireless Access)としての利用が検討されているという。
ビジネスでローカル5Gとキャリアが展開する5G、どちらを活用した方がいいか考えている人も多いだろうが、伊賀野氏によると、その違いは「責任範囲」にあるとのこと。キャリアの5G回線を利用する場合、ネットワーク部分はキャリアに任せ、利用者は端末やアプリケーションを用意すればいいが、ローカル5Gの場合は基地局やコアネットワーク、そしてSIMなども自ら用意する必要があるというのが大きな違いになるそうだ。
NEC デジタルネットワーク事業部の藤本幸一郎氏は、ローカル5Gへの期待感とそれを取り巻く市場環境について説明。ローカル5Gは生活や産業に関するデジタルトランスフォーメーションを加速する上で重要な役割を果たすとされているが、藤本氏は企業や自治体などがキャリアの意向に左右されることなく、「自分たちで勝手にどんどん進められる」ローカル5Gが、デジタルトランスフォーメーションを推し進める大きな役割を果たすのではないか」と期待を示している。
既にローカル5Gへの参入を表明しているNECにも、さまざまな業界からの問い合わせがあるそうだが、やはり最も大きいのはスマートファクトリー関連だと藤本氏は言う。市場調査データによると、ファクトリーオートメーション実現のためネットワークに多く投資する傾向が強まっていることから、そうした需要をローカル5Gで取り込んでいきたいと考えているようだ。
一方で、ローカル5Gは技術的に難しい部分が多いのに加え、導入する上では電波免許を取得し、「Wi-Fiとは桁違い」(藤本氏)となる高額なネットワーク機器を購入する必要があるなど課題も少なからずあるという。そこで藤本氏は、今後モバイルネットワークのアーキテクチャがオープンな形へと大きく変化し、インターネットと同様にソフトウェアが主体の分散型ネットワークになっていくことが、そうした課題解決につながると考えているとのことだ。
実際、同社では基地局以外のコアネットワーク部分を、米Amazon.comの「AWS」に代表されるパブリッククラウド上に構築する取り組みを進めているそうで、5Gがオープンかつ安価で誰でも導入しやすいネットワークとなるための仕組み作りが、これから重要になってくるとの認識を示している。
ローカル5GはSAでの導入が適切か
ファーウェイ・ジャパンのCTO・CSOである赤田正雄氏は、ローカル5Gの実用例や技術課題などについて説明。日本に先行して5Gの商用サービスが始まっている海外では、キャリアの周波数帯を使った、ソフトバンクの「プライベート5G」に近い形でローカル5Gに類する取り組みが展開されているという。
実際中国では、テレビカメラから5Gで直接4K映像を伝送し、テレビ制作の効率を上げる取り組みや、新型コロナウイルスの感染拡大で臨時の病院を作った際に、5Gを活用した遠隔医療が既になされている。他にも5Gの低遅延を活用し、センシティブな機器のコントロールをするファクトリーオートメーションの実現なども検討されているとのことだ。
ただ、ローカル5Gを導入する上では、4Gのネットワーク上に5Gの基地局を設置するノンスタンドアロン(NSA)と、5Gのネットワーク設備で運用するスタンドアロン(SA)の運用の違いに注意する必要がある。NSAでの運用が求められる現状では、ローカル5Gを新たに構築するのにも4Gのネットワークを用意する必要があり、その影響で一部機器の導入が難しくなるケースもあるという。
また、現在ローカル5G向けに割り当てられている28GHz帯は、帯域幅が広く大容量通信ができる一方、障害物の後ろに回り込みにくく広いエリアのカバーに向いていない。それゆえ4G用の周波数帯として、地域BWA(Broadband Wireless Access)向けに割り当てられている2.5GHz帯を使用した場合、コアネットワーク設備を4Gから5Gに移行した後もこの帯域が必要になる。そうしたことから、真っさらな状態から構築する「グリーンフィールド(のローカル5G)なら、SAがいいのではないか」との見解を赤田氏は示す。
赤田氏は、ローカル5Gでは周波数帯の選択も重要と説明。それゆえ5Gに28GHz帯、4Gに2.5GHz帯を用いたNSAでネットワークを構築した場合、コアネットワークが5Gに移行した後も2.5GHz帯が必要という“縛り”が残ってしまうという
もう1つ、赤田氏はローカル5Gではセキュリティも重要になると説明。基地局やSIMカードなど、従来キャリアに任せていた部分も自身で構築しなければならないことから、仕組みを熟知した上でネットワークを構築・運用しないとセキュリティの穴ができてしまうと警告している。
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