スマホの「対応Band」はどうやって決める? 大手キャリアが説明(1/3 ページ)
総務省の「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」において議論の1つに取り上げられた「スマホの対応Band」。その決定過程に関する大手キャリアへのヒアリングが行われた。キャリアの立場からすると、あくまでも「メーカーの判断」という答えになるようだ。
携帯電話端末は、電波を使って基地局と交信をする。その電波の周波数帯(Band)は総務省が携帯電話事業者(キャリア)に割り当てている。
キャリアが販売する携帯電話電話端末は、自社で使っているBandに最適化されていることが一般的だ。ところが、他社で使っているBandに“意図的に”対応しないことで顧客間接的に顧客流出を防いでいるのではないかという声が一部で上がっている。
そんな声を受けてか、総務省では「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」の重要テーマの1つに「携帯電話端末における対応Band」を取り上げることになった。
4月11日に行われた競争ルールの検証に関するWGの第28回会合では、端末の“発売元”となることが多いキャリア4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)の4社からのヒアリング(意見聴取)が行われた。各社はどのような説明をしたのだろうか。
大前提:対応Bandの決定権は“メーカー”にある
日本国内で使われる無線機は、原則として電波法に基づく「技術基準適合証明」「工事設計認証」を取得するか「技術基準適合自己確認」を行う必要がある。その無線機で音声通話やデータ通信を行う場合は、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」も取得する必要がある。これらはまとめて「技適など」と呼ばれており、「技適マーク」と一緒に証明(確認)/認定番号を表示することで日本において“合法的な”無線機として利用できるようになる。
これは海外でも同様で、ある国/地域を本拠として利用する無線機は、当該の国/地域における技適などに相当する証明/確認/認定を受ける必要がある。
ここでポイントとなるのが「無線機としての証明/確認/認定を取得する主体」である。携帯電話端末の場合は、端末を製造/輸入する事業者、つまりメーカーが証明/確認/認定を取得することが一般的である。
議論を進める上で、ごく一部の例外を除いて対応Bandに関する決定権は基本的にメーカーにあるということは念頭に置かなければならない。
NTTドコモが発売した「Galaxy Z Flip SC-54B」の認証表示。この端末は日本における「技適など」と米国における「FCC ID」を取得しているが、いずれもメーカーである韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が申請者となっている
同じくNTTドコモが発売した「arrows 5G F-51A」の認証表示。SC-54Bと同様に技適などとFCC IDを取得しているが、いずれもメーカーである富士通コネクテッドテクノロジーズ(現在のFCNT)が申請者となっている。ちなみに、少し詳しい人は見れば分かると思うが、F-51Aは国内においてW-CDMA規格(3G)で通話を行う際に必要な技術基準適合認定を取得していない(SC-54Bは取得している)
対応Bandの決定にキャリアはどう関わっている?
先述の大前提を踏まえて、各キャリアは端末の対応Bandにどのように関わっているのだろうか。会合における各キャリアの説明を見てみよう。
NTTドコモ:Apple以外には「必須」「推奨」「任意」に分けて対応を要望
NTTドコモでは、自社が保有する5G/LTE(4G)ネットワークのBandについて「必須」「推奨」「任意」の3カテゴリーに分けて対応を要望しているという。そこから複数回の協議を経て、実装(対応)するBandを決定するとのことだ。他キャリアが利用するBandの実装については特に指示はしておらず、メーカーに任せているという。
自社ネットワークにおける「必須」「推奨」「任意」の内訳は「構成員限り」(※1)とされたが、対応状況を見る限り「必須」とされているのは以下のBandであると思われる。
- 5G:n78(3.7GHz帯)
- LTE:Band 1(2.0GHz帯)、Band 3(1.7GHz帯)、Band 19(800MHz帯)
なお、Appleの端末(iPhone、Apple WatchやiPad)については、ドコモが割り当てを受けているBandを情報として伝達しているだけのようで、実装するBandは協議なくAppleが決定しているようだ。
(※1)総務省に提出した資料は公開されることがが原則だが、経営秘密に相当する情報(資料)は一部または全部を非公開(構成員にのみ公開)とすることもできる
対応Bandの法規制(義務化)あるいは業界標準化が行われた場合の懸念点としては、主に「端末コストの上昇」「ボディーの大型化」といった商品性の低下だけを危惧する意見を述べている。
ドコモによると、Apple以外のメーカーの端末では自社のBandを「必須」「推奨」「任意」の3カテゴリに分けた上で、複数回に分けて協議して対応Bandを決定しているという。他キャリアのBandへの対応は特に関知していないそうだ。なお、Appleについては協議をせず、事実上の“お任せ”としているようだ(総務省提出資料より、PDF形式)
自社が販売する端末を他キャリアで販売した場合の情報提供について、ドコモは自社での告知だけでなく情報の一元化の必要性を提言している。総務省がWGの第26回会合の資料に盛り込んだ一覧表のようなものを同省の「携帯電話ポータルサイト」などに掲載したり、各キャリアのWebサイトからその情報へのリンクを設けたりすることを想定しているようだ。
KDDI:同社に割り当てられたBandについて対応を要望
KDDI(※2)では、同社に納入される端末について、同社に割り当てられたBandへの対応は依頼する一方で、他キャリアのBandに対応することは制限していないという。ただし、依頼の詳細は「構成員限り」となっている。
(※2)沖縄県を管轄する沖縄セルラー電話を含む(以下同)
KDDIでは自社の保有するBandへの対応はお願いする一方で、他キャリアのBandに対応しないように指示することはないとする。ただし、どのような依頼をしているのかは「構成員限り」となっている(総務省提出資料より、PDF形式)
対応Bandの法規制(義務化)あるいは業界標準化が行われた場合の懸念点としては、一般論として部材の調達、証明/確認/認定を取得するために必要な評価、申請手続きなど、端末の開発から製造に至るまでのコスト増を上げている。もしも何らかのルール化を行う場合は、端子メーカーの意向をよく確認してほしいとの注文もつけ加えた。
なお、KDDIの説明資料では一般論としてのコスト増については触れられているものの、端末の対応Bandがもたらしうる“利用者視点”から見たメリットとデメリットが「構成員限り」となっている。
KDDIによるヒアリング事項の回答の一部。Bandの対応依頼の詳細は「構成員限り」でも違和感はないが、利用者目線に立った際のメリットとデメリットが「構成員限り」であることには大きな違和感を覚えてしまった(総務省提出資料より、PDF形式)
参考に、ドコモは対応Bandの法規制(義務化)や業界標準化が行われた場合のメリット/デメリットと合わせる形だが、利用者目線に立った際のメリット/デメリットも提示している(総務省提出資料より、PDF形式)
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