JRグループが廃止する「往復乗車券」「連続乗車券」って何? そもそもなぜなくすの?(2/2 ページ)
交通系ICカードやインターネットサービスの普及を理由に、JRグループが「往復乗車券」と「連続乗車券」を廃止することを決定した。そもそもこれらの乗車券は一体どのようなものなのか。なくしても本当に問題はないのか。そして、なぜなくすのか――まとめてみた。【訂正】
「往復乗車券」「連続乗車券」はなぜ廃止されるのか?
往復乗車券と連続乗車券の廃止について、JRグループはニュースリリースで「交通系ICカード等の全国的な普及拡大及びご乗車の都度インターネットでご予約いただけるサービスを多くのお客様にご利用いただいていること」の大きく2つを理由として挙げている。
確かに大都市圏を中心に交通系ICカードは広く普及している。しかし、現時点ではサービスエリアをまたぐ乗車は原則としてできない。そのため「JRグループや交通系ICカードの境界駅を毎日またぐ人は(定期券を除き)使いたくても使えないのをどう考えているのか?」という声も聞かれる。境界駅近辺の駅では、特に休日になると交通系ICカードのエリアを“またいでしまって”精算を行う人の行列を見かけることも珍しくない。
JRグループの境界から比較的近いある駅では、休日になるとJR他社の交通系ICカードエリアから乗り越してくる乗客が多数おり、精算窓口が混雑する光景が“日常”となっている(一応、右側にある自動精算機でも精算処理が可能なのだが、それに気付かない人も少なくない)
また、インターネット予約サービスも普及してきたことは確かで、地域によっては特急券や指定席券、場合によっては乗車券も引き換えずに済む「チケットレスサービス」も便利に使える。しかし、JRグループ各社が“バラバラに”サービスを用意しているため、場合によっては使い分けを強いられる他、発券が必要な場合に予約条件によっては引き換えられる窓口が制限されていたり、前後の区間の乗車券を含まないがゆえに、乗車区間によってはむしろ割高になったりと、誰でも使いやすいかといわれると首をかしげてしまうこともある。
JR東日本が運営する乗車券類のインターネット予約サービス「えきねっと」で乗車券類の予約をした場合、他社の駅では受け取れない切符もある。「同じJRなのにどうして?」というところだが、あくまでも“別法人”なので、それゆえに生じる制約も出てしまう
上記の理由に納得できるかどうかはさておき、JRグループはニュースリリースで「『往復乗車券』及び『連続乗車券』の発売枚数が減少している」ともしている。これは本当なのだろうか。東日本旅客鉄道(JR東日本)の広報担当者に尋ねたところ、「当社(JR東日本)に限った話であれば」という条件で回答を得られた(体裁を整えた上で掲載する)。
―― 往復乗車券や連続乗車券の廃止の理由として、販売枚数の減少が挙げられています。どのくらい減少しているのでしょうか。
JR東日本 11月における単月実績で比べると、2024年は5年前(2019年)と比べて20%ほど減少しています。
―― 割合で見てみるとどうでしょうか。
JR東日本 マルスシステム(みどりの窓口/指定席券売機)経由で発券される乗車券のうち、直近1年間の平均では往復乗車券は約16%、連続乗車券は約4%となっています。合わせて2割程度ですね。
―― 往復割引(片道601km以上の往復乗車券に自動適用される割引)が廃止されるのは、単純に往復乗車券が廃止されるからということですか。
JR東日本 その通りです。往復乗車券の廃止に伴い、取り扱いを終了します。
―― 今回のリリースでは「学生割引(学割)」など購入時に割引証の提出が必要な割引乗車券や、「ジパング倶楽部」(※2)の取り扱いの変更も告知されています。どのような変更がなされるのでしょうか。
JR東日本 大前提として、現在使っているお客さまに著しく不利となる変更は避けなければなりません。そうならないように、JR各社において細かな調整を進めています。まだ発表できることはありませんが、調整がまとまり次第、ニュースリリースなどでお伝えします。
(※2)旧国鉄時代からある、JRグループ共通の会員サービス。現在は男女共に満65歳以上から加入可能で、年会費(3840円)を払えばJR線の乗車券類(片道/往復/連続で201km以上:一部対象外あり)が1年間に20回まで割引購入できる他、JRグループ各社が運営するホテルを優待価格で利用できる(その他、各社独自の特典を用意している場合もある)
あくまでもJR東日本単体での実績だが、往復乗車券を購入する人が思った以上に少ないことに驚いた。「だったら片道乗車券に絞って、運賃体系をシンプルな方向に持って行こう」と考えても、無理はないように思える。
ただ先述の通り、JRグループ各社のインターネットサービスはバラバラな状態で、しかもJRグループをまたいで利用できる割引乗車券類が昔と比べて減ってしまっているのも事実だ。いくら「インターネットサービスを使ってください」と言われても、中長距離移動を視野に入れるほどに、使いづらい面も目立ってくる。
筆者個人としては、総合的なサービスの向上につながるなら、割引制度の縮小/廃止は進めても構わないと考えている。ただ、やみくもに割引制度を縮小/廃止していって、結果としてサービスの悪化につながるのなら本末転倒だ。“別法人”とはいえ、同じ「JR(Japan Railways)」の呼び名とロゴを共有しているのだから、その辺はもう少し考慮に入れてほしいと思う今日この頃だ。
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