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国内での「Wi-Fi 6E」実現に向けて大きな前進 総務省の審議会が「6GHz帯無線LANの導入のための技術的条件」を答申(2/2 ページ)

スマートフォン、タブレットやスマートフォンで対応機種が増えている「Wi-Fi 6E」だが、日本では法制度が整備されていない影響で利用できない。そんな中、総務省の情報通信審議会がWi-Fi 6Eに関する技術的要件を総務大臣に答申した。今後、国内でのWi-Fi 6E利用を“合法”とするための手続きが進むことになる。【更新】

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日本では「電気通信」「放送」で使われる6GHz帯

 IEEE 802.11axでは電波の帯域幅を「20MHz」「40MHz」「80MHz」「160MHz」から選択可能で、それぞれの幅において「チャンネル」が定義されている。帯域幅と理論上の最高通信速度は比例しており、160MHz幅では20MHz幅の8倍の速度で通信できることになる。このことは既存の2.4GHz帯や5GHzはもちろん、6GHz帯でも同様だ。

 電波の出力モードは、通信速度やエリアカバーを重視した「標準電力(SP)モード」、屋内限定運用を想定した「屋内低電力(LPI)モード」、送信電力を抑制した「超低電力(VLP)モード」の3つが定義されている。

 6GHz帯をアンライセンスバンドとして供用する場合、大きく「どのくらいの帯域幅を確保しておくか」「どの出力方式に対応するか」の2点を検討する必要がある。確保される帯域幅は、設定できるチャンネル数に影響する。そして出力方式の選定は、通信を利用できる場所の制限(設定)に関わる。

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IEEE 802.11ax規格における6GHz帯の技術概要。規格で定義された帯域幅(1200MHz)をフルに使える場合、160MHz幅設定時で最大7つのチャンネルを設定できる(総務省資料より)

 さらに、既に6GHz帯の電波を使っている既存システムの扱いも検討する必要がある。Wi-Fi 6E(や将来のIEEE 802.11be)と既存システムが相互に干渉することで、通信やシステムの運用に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。

 日本の場合、6GHz帯は主に電気通信業務用システム、放送の伝送/中継システムや公共/業務無線システムに利用されている。これらの既存システムについて、単純に別の周波数帯へと移動させることができれば6GHz帯のIEEE 802.11axのポテンシャルをフルに引き出せるだろう。しかし、周波数帯の移動は「移動先」の確保と機器の取り換えに莫大(ばくだい)なコストが掛かるため現実的ではない。

 そこで情報通信審議会は、IEEE 802.11beの規格策定状況を視野に入れつつ、6GHz帯のIEEE 802.11axを既存システムと共存させる方向でシミュレーションや実証実験を通して検討を行った。その結果、以下のような結果を得られたという。

  • 電気通信業務用システム
    • 地上固定通信(5925~6425MHz/6425~7125MHz)は、SPモードを使わなければ共用可能
    • 固定衛星通信(アップロード:5925~6425MHz)は、全モードで共存可能
  • 放送の伝送/中継システム(6425~7125MHz)
    • シミュレーション結果に対して放送中継システム側の合意を得られず(継続検討)
  • 公共/業務無線システム(地上固定通信:6570~6870MHz)
    • 一部の固定通信システムにおいて干渉が許容できない(継続検討)
  • 電波天文システム(6650~6675.2MHz)
    • 干渉が大きく共用できない

情報通信審議会がシミュレーションや実証実験を行った結果。干渉を許容しつつ既存システムとの共存を図る前提に立つと、今すぐ使えそうな帯域は5925~6425MHzの500MHz幅しかないことが分かる(総務省資料より)

Wi-Fi 6Eの利用はヨーロッパ並みの条件で制度化へ

 検討結果を踏まえて、同審議会は6GHz帯におけるIEEE 802.11axの技術的条件案を取りまとめ、金子総務大臣に対して答申を行った。条件案の概要は以下の通りだが、ヨーロッパの規定に準じる形で制度化されることになる(一部、分かりやすくするために表記を変更している)。

  • 利用する周波数帯は5925~6425MHz(500MHz幅)
    • 20MHz幅で利用する場合は24チャンネル設定
    • 40MHz幅で利用する場合は12チャンネル設定
    • 80MHz幅で利用する場合は6チャンネル設定
    • 160MHz幅で利用する場合は3チャンネル設定
  • SPモードの利用は規定しない
  • LPIモードの利用は屋内限定とする
    • 親局(アクセスポイント)は「屋内限定」の表記をした上で、屋外利用に向かない設計(耐候性なし、バッテリーなし)とした上で、アンテナを容易に取り外せない構造とする
    • 子局(クライアント機器)は「屋内限定」の表記をした上で、アンテナを除く変調部/高周波部を簡単に開けられないようにする
  • VLPモードは屋外利用に関する制限を特に設けない
    • 親局はアンテナを容易に取り外せない構造とする
    • 子局はアンテナを除く変調部/高周波部を簡単に開けられないようにする

検討結果を踏まえて策定された「6GHz帯無線LANの技術的条件」の案(総務省資料より)

結果的に、日本ではヨーロッパと同様の技術的要件で6GHz帯のIEEE 802.11axの利用環境が整えられる方向となった

IEEE 802.11beの策定を視野に入れた検討も継続

 6GHz帯のIEEE 802.11axを“合法化”するために、総務省は今後、電波法や総務省令の改訂/新設を進めることになる。

 一方で、現行の方針のままでは、今後策定されるIEEE 802.11be規格においてフルスペック(320MHz幅)で通信できるのは1チャンネルだけという状況となってしまう。そのこともあり、情報通信審議会は以下の事項について継続して検討する。

  • 5925~6425MHz(今回答申に盛り込まれた帯域)
    • SPモードの導入(AFC(自動周波数帯制御)システムの導入が前提)
    • 既存システムに与える影響を考慮した周波数共用条件の見直し
    • 20MHz以下の帯域幅で周波数ホッピング(通信に用いる周波数を短時間で続々切り替える手法)行うナローバンド伝送システムなどとの周波数共用
  • 6425~7125MHz帯(今回答申に盛り込まれなかった帯域)
    • 既存システムと周波数を共用する方法
    • この帯域の使途(ヨーロッパでは移動通信システムでの利用も検討しているため)

今後の検討項目など(総務省資料より)
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