ドコモのパケ詰まり問題に終止符? 「全国2000箇所以上+鉄道動線」のエリア対策を強化(1/2 ページ)
ドコモがネットワーク品質向上の取り組みを説明。300億円を先行投資、2000箇所以上と鉄道動線でエリア対策を強化する。SNSや機械学習を活用し、トラフィックが増えそうな場所も先回りで対策していく。
NTTドコモが10月10日、ネットワーク品質改善の取り組みに関する説明会を開催。ドコモ ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏が具体的な改善策を説明した。
ドコモでは繁華街を中心に通信品質が低下する事象、いわゆる「パケ詰まり」が起きており、2023年初頭から「つながりにくい」という声が目立つようになった。5Gのエリア拡大が追い付かず、4Gのトラフィックが増大したことが主な要因だ。そこで同社では、基地局ごとのカバーエリアの調整、周波数間の偏りをなくす分散制御、基地局の増設といった対策を進めてきた。
【更新:2023年10月11日8時30分 パケ詰まりの発生時期について、一部加筆修正しました。】
都内では、渋谷、新宿、池袋、新橋の4エリアでの通信品質改善を重点的に進めてきた。渋谷では、渋谷駅ホームの屋内アンテナ再設置工事や、基地局への5G/4G設備の増設、カバーエリアの調整により、5Gは20~100Mbps以上、4Gは10~20Mbps以上のスループットを記録した。新宿、池袋、新橋についても、新たな5G基地局の設置や駅周辺基地局への5G設備増設、カバーエリアの調整により、5Gは100Mbps以上、4Gは10~30Mbpsのスループットを記録した(いずれも下りの速度)。
今後は、対策が必要になるエリアを予測し、全国2000箇所以上のエリアを「点」で対策することに加え、人の移動が多い全国の鉄道動線でも快適に通信できるよう「線」での対策も強化していく。鉄道は50路線ほどを対象としており、東名阪がメインだが、他の地域も含まれているという。
300億円を先行投資、2000箇所以上と鉄道動線でエリア対策を強化
2000箇所の対策エリアは、無線のリソースの使用率を見て決めたという。「ピークで使っている量を確認して、このまま伸びていくとピークに近づくなと(いう場所を選んだ)。都市部もルーラルも含めて、人口が多い場所はトラフィックが急激に伸びる可能性があるので、それも考慮した」(小林氏)。
「(エリアを強化する)2000箇所は全てが都市部というわけではなく、住宅街や屋内も含まれる。ルーラル(地方)になると、周りに基地局がないので新設が必要な場合もある」(無線アクセスネットワーク部長の林直樹氏)
こうした将来需要を見据えた集中対策について300億円の先行投資を行う。具体的には、基地局の増設と新設が主な内訳で、それらの基地局は「1000局以上になる」(小林氏)とのこと。2000箇所については2023年9月時点で約70%の対策が完了しており、2023年12月までに90%以上の完了を目指す。鉄道動線については、2023年12月までに既存基地局を活用した対策を完了させる。
SNSと機械学習でエリアの混雑を予測
では、具体的にどのように品質を改善させるのか。1つが、データやSNSを活用した手法だ。SNSで「○○でドコモの通信が遅い」といった投稿を収集し、これらの情報を機械学習させることで、今後混雑が予想されるエリアをメッシュ単位で抽出するという。
機械学習には、ドコモが2023年8月に発表した「LLM付加価値基盤」を活用する。LLMとは大規模言語モデルのことで、プロンプトの入力時に回答のもとになるデータを投入すると、その内容をもとに回答を生成してくれる。強化する2000箇所以上のエリアや鉄道動線も、このLLM付加価値基盤を使って絞り込んだ。SNSの声をベースにした予兆検知は、手作業だと時間がかかるが、機械学習を用いることで、「1カ月分くらいを1日で分析できる」(小林氏)とのこと。
一方、ソフトバンクが、グループ会社Agoopのアプリから取得できる位置情報を活用し、端末の通信品質をリアルタイムで把握している取り組みは、ドコモでは実施していない。SNSでのデータ収集のみだと、質と量の面で見劣りする。これについて小林氏は「通信品質で不満があるという声を、1件ですぐに対策することはしていない。3件など条件を決めて、複数ヒットしたところを抽出して精度を高めている」とコメント。さらに、SNSで不満の声があった場所には出向いて、現地でも通信品質を確認しているという。
ネットワークの高度化も実施 Massive MIMO導入、上り品質も改善
ネットワークの高度化も実施する。1つが、基地局側に多数のアンテナを取り付けてより大容量の通信を可能にするMassive MIMOの導入だ。これを応用し、ビームを分散させて複数のユーザーが同時に通信可能にする「MU-MIMO(マルチユーザーMIMO)」も取り入れる。
Massive MIMOについては、ドコモが従来使っていた装置から約20%以上小型化しており、消費電力は50%以上低減できることを確認済みとのこと。特に小型化のメリットが大きく、「(アンテナの)設置条件が緩和されることで、ビルのオーナーとの調整もしやすくなる」と小林氏は期待を寄せる。Massive MIMOは積極的に導入していくが、具体的な設置数は未定。
ドコモのパケ詰まりでは、上りの速度低下が目立っていたが、5Gと4Gで最適な上りの通信経路を選択する機能を高度化させることで、5Gのセルエッジ(セルの端)での上り速度が従来の2倍になったという。そもそも上り速度が遅い理由について小林氏は「回線設計上、ダウンリンク(下り)はパワーを強くすればいが、アップリンク(上り)側のセル半径はどうしても狭くなる」と説明。そこで、上りはより4G側に早めに切り替えることで、下りの性能がフルに発揮できるようになり、全体のエリア改善を図れるという。
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