「高齢者の携帯電話契約」は面倒? 販売店スタッフの尽きない“悩み”:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(1/3 ページ)
電気通信事業法の改正などを通して、携帯電話ショップにおける「料金に関するトラブル」は以前よりも少なくなりました。しかし、その代わりに目立ってきたのが「高齢者の携帯電話契約にまつわるトラブル」です。店舗スタッフは、高齢者の携帯電話契約にどのように取り組んでいるのでしょうか。元ショップスタッフの筆者が話を聞いてみました。
2019年10月に改正された電気通信事業法と、同法に関連する総務省令やガイドラインでは、「回線契約にひも付く利益提供(端末代金の割引など)は税別2万円まで」ということが大きなトピックとなりましたが、「定期契約の制限」「オプションサービスの強制契約の禁止」も盛り込まれました。
これらの法令のおかげもあって、解約金(契約解除料)や不要なオプションサービスにまつわる、携帯電話ショップにおける料金に関するトラブルは大きく減りました。その一方で、ショップにおける新たな悩みの中心になりつつあるのが「高齢者の携帯電話の契約」です。
今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、高齢者の携帯電話契約の現状を携帯電話ショップのスタッフに聞いてみました。
高齢者の携帯電話契約の現状
現在、携帯電話のラインアップはスマートフォンが中心です。そのこともあって、高齢者もスマホを求めることが増えました。
大手キャリアの場合、ケータイ(フィーチャーフォン)からスマホに機種変更する場合にプラン変更(契約変更)が必要となることが多いです。ケータイからケータイに機種変更する場合でも、現在は通信規格の変更を伴うため、プランを変更せざるを得ません。スマホに変えるかケータイを続けるかに関わらず、プラン変更は避けられません。
先ほど「料金に関するトラブルは大きく減りました」と言いましたが、実は高齢者(ここでは65歳以上)の契約に絞ると、「使い方が分からない」「月々の請求額が今までと全然違う(高くなった)」というクレームはそれなりにあります。
また、高齢者の携帯電話契約ではご子息がクレームを入れるケースもあります。SNSでも見かけたことがあると思いますが、「年老いた親が携帯電話ショップに行って、余計なモノを契約をしてきた」「スマホに機種変した親と連絡が取れなくなった」という声はよくあります。
前者であれば、携帯電話ショップがユーザーから話をよく聞かず、ユーザー(高齢者)もショップ店員の話をよく聞かずに、あるいは聞いてもよく理解しないまま“うなずいて”契約してしまったというケース、後者であればユーザーがスマホに不慣れすぎて操作できないというケースが多いようです。
法規制+自主規制はあるけれど……
高齢者の携帯電話契約に関するトラブルに対して、携帯電話キャリアも“無策”ではありません。
通信キャリアの業界団体であるTCA(電気通信事業者協会)は、2012年に自主的な取り組みとして「電気通信事業者の営業活動に関する自主基準及びガイドライン」を定めました。
高齢者にまつわる契約トラブルが増加したことを受けて、TCAは2016年5月、この文章に追加する形で65歳以上の高齢者が理解できるように契約内容を説明することを表明。加えて、2018年8月には80歳以上のユーザーが契約を行う場合は、本人の同意を条件に家族へと意向確認を行うことも表明しています。
ただし、ユーザー本人や家族への説明は、あくまでも“本人の意思”次第ということになっています。「説明はいらない」「家族に連絡しないでくれ」と言われた場合は、その意思を尊重しなければいけません。
TCAの基準に基づいて、携帯電話キャリアは65歳以上のユーザーには契約内容(場合によっては操作方法)の簡単な説明を行う一方で、80歳以上のユーザーには家族の同伴または電話による家族への確認を行うことを原則としています。このことは各キャリアの「重要事項説明書」などにも明記されています(画像はNTTドコモの「ドコモからのご案内〜ご契約前の重要説明事項〜(PDF版)」より
実際に、高齢者の携帯電話契約について、販売の現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか。店舗スタッフの声を幾つか見てみましょう。
高齢のお客さまの契約トラブルですが、契約者ご本人ではなく、その家族からのご指摘が多いです。家族の承諾を得るよう事前に連絡を行っていても、いざ持ち帰ってから(後から)指摘を頂くこともあります。
契約手続きは法令やTCAのガイドラインにのっとって行っているのですが、来店するお客さまのご意向で家族へ連絡できない場合もあります。
トラブルを未然に防ぐ観点から、80歳以上のお客さまには「ご家族に連絡したい」とお伝えするようにしています。しかし、「子ども(家族)は仕事中に電話に出られない」と頭ごなしにお断りされたり、(元の)電話機が壊れていて「家族の電話番号(連絡先)は壊れた電話の中にしかない(ので連絡できない)」と言われたりすることも多々あります。
お客さまが「大丈夫だから、契約させてくれ」と言われたら、現状ではご家族への確認をせずに手続きを進めざるを得ません。
家族への連絡が必要でない年齢の方でも、お客さまの「理解した」「大丈夫」の声を信じて手続きを進めたのに、いざ買って帰ったら「使えない」とか」請求が高い」とか言われることがあるんですよね……。どれだけかみ砕いて説明をしても、図表をいくら分かりやすくしても、理解できないお客さまは理解できないのだなと、無力感に襲われることも正直あります。
「同居の家族に(使い方は)教わるから!」と言ってスマホを買って帰った高齢のお客さまが、「家族が使い方を教えてくれないから使えない!」と相談に戻ってくるケースは何度か遭遇しています。一方で、高齢のお客さまの家族から「年寄りが使えないものを売りつけやがって!」と叱られることもあります。
私たちとしては、法的に断る理由がないので、手続き上の瑕疵(かし)や過去の契約トラブル履歴がない限り、携帯電話を売る(契約を受け付ける)しかないんですよね……。
当然だが、携帯電話ショップは法令やガイドラインを順守した契約を徹底しています。しかし、高齢者への説明に関するガイドラインはあくまで“自主ルール”であり、強制力がないゆえに発生するトラブル(クレーム)に苦悩している様子も伺えます。
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