Appleの「iPhone 14」戦略を読み解く 例年以上に“無印とProの差”が広がった理由:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
4機種展開を継続したiPhone 14シリーズだが、最小サイズのiPhoneである「mini」はラインアップから姿を消した。iPhone 14やiPhone 14 Plusは、iPhone 13 Proに近い機能を備えている。一方で、iPhone 14 ProやiPhone 14 Pro Maxには新機能が多く、ユーザー体験を変えようと模索している様子がうかがえる。
新たなユーザー体験を模索するProモデル、カメラ機能も刷新
鍵になるのが、新たに採用する「ダイナミックアイランド」や、常時表示ディスプレイ、4800万画素のメインカメラだ。Proモデルにのみ搭載されている「A16 Bionic」は、全体的な処理能力を大幅に上げるというよりも、こうした機能を実装するためにカスタマイズを加えたプロセッサだ。
A16 Bionicは、単純な処理能力の底上げではなく、iPhone 14 Proモデルの新機能を実現することを重視したプロセッサ。ディスプレイエンジンやISPにさまざまなカスタマイズが加えられている
Proモデルには2機種とも、いわゆるノッチではなく、ディスプレイの中にインカメラやFace IDを実現するためのセンサーが配置されている。機能の違いはあるが、ディスプレイの一部に穴を空けてカメラを配置するのは、最近のスマートフォンでは一般的な仕様。ミドルレンジモデルはもちろん、エントリーモデルも多くがこうした形状になっている。むしろ、センサーを多く搭載している分だけ、iPhone 14 Proの穴は大きい。
ハードウェアだけを見ると単なる小型化したノッチになってしまうが、Appleはここを“島”に見立てて、バックグラウンドで動作しているアプリの情報を表示するためのエリアに仕立て上げた。滑らかな動きは、あたかもディスプレイに浮かぶ島が、自由自在にそのサイズを変えているように見える。実はA16 Bionicによるアンチエイリアス処理が、この動きを実現しているという。
ハードウェアとソフトウェアを別々に作っていると、なかなか出てこない逆転の発想で、この部分は、その両方を垂直統合的に作り上げているAppleらしいアプローチだ。バックグラウンドで動いているアプリが明確に分かり、タップすると“島”が拡大し、操作が可能になるため、ユーザーインタフェースとしても直感的だ。スペシャルイベントのキーノートでは、ダイナミックアイランドが紹介された際に、参加者が大きくざわめいていたことからも、反響の大きさがうかがえる。
ディスプレイは1Hzから120Hzにリフレッシュレートが可変するようになり、常時表示に対応した。1Hzまでリフレッシュレートを落とすことで、バッテリーへの影響を最小限に抑えつつ、情報を常に画面に出しておくことができる。そのために、iOS 16では、ロック画面を刷新し、ウィジェットを配置できるようになった。バックグラウンドで動作するアプリの情報を表示する「ライブアクティビティ」も、この常時表示を見据えたものだった。ハードウェアとOSを連携させ、ユーザー体験を作り上げる手法は、ダイナミックアイランドと同じ。ここにも、Appleの強みが発揮されていることが分かる。
カメラは、焦点距離24mmのメインカメラを刷新して、4800万画素に画素数を上げた。ピクセルビニングに対応しており、4つの画素を1つに結合することで、1200万画素相当のカメラとして明るい写真が撮れるようになる。「ProRAW」を使うと、明るさは落ちるが、4800万画素をそのまま使って撮影することも可能。先に上げたフォトニックエンジンにも対応しており、暗所での写りをさらに向上させている。
無印のiPhoneを機能的に強化したこれまでのProモデルに対し、iPhone 14 Proは、ユーザー体験を変えることに重きを置いているようにも見える。Appleのティム・クックCEOが「iPhone 14 ProとiPhone 14 Pro Maxは、iPhoneの新しい体験方法を提供する」と語っていたことも、それを裏付ける。Proモデルの役割が、微妙に変化しているというわけだ。
一方で、無印側のiPhone 14は、iPhone Xから続くiPhoneの系譜を受け継いだ端末だ。このラインアップは、デザインからUIまでを丸ごと刷新したiPhone Xと、過去モデルのスタイルを受け継いだiPhone 8、iPhone 8 Plusを用意した2017年に近い。「次の10年を方向づける」(同)と銘打ってiPhone Xの登場から5年がたち、ホームボタンを廃したiPhoneは後半戦に突入しようとしている中、Appleも次の一手を模索している様子がうかがえた。
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