Pixelの大躍進、折りたたみスマホの民主化、安ハイエンドの台頭――2023年のスマホ動向を振り返る:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
2023年のスマートフォンは出荷台数が大きく低下。その反面、フォルダブルスマホのラインアップが広がったことに加え、より手に取りやすい価格帯のハイエンドモデルのラインアップが徐々に増えた。機能面では、IT業界のトレンドともいえる生成AIをデバイス上の処理で実現する動きも健在化している。
台頭する“安ハイエンド”、生成AI対応も24年以降拡大へ
ソフトバンクがrazr 40sを実質1万円以下で販売できたのも、大本の本体価格にそれなりの値ごろ感があったからだ。これが20万円超になってくると、割引を積み増すのが難しくなってくる。razr 40sの場合も、MNPで約2万円、新トクするサポート(12月27日からは新トクするサポート(バリュー))で約9万円を免除する仕組みを採用している。後者は端末の下取りが条件になっているため、ソフトバンク側が負担する金額は少なくなる。10万円前半のモデルであれば、比較的安価に見える実質価格を打ち出しやすいというわけだ。
一方で、スマホの高機能化が進み、円安や部材の高騰が重なった結果、ハイエンドモデルは20万円を超えるのが一般的になりつつある。例えば、先に挙げたGalaxy Z Fold5の256GB版は、ドコモで25万7400円。フォルダブルスマホだけが突出して高いわけではなく、ソニーの「Xperia 1 V」もドコモ版は21万8680円。シャープの「AQUOS R8 pro」も20万9000円と、いずれも20万円を超えている。iPhoneも、上位モデルの「iPhone 15 Pro」は128GB版のドコモでの価格が19万2060円。辛うじて19万円台は維持しているものの、256GB版以上は軒並み20万円超えだ。
こうした中、メーカー側、キャリア側もミッドレンジモデルとハイエンドモデルの“間”を埋める端末を増やしている。いわば“安ハイエンド”といったスマホだ。一例を挙げると、シャープは23年からハイエンドモデルのラインアップを2つに分け、最上位モデルのAQOUS R8 proの下に「pro」が付かない「AQUOS R8」を用意した。プロセッサはproと同じ「Snapdragon 8 Gen 2」だが、カメラに1型センサーを採用していないなど、至るところでコストダウンを図っている。
同様に、ソニーもコンパクトハイエンドとしてブランディングしていたXperia 5シリーズをリニューアル。「Xperia 5 V」は、カメラもあえて2眼にして、若者向けの手軽に持てるハイエンドモデルとしての位置付けを明確にした。先に挙げたGoogleのPixel 8も、「Pro」が付かない無印モデルは10万円台前半。こうした端末に割引とアップグレードプログラムを提供し、実質価格を下げて販売する手法が目立った。発売日から実質24円(現在は1年で実質12円)で注目されたXiaomiの「Xiaomi 13T Pro」も、同様の仕組みで提供されている。
プロセッサさえ最上位モデルにそろえておけば、カメラの画像処理やゲームのグラフィックス処理などには同等の性能を発揮できる。付加的な機能を抑えている分、特徴を出しづらいのはメーカー泣かせなところだが、それ以上に市場は冷え込んでいた。こうしたモデルの投入により、スマホ市場の縮小に歯止めをかけられるのかに注目が集まる。
また、スマホの処理能力を生かし、新機能に生成AIを組み込むトレンドも見えてきた。先駆けとなったのは、GoogleのPixel 8シリーズ。同機に搭載された「編集マジック」や「ベストテイク」「音声編集マジック」といった機能は、生成AIによって実現したもの。編集で消えてしまった背景をAIが描き足したり、合成した顔を体に合わせて自然に処理したりできるのが、AIを活用するメリットだ。フィーチャーアップデートでは、Pixel 8 Proのボイスレコーダーに英語の要約機能も加わった。
こうした動きは、他のスマホにも広がろうとしている。Qualcommは、「Snapdragon 8 Gen 3」のAI性能を大幅に強化し、生成AIへの対応を促している。Pixelの編集マジックなどは、一部クラウドを使っているが、Snapdragon 8 Gen 3では、近い機能をデバイス側だけで完結できるよう、処理能力を高めている。同チップを搭載したスマホが日本で発売されるのは、2024年から。スマホの使い方を大きく変える可能性を秘めているだけに、注目しておきたい動きといえる。
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