楽天モバイルの「プラチナバンド」拡大計画が遅いワケ 背景にある“複雑な事情”:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
6月に導入した「Rakuten最強プラン」や各地域でのマーケティング強化、法人契約の拡大などにより、楽天モバイルが好調だ。KDDIとの新ローミング契約や、プラチナバンドである700MHz帯の獲得により、エリアの拡大にもめどが立ち始めている。一方で、同社はコスト削減の必要もあり、700MHz帯のエリア展開はやや消極的にも見える。
制約も多い楽天モバイルの700MHz帯、自前でのエリア拡大には課題も
理由の1つには、KDDIローミングがありそうだ。新ローミング協定で、都市部などにパートナー回線エリアを拡大することができ、建物内などのカバーがしやすくなる。こうした場所でのローミングはこれからスタートする。提供時期は2026年9月までとされており、それまでの期間は、KDDIのネットワークに頼ることが可能だ。同じような場所に、二重でコストをかけてまで基地局を建てる必要はないというわけだ。投資が後半に集中するとしていた、楽天モバイルの主張とも整合性が取れる。
楽天モバイルが獲得した700MHz帯は、制約も多い。もともとこの周波数帯は、ITS(高度道路交通システム)や特定ラジオマイクが利用しており、そのガードバンドを一部削る形で捻出されたものだ。他の無線と周波数が隣接しているため、出力が高いと干渉も起こる。そのため、楽天モバイルに割り当てる際の条件として、基地局と端末の距離を適切に設計し、上りの周波数を抑える対応が求められている。高い鉄塔を建て、広い範囲を一気にカバーするにはあまり向いていないといえる。
また、先に述べたように、この700MHz帯は、3MHz幅と帯域幅が狭い。ガードバンドからひねり出したためだ。帯域幅が狭いと、そのぶん収容できる端末数が減り、理論値の速度も低下する。4Gがスタートしたころより技術が進んでいるため、下りで30Mbpsまでは出せるものの、これは2レイヤーのMIMOをアンテナに使い、変調方式を256QAMにした場合の話。特に後者は、通信環境が悪いと実現しづらい。現時点では他の周波数とのキャリアアグリゲーションにも対応していないため、やみくもに増やすと“パケ詰まり”の原因にもなる。
ただ、あまりに展開が遅いと、3MHz幅の700MHz帯ではユーザーが収容しきれなくなる恐れもある。楽天モバイルは、2024年末までに800万から1000万契約を目指すとしているが、ドコモが当初、この周波数帯でカバーできる契約者数を試算した際の収容数は1100万。早ければ2025年に、このキャパシティーを超えてしまう恐れがある。結果として通信品質が下がってしまうのは本末転倒だ。現時点では品質への評価は高いだけに、その売りを手放してしまうことにつながりかねない。
出力を抑えながら密な展開をしなければならない一方で、時間がかかりすぎるとユーザーの拡大に追い付かない可能性もあるというわけだ。貴重なプラチナバンドではあるが、そのかじ取りはかなり難しそうに見える。さらに楽天モバイルの場合、投資を抑制しながらという条件もつく。開設計画はあくまで最低限の予定だというが、基地局設置のペースを上げていくには、クリアしなければならない課題も多そうだ。
関連記事
楽天モバイル、2024年末までに800万回線突破で黒字化を目指す SPUは「多くの方々にはアップグレードになる」と三木谷氏
楽天モバイルは赤字が続いているが、営業利益は改善している。700MHz帯の獲得や新ローミング契約でネットワークの品質も改善していく。契約者数と売上アップのためには、「楽天グループのエコシステムのベネフィットを最大に活用していく」(三木谷氏)という。楽天モバイル三木谷会長、他キャリアとの“協調”について「可能性をいろいろと検討していく」
楽天グループが2023年度第3四半期の決算を発表した。前日にあったソフトバンクの決算説明会では、同社の宮川社長から「楽天モバイルに基地局ロケーションやバックホール回線を貸す議論をしてもいい」という旨の発言があった。楽天グループの三木谷浩史社長(楽天モバイル会長)は、どう思ったのだろうか。楽天モバイルはプラチナバンドをどう活用するのか サービス開始時期や“パケ詰まり”対策についても聞いた
楽天モバイルがようやくプラチナバンドを獲得した。総務省が10月23日に楽天モバイルへの割り当てを発表した。プラチナバンドを楽天モバイルがどのように考えているのか、また今後、“パケ詰まり”の対策をどのように行うのか、楽天モバイルに聞いた。「NTTの考えは詭弁」「楽天モバイルにバックホールを貸す議論をしてもいい」 ソフトバンク宮川社長が熱弁
ソフトバンクが第2四半期の決算を発表。モバイル事業が下げ止まって、想定よりも早く回復していたこと、エンタープライズ事業やLINEやヤフーのメディア・EC事業が好調なことから利益が拡大した。宮川潤一社長が、NTT法や楽天モバイルのプラチナバンドについての考えも述べた。楽天モバイルがプラチナバンド(700MHz)を獲得 「つながりにくさ」を克服できるか
総務省は10月23日、楽天モバイルに対するプラチナバンドの割り当てを発表した。楽天モバイルは700MHzから900MHzまでの帯域を保有していなかった。プラチナバンドは1.7GHz帯の電波と比べて障害物に強く、エリアカバーを広げる上で有利とされている。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.