シャープに聞く「AQUOS sense9」の進化と「AQUOS R9 pro」を作ったワケ 根底に“AQUOS R9の刷新”あり(3/4 ページ)
2024年にスマートフォンAQUOSのデザインを刷新したことに伴い、「AQUOS sense9」も見た目や中身が大きく変わっている。同時に発表された「AQUOS R9 pro」では、カメラに特化したスマホというコンセプトをより先鋭化させた。シャープはこの2機種をどのようなコンセプトで開発したのか。
初の「VARIO-SUMMICRON」レンズを搭載 65mmの望遠撮影をライカが推奨
―― レンズは、VARIO-SUMMICRONになっていますが、VARIOがついたのは初めてですよね。
清水氏 初めてです。他社にもVARIOとついているものはありますが、これはラテン語で複数という意味で、SUMMICRONレンズを複数持っているレンズシステムということです。1型をやってきた中でカメラを超えたいというコンセプトをお話ししましたが、ライカともそれはたくさん会話してきました。次はどういうものがあるべきかというときにライカから強力に推奨されたのが、65mmのテレになります。ポートレートは65mmが最高なので、間違いないと言われたことも、これを選んだ決め手になります。
ただ単に焦点距離だけを65mm相当にするのではなく、メインでポートレートを撮りたいとなるとやはり画質も必要なので、センサーサイズは1/1.56型にしており、メインのカメラとして十分使っていただけるものになっています。
―― これまでは1型のセンサー1つで切り出しやリモザイクで画角を変えていましたが、3つに分散したことの効果はありましたか。
清水氏 AQUOS R8 proまでは普通のスマホの中で、一番いいカメラを目指していたので、ここまでゴテゴテにはできませんでした。見た目も普通のスマホの範囲に収めなければいけないという、ある種バイアスのようなものがあったからです。その中で、1型センサーだけで全領域を撮るという提案をしていました。今回は振り切る方向にかじを切ったので、カメラとしていろいろな被写体を最高の画質で撮れるものが必要と考え、超広角と望遠を付けています。
中江氏 今までは、1型センサーを最大限活用したかったという思いもありました。光学性能はいいので、あらゆるシーンで使えるからです。しかしながら、やはり被写体と画角の関係を考えたとき、普通の一眼カメラでもレンズを変えますよね。さまざまなものが被写体になるので、1つのカメラだけだとやはり厳しい。最適な状態で撮れることを目指すと、おのずとこの構成になりました。
―― 望遠は切り出しよりも解像感も上がるのでしょうか。
清水氏 1型からクロップよりも、1/1.56型をそのまま使った方が高くなります。
中江氏 レンズの影響もあります。1型をさまざまなところに使おうとすると、ゆがみや周辺減光でやはり無理をしてしまう。その意味では、広角の1型をよりいい状態で使えることにもなって、よかったと思います。
―― なるほど。広角なら広角で決め込んでレンズを作った方がいいということですね。
中江氏 はい。1型で超広角も標準もとやっていくと、超広角側に合わせて無理をした設計になってしまいます。
あえてノイズを「消しすぎない」ことで雰囲気のある写りに
―― ちなみに、同じライカモデルでも、Xiaomiはフィルターを載せるなどして、UI(ユーザーインタフェース)の中にもライカという固有名詞をちりばめているような印象を受けます。AQUOS R9 proには、そういったフィルターがありません。
清水氏 そこの考え方は、悩むところです。ただ、われわれはライカと一緒にやっているので、AQUOSのカメラがいいと思っていただきたい。ライカを前に出せば出すほど自分たちのブランドが埋もれていくので、今のような形でバランスを取っています。一方で、ライカのイメージがつきやすいのも確かなので、他社のやり方もうまいとは思います。
中江氏 先ほどお話ししたAQUOS sense9はライカの認証を取っていませんが、絵作りに関しては同じように作っているといえます。(フラグシップモデルで)全面的にライカを押し出していないからこそ、そういった印象を持ってもらえる側面はあります。ライカモデルはいいよね、となってしまうと、逆にライカがないAQUOSは今までと同じと思われてしまう。それはもったいないですよね。せっかく協業してわれわれの技術力も上がっているので、それがいろいろなところに反映される方がいいという判断です。
―― よりライカの世界観を楽しみたい人には、Leitz Phoneもありますね。
清水氏 おっしゃるように、ライカのファンの中にはLeitz Phoneを選ぶ方もいます。
―― とはいえ、やはりライカと協業した端末で写真を撮ると、すごく雰囲気のある写真が撮れます。この雰囲気の正体は何なのでしょうか。
中江氏 恐らくですが、ノイズを消しすぎていないからだと思います。スマホで撮る写真は、きれいに撮ろうとしてノイズを消し、はっきりさせた絵が多い。一方で、ライカは写実的で、空気すらも撮影したというぐらい、ありのままになります。そのときにやっているのが、ノイズを消しすぎないことです。一見すると粗っぽい部分が残るように見えるかもしれませんが、ノイズを消すと、その分だけディテールも失われていきます。
プロセッサにSnapdragon 8s Gen 3を選択した理由
―― 今回、プロセッサは「Snapdragon 8s Gen 3」です。フラグシップモデルだと、「s」がつかない「Snapdragon 8 Gen 3」も多いですが、なぜこれを選択したのでしょうか。
中江氏 「Snapdragon 8 Elite」も出ている中では、他にも上位のプロセッサはあります。ただ、パフォーマンスが出ないというユーザーの不満は既にだいぶ減っています。一方で、カメラはもっときれいに撮りたいというニーズはある。パフォーマンスとカメラ性能を2軸で考えたとき、Snapdragon 8s Gen 3はCPU性能が少し落ちる一方でISP(Image Signal Processor)は強化されていて、十分な性能が出ます。当然、コスト的な問題もあります。いくらフラグシップでも、めちゃくちゃ値段が上がりすぎてしまうのはよくない。その全てのバランスを考えると、今回の選択はベストだったと思っています。
実際、Snapdragon 8 Eliteがないと動かないものがあるとすると、世の中のほとんどのスマホで動かなくなってしまいます。そのユースケースが加速度的に広がるかというと、なかなか難しい。Snapdragon 8 EliteはCPUにOryonを使っていて、パフォーマンスと省電力のバランスが取れているのでモバイルにも使いやすいのですが、あれがないとどうにもならないというシーンはまだまだ少ない。そこにコストを投入するよりも、今使えるパフォーマンスとしてカメラ性能を上げていくことが必要だと考えました。
ただし、今後も同じかというとそうではありません。それがあることによって、ユースケースやユーザー体験が変わる瞬間は必ず出てきます。技術の進化でコンテンツも進化していくので、生成AIなどの動向も見ながら最適なSoCを選び続けなければいけないと考えています。
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