「スマホのバッテリー交換」を容易にする動きが進む それでもデメリットが消えない理由(2/2 ページ)
EUにてスマートフォンのバッテリー交換規制が強化され、2027年にはバッテリーを容易に交換できる機種でないと、同地域では販売できなくなる見込みだ。これについてメーカー各社も既に手を打ち始めている。既にEUでは「修理のしやすさ」が市場でスマートフォンを選択する上での差別化要素になっている。
バッテリー交換規制を求める背景は? 交換可能になることの懸念も
最後にこの規制の背景と懸念点を考えてみる。スマートフォンを簡単に修理できるようにする取り組みについては、EU内ではドイツなどで根強い「修理する権利」が有名だ。メーカーで高額な修理費を払う以外の選択肢がないことに異を唱えるものであったが、この流れや各種環境意識の高まり、物価上昇の影響もあって消費者には「長く使えるスマートフォン」に関心が高まっていることは事実だ。
その結果か、 Appleやサムスンをはじめ、今ではXiaomiも長期のソフトウェアアップデートをアピールする背景には、欧州地域の「長く使う」という意見が反映されているように考える。
中でもフランスでは「修理可能性指数」の表示が、スマートフォンなどの製品に対して進められている。この指数は分解修理の難易度、修理用部品の入手性、供給期間の長さなどの要素を数値化し、最大10点の点数がつく。このスコアが高ければ修理しやすく、部品も入手しやすくなる。
これを点数化して商品に表示することで、消費者は「修理しやすいスマートフォン」を選択しやすくなる。性能やコストだけではない「選択肢」が比較検討できる環境にあるのだ。また、自分で修理できなくても修理難度の低いスマートフォンは修理料金が安くなっているものもあり、パーツの入手性もよければその分修理も短時間で終わる。自分で交換しなくてもプラスに作用するのだ。
フランス向けのGalaxyでは公式ストアにて修理可能性指数が表示されている。参考のGalaxy Z Flip5は8.0点、Galaxy S23は8.2点となっており、この指数の高さで「修理しやすい製品」を選べるのだ
このような数値を表示する背景には、修理を検討するユーザーが環境意識の高まりとともに増えていることが考えられる。フランスの政府機関の意識調査では、半数以上の方が長持ちする製品を使い、買い替えよりも修理することを経済的と認識している。また、半数以上の方が責任ある消費のため、二酸化炭素削減、環境配慮などがなされた製品を使用したいという結果が出ている。
その一方で、素人修理による品質の低下、不均一化のデメリットは消えないだろう。正規部品を利用し、手順書通りに修理しても品質に差が生まれることが事実だ。特に防水性能を自己修理で出荷時レベルで確保することは困難で、適切に修理できなければ水没などで故障の要因になる。
これに対し、「自己責任」で片付けることができればいいが、メーカーとしては思わぬ事故によるイメージダウンの可能性があるため、今回のEU規制を含めて品質面では慎重な動きを見せている。
また、中古市場には品質の伴わない自己修理品が出回る可能性が高く、消費者が中古市場で購入するにはそれを見分ける「目利き」が必要になってくる可能性があるのだ。品質の劣る純正以外の部品はスマートフォン側で弾くことはできても、「純正品を用いた個人のDIY修理」となればスマホ側で検出することは難しい。そのような理由から自己修理における品質をチェックする方法の確立、中古品ではセルフリペアといったランク付けが必要になってくるのではないかと考えられる。
消費者の環境意識の高まりから、バッテリー交換規制が必要になることは理解できるが、消費者が自己修理によって品質を担保できるかについては検討されていない。このような部分も手順の簡略化や素材の変更など、品質担保できる仕組みの構築でメーカー側も対応することになると考えるが、このようなコストは最終的に端末の価格や修理価格に返ってくることになる。あと4年間の猶予があるうちに、行政もメーカーもしっかり検討を行わねばならないと考える。
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