携帯電話の「対応バンド」を増やすのは簡単? コストは掛かる? あるメーカーの回答(2/2 ページ)
総務省の有識者会議で話題となっている携帯電話の「対応周波数帯(バンド)」の話。対応バンドが増えればどのキャリアでも通信の快適性が増す反面、端末のコストに跳ね返るという指摘もある。果たして、対応バンドを増やすのはどういうことなのか、あるメーカーが取材に応じた。
米国では「同一モデル」なのに日本では「別モデル」なのはなぜ?
―― 御社がキャリアAとキャリアBの両方に納入している端末について、米国における「FCC ID」の認証は同一モデルとして取得している一方で、日本国内における「技適など」はキャリアごとに別モデルとして認証を取得しています。米国では「同一モデル」なのに日本では「別機種」として認証を取得することにメリットはあるのでしょうか。
メーカー メリットあるいはデメリットとしての考えはありませんが、現状において可能な最大の効率化だと考えています。
―― 米国では同一モデルとして認証を取得できているということは、両キャリア向けのモデルにはハードウェア的な差分はないと推察できます。にも関わらず、キャリアA向けモデルではキャリアBの、キャリアB向けモデルではキャリアAの800MHz帯に非対応としています。このことに合理性はあるのでしょうか。
メーカー これまで「非対応」として取り組んでいたので、作業的な合理性について特に思う所はありません。コスト面での合理性についても、ビジネス要件を踏まえてキャリアごとに製品化しているため、特に非効率等とは感じていません。
―― 国内の同業他社では「納入先を問わず、原則として国内の全キャリアの主要バンドに対応する」という方針を掲げている所もあるようです。御社ではそのような対応が難しいのでしょうか。
メーカー 社内における今後の検討事項だと考えています。
このメーカーでは、キャリアAとキャリアBに同じモデルを投入する場合、原則として米国における認証(FCC ID)は“同一機種”として取得している。米FCCに提出された資料にも、2キャリアのモデル名が仲良く並んでいることが多い(米連邦通信委員会より、一部加工あり)
他社バンドに対応しないことでコストは削減できる?
―― 他キャリアのバンドへの対応に向けた課題として「動作保証や検証の難しさ」「VoLTEや緊急通報の互換性確保」「認証を取得するためのコスト」などが考えられます。メーカーとして、どのような課題があると認識しているのか教えてください。
メーカー 課題はご指摘の通りです。メーカーとして、解決に向けて日々検討を重ねています。
―― キャリア向けモデルにおいて、他キャリアのバンドへの対応を削ることによって開発/製造に掛かる費用は削減できるものなのでしょうか。
メーカー コスト感は不明です。ただし、バンドだけではなく、価格にはさまざまな要素が反映されます。対応するバンドが減ることで開発/製造費が削減されるとは一概にはいえません。
―― 日本の認証制度について、課題はありますか。
メーカー キャリアごとに工事設計認証を申請する現行制度は特に障壁とはなっていません。あくまでもルールに従って対応していくことを考えています。
―― 対応バンドについては、海外での利用状況や物理的な特性、搭載するチップセット(SoC)の性能など、端末ごとにさまざまな要素が絡んでコストは変動するものと推察しています。この点について、(設計変更が)コストに与える影響はどの程度のものなのでしょうか。
メーカー (モデルによっては)ローカライズに当たって設計から変える必要があることもあります。ただし、この「ローカライズ」は対応バンドだけでなく、他の機能面、例えば日本なら「おサイフケータイ(モバイルFeliCa)」の追加もあります。ローカライズの時点で多少のコスト差は発生しますが、それはバンド対応による影響だけではありません。
たまに「日本の『技適など』(認証制度)が海外端末メーカーの参入障壁になのでは?」という指摘がなされることもある。しかし、少なくともインタビューに応じたメーカーでは障壁であるとの認識はないという。もっとも、認証なしで合法的に無線機が使える国や地域は存在しないので、どこの国や地域で売ることになっても、その国や地域で必要な認証は取得しなければならない(画像はイメージです)
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