携帯電話ショップが“にぎわっているのに”閉店? 「売れない」以外の構造的な理由:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(2/3 ページ)
最近、客入りの良い携帯電話ショップ(特にキャリアショップ)が突然閉店する事例が見受けられる。なぜ、もうかっていると思われる店舗をあえて閉店(あるいは営業譲渡)してしまうのだろうか。理由を説明しよう。
客入りのよい携帯電話ショップが閉店する理由は?
携帯電話ショップが閉店する一番の理由は「売れないから」だ。携帯電話(端末/回線)を販売したり、契約を獲得したり、さらにオプションサービスなどを獲得したりすると、ショップにはインセンティブ(販売奨励金)が支払われる。これが一番の収益源なので、とにかく携帯電話が売れてくれないと、もうける“きっかけ”すらない状況にある。
前回も述べた通り、電気通信事業法と同法のガイドラインによって、端末を安価に販売できるキャンペーンを打ち出しづらくなった。そこに端末価格の高騰などが相まって、携帯電話はある意味で“売りづらい商材”となっている。
とても悲しいことだが、「売れないから閉店」は納得の結果ともいえる。
2019年10月に施行された改正電気通信事業法と関連ガイドラインによって、以前のような端末の値引きが難しくなった。2023年12月のガイドライン改定で値引上限額は原則引き上げられたものの、回線契約にひも付かない値引きにも規制が入ったため、考えようによっては値引きが一層しづらくなっている
しかし、先に筆者が挙げた2つのキャリアショップのように、“客入りが良い”店舗が突然閉店したり、他の代理店に経営譲渡されたりすることもある。一体なぜなのか――そこには「屋号」と「ボリューム(スケール)」という考え方が絡んでくる。
端末や回線の販売に伴うインセンティブや、各種手続きの受け付けを代行することによって得られる「販売手数料」は、当該店舗……ではなく、店舗を運営する代理店にまとめて支払われる。
ある「代理店A」が運営する特定の1店舗が、あるキャリアにおける販売量で日本一となれば、「店舗単位の評価」では最大評価となる。そのため、運営元の代理店Aには高額のインセンティブが支払われる……のだが、他の店舗での販売数が少なければ「販売代理店としての評価」は下がってしまう。
逆に、店舗単位での販売量では上位をなかなか取れない「代理店B」は、各店の「店舗単位の評価」では奮わない。しかし、同社が運営する店舗での販売数を足し合わせると日本一となれば、「販売代理店としての評価」は確実に高い。
実は、キャリアから支払われるインセンティブには、店舗単位で計算される部分に加えて代理店(企業)単位で計算される部分もある。キャリアによって若干の差はあるものの、基本的には代理店単位で計算される比率の方が大きい。販売量に差がない前提に立つと、「1店舗で極端に稼ぐ代理店A」よりも「複数店舗で確実に稼ぐ代理店B」の方がインセンティブを多く得られる可能性が高い。
販売量が同一で、運営店舗数も5店舗で同一な「代理店A」と「代理店B」があったとする。この円グラフは代理店内における販売量シェアを示したものだが、店舗としての評価は間違いなく「代理店Aの店舗A」が最高位となる。一方で、代理店としての評価は、店舗間で販売量の均整が取れている代理店Bの方が高くなる
ここまで来れば、「にぎわっているのに突然閉店するショップ」あるいは「他の代理店に運営権を譲渡されるショップ」が出てくる理由が見えてくる。単体店舗では高い評価を受けられても、他店舗が足を引っ張ってしまい、代理店全体では厳しい経営状況に陥ってしまうケースがあるのだ。
「だったら、にぎわっている(≒もうかっている)店舗を残すべきでは?」と思うかもしれない。一見すると、それは正しい判断のように思える。しかし、携帯電話ショップの場合、にぎわっている店舗の方をあえて閉鎖(または営業譲渡)した方が経営面でプラスになることもある。これも「屋号」と「ボリューム」という考え方が関わってくる。
昨今、いろんな業界で人材不足が叫ばれているが、それは携帯電話ショップも例外ではない。にぎわっている店舗では、にぎわっている分だけ人員を多く確保しなければならない。そこで、閑散としている(≒売り上げの少ない)店舗を閉鎖し、人員と売り上げを繁忙店舗に“集中”させる――確かに、理屈は通る。足を引っ張る店舗もなくなり、万々歳だ。
しかし、そうすると屋号全体、言い換えると代理店全体で販売数のボリュームを確保するのが難しくなってしまう。先述の通り、キャリアのインセンティブ評価は、店舗単位よりも代理店単位の方が比重が大きい。ゆえに、特定の店舗でボリュームを稼ぐよりも複数の店舗で極力均等にボリュームを稼いだ方が、売り上げ(収入)を改善しやすいのだ。
パッと見では全く別業種に見えるかもしれないが、フランチャイズ形式の店舗を主体とする飲食チェーン店は、携帯電話ショップと収益構造面で似た面がある。
チェーン店は、いわゆる「スケールメリット」で店舗数が多ければ多いほど、仕入れ単価を抑えやすい。逆に、店舗が減ってしまうと、スケールメリットを生かしきれなくなり、仕入れ単価は上がってしまう。経営者としては「売り上げを確保するために販売価格に転嫁(≒値上げ)をする」か、「売り上げの減少を甘受する」かの選択を迫られるが、どちらも厳しい選択であることに代わりはない。
携帯電話ショップの話に戻るが、以前の連載でも触れた通り、店舗の運営費用は基本的にキャリアから支払われる販売手数料とインセンティブで賄われる。インセンティブは店舗単体だけでなく、代理店全体(自店+同じ代理店の他店舗の評価)で算定される部分もある。
手持ちの店舗で得られる販売手数料とインセンティブだけでは、運営費用を賄いきれず、利益も出せない――そうなると、客入りのよい店舗をあえて“手放して”、残った店舗や他事業にリソースを割いた方が、経営面でのダメージを抑えられるという判断もあり得るのだ。
店舗を譲受する代理店としては、受け継ぐ店舗がにぎわっているなら、販売ボリュームをより増やすチャンスとなる。ある意味で「おいしい話」なのだが、受け継いだ代理店内で近隣店舗の統廃合が行われる可能性もあり、結果的に店舗がさらに減ってしまう可能性もある。
これが、にぎわっている携帯電話ショップ(特にキャリアショップ)が閉店に追い込まれる背景なのだ。
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