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「鉄道路線5G化」で5Gエリアを急速に広げるKDDI “パケ止まり”対策でも先行石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

KDDIは東京の山手線全30駅および大阪の大阪環状線全19駅のホームに5Gの基地局を設置。同社は、利用者の導線に沿った5Gのエリア化を行っており、人口カバー率が90%に達する2021年度末までには、関東21路線、関西5路線に5Gを拡大していく予定だ。大手3社のエリア展開の方針を振り返りつつ、鉄道を中心に5Gのエリア化を進めるKDDIの狙いに迫る。

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体験重視の姿勢でパケ止まり対策でも先行、地道なチューニングが差を生む

 ユーザーの体験や体感を重視するのは、通信品質の改善にも共通した姿勢といえる。それを端的に示しているのが、“パケ止まり”への対応だ。パケ止まりとは、5Gのエリアの端で発生する、通信不能状態のこと。エリアが狭く、4Gのようにセル同士が重なり合っていないがゆえに起こる現象で、4月ごろからSNSを中心に「5Gなのに通信ができない」といった不満の声を見かけるようになった。

 中でも、ahamoの開始による5Gユーザーの急増や、エリアの拡大が重なったドコモの名前が挙げられるケースは多い。こうした指摘を受け、ドコモはユーザーに対し、一時的に5Gをオフにするよう促しつつ、6月末までに基地局のパラメーターを調整。もともとは5G接続時に、5Gの周波数を優先してデータ通信していたが、電波強度が弱い場所では5Gに接続したまま4G側にデータを流すよう、ネットワークにチューニングを施した。


ユーザーの不満を解消するため、ドコモは品質向上の取り組みを発表。6月末までに基地局にチューニングを施した

 NSA(ノンスタンドアロン)の5Gは、まずアンカーバンドと呼ばれる4Gに接続したあと、5Gの周波数帯を追加。その際には、EN-DC(E-UTRA New Radio Dual Connectivity)と呼ばれる技術で、キャリアアグリゲーションのように4Gと5Gを束ねて通信する。このEN-DCでつながっている4Gにデータを流すようにしたのが、ドコモの取った対策だ。

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 対するKDDIは、試験環境や日本より早く5Gを商用化した海外での事例をもとに、パケ止まり対策をエリア拡大に先立って導入していた。KDDI 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エリア品質管理部 通信品質強化Gの小野田倫之氏は「5Gのエリアを最大化しつつ、基地局のパラメーターを最適化している」と語る。パケ止まり対策の技術的な内容はドコモとほぼ同じだが、事前にそれを察知して基地局の設定に反映させていたのは、KDDIならではといえる。


KDDIは、パラメーターによって事前にパケ止まりが発生することを察知。エリア拡大前に対策を講じた

 「基地局の近くに(ユーザーが)いる場合は5Gで快適に通信できる一方で、基地局から遠い場合は、切断直前まで5Gを引っ張ってしまう。エリアは広くなるが、パケ止まりのリスクは高くなる」(小野氏)のは3社とも同じだが、そのバランスを取る設定を事前にしていたため、auの5Gでは目立ったパケ止まりによるトラブルが発生していないという。

 パケ止まり対策はエリア展開やスループット、料金プランのような目立った指標がないため見逃されがちだが、ユーザーの印象を大きく左右する。パラメーターの最適化には地道な調査や作業が必要で時間もかかるだけに、先行して対策に着手できたKDDIのアドバンテージは大きくなりそうだ。

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