東急がQR・クレカで改札通過「Q SKIP」スタート、Suica型ではない理由は?(2/2 ページ)
東急電鉄は8月30日、新たな乗車サービス「Q SKIP」を開始した。スマホでチケットを購入後、QRコードやタッチ決済対応のカードをかざして改札を通れる。VisaとJCBのタッチ決済にも対応しているが、Suicaのような事前精算システムではなく、事前に1日券を購入する方式となっている。
Q SKIPのタッチ決済がSuica/PASMO型の自動精算ではない理由
今回のQ SKIPは、タッチ決済対応カードの使い方としては独特な方式をとる。一般的なオープンループの仕組みでは、切符の事前購入は必要なく、改札通過時にクレジットカードをかざせば自動で運賃が計算して差し引かれる。後払い式である点を除けば、SuicaやPASMOなどのプリペイド型交通系ICカードと同じ感覚で利用できる。
それに対してQ SKIPは、サービス開始時点ではタッチ“決済”の機能は“決済時”には利用せず、改札通過時の認証のみに用いる。三井住友カードの石塚雅敏氏は「Visaのタッチ決済を認証だけに使用する仕組みは、海外でもあまり事例がない」と話している。
東急は、後払い型のシステムに対応しなかった理由を「提供範囲を限定できるから」と説明する。その説明の背景には、「相互乗り入れ」という首都圏特有の鉄道路線ならではの事情がある。首都圏では東京メトロと都営地下鉄という2つの地下鉄を中心に、私鉄各社とJR東日本の路線が接続している。各社の路線を直通で運転する相互乗り入れが実施されていて、一体的な鉄道ネットワークを形成している。
例えば東急田園都市線の場合は、渋谷で東京メトロ半蔵門線と接続しており、東武鉄道の東上線・伊勢崎線まで一体的に運行している。SuicaやPASMOなどの交通系ICには事業者をまたいでの運賃清算に対応しており、東急線の改札から入って、相互乗り入れ先の東武線の駅で清算する場合も問題なく利用できる。
ここで仮にタッチ決済を導入する場合、混乱が生じる可能性がある。東急線内でタッチ決済によって入場した乗客が、直通先の路線まで乗車してしまった場合は、有人窓口で運賃清算を行うことになる。既にSuicaやPASMOが普及している中で、クレジットカードをかざすだけで乗車できる後払い型タッチ決済を導入すると、こうした誤乗が多発する可能性がある。
そのため今回のQ SKIPの場合は、Webサイトで切符を事前に購入する形として、決済時にカードのみを改札通過に利用できる仕組みとなっている。事前に登録されたカード以外では入場できないようにすることで、利用時の混乱を防いでいるというわけだ。
なお、この相互乗り入れの課題は、数年で改善される見込みもある。東京メトロは8月7日に、2024年度中にクレジットカードのタッチ決済とQRコードを活用した乗車サービスの実証実験を開始すると発表している。東京メトロは現時点で実証実験の詳細は明らかにしていないが、そこでは相互乗り入れ路線でのタッチ決済を利用する仕組みも検討されることになるだろう。
相互乗り入れ各社間の制度的な課題の整理が進めば、首都圏の鉄道路線で一気にQRコード乗車券とタッチ決済の機運が進むシナリオもありえるだろう。
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