半年、スマホ通信費タダ 「お試し割」に楽天モバイルが慎重な理由 過去の提言から見えたこと(2/2 ページ)
総務省が2024年12月5日、電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドラインの改正案を公表。通信キャリアに新しい割引を認めたが、通信キャリア各社からの具体的な施策発表はまだない。一定期間に通信料金を割り引く、いわゆる「お試し割」はいつ始まるのか。
お試し割は認められるも、言い出しっぺの楽天モバイルが踏み出さない理由
楽天モバイルの提言の結果、総務省は規制対象事業者の見直しについては見送りつつも、楽天モバイルの提言の一部をくみ取り、4キャリア全てにお試し割を認めることをガイドラインに盛り込んだ。
お試し割の提供について、楽天モバイルの広報はITmedia Mobileの取材に「現時点で決まっていることはございませんので、決まり次第ご連絡させていただきます」と回答したが、具体的にどのような事情から始めないのだろうか? 過去の公開資料をもとに読み解いていきたい。理由は大きく3つあると思われる。
1つ目は、新たに割引を行う必要性が薄れていることだ。楽天グループの三木谷浩史会長(楽天グループ社長を兼務)は、2025年1月31日の「楽天新春カンファレンス2025」で、最強家族プログラム、最強青春プログラム、最強子どもプログラムなどの各種割引により、「若年層を中心に他社からの乗り換えが加速している」ことを明らかにしていた。
特に「若者のシェアが非常に高い」(三木谷氏)といい、三木谷氏が公表した資料によれば、特に10~30代が他社から楽天モバイルへ移行している。それゆえに、楽天モバイルにとって割引施策をさらに実施するメリットは、現状あまりないのではないか? と考えられる。
2025年の春商戦では、若年層向けの「春の応援」キャンペーンを実施し、最大1万4000ポイントを還元する。Rakuten最強プランの3GBまでが実質1年間無料となり、契約数の増加に寄与している若年層をさらに取り込む狙いだ。
こうした各種割引プログラムやキャンペーンを見る限り、楽天モバイルの契約を条件に他のサービスを割り引いたり、ポイントを還元したりする現状の施策で十分だともいえる。
「半年間0円」を再び打ち出してもARPUの向上にはつながらず、お試し割をこれから実施する意義は薄いことにも触れておきたい。特に、モバイル事業単体での黒字化を目指す楽天モバイルにとっては、その傾向が一層強いと考えられる。
3つ目は、お試し割の実施による大きな懸念点があることだ。総務省が6月22日から7月22日まで行った意見募集の結果、NTTドコモが次のような意見を提出していた。
「新規契約を条件とする通信料金の割引が認められると、過度な囲い込みやホッピング行為が増加する可能性が一定程度あると考えられる。そのため、限定的に許可された新規契約条件付きの通信料金割引が、本来の目的であるお試し利用の実現に沿ったものなのか、また競争を阻害する影響が生じていないか、今後も検証する必要がある」(NTTドコモのコメントを要約)
この意見の中で特に気になるのが、「ホッピング行為の増加」だ。お試し割を利用し、4キャリアを渡り鳥のように乗り換えることで、短期利用や短期解約につながるのではないか――これがNTTドコモの懸念点だ。
KDDIも、NTTドコモとは別の視点から懸念を示している。楽天モバイルが提言したお試し割によって、店頭が「踏み台」にされ、販売店の現場で本来必要のないコストが発生することを危惧している。
大手4キャリアや情報通信関連事業者などで構成されるテレコムサービス協会は、「通信品質の確認という目的を踏まえれば、6カ月という期間は合理的ではなく過剰である」との考えから、「楽天モバイル1社に限定してもよいのではないか」との意見を出した。
ちなみに、お試し割の割引上限である2万2000円を6カ月で割ると、1カ月当たりの割引額は3666円となる。これは、Rakuten最強プランの月額最大3278円や、ahamoの月額2970円(オプション大盛り未使用で30GB消費の場合)を実質無料にできる計算だ。その結果、楽天モバイルを短期間で解約し、ahamoへ移行される可能性がある。それも、費用負担なしでだ。
このように、シェア拡大を目指してお試し割を提言した楽天モバイルだが、実施する意義が薄れていることに加え、6カ月間にわたり膨大なデータ通信を無料で利用し、乗り換えを繰り返すユーザーが続出する可能性があることを総合的に考えると、楽天モバイルが「お試し割」に慎重な姿勢を崩さず、いまだに具体的な動きがないのも納得できる。
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