「赤ロム」がなくなる? 中古スマホのネットワーク利用制限問題のゆくえ:粟津浜一の中古スマホ最前線
中古スマホを購入する際、前の所有者がキャリアとの契約で債務不履行や不正契約が発覚した場合、「赤ロム」になる恐れがあります。これは消費者保護の観点から見ても非常に不公平です。この問題は中古スマホ業界において長年の課題でしたが、実は今、総務省によって制度の見直しが進められています。
ニューズドテック 代表取締役社長の粟津浜一です。本コラムでは、中古スマホ市場を巡る最新の動きや制度、ユーザーが直面しがちな課題について、業界の視点から分かりやすく解説しています。
今回取り上げるテーマは「赤ロム」、つまりネットワーク利用制限の問題です。中古スマホを購入する際、「ちゃんと通信できるのか?」と心配された方も多いのではないでしょうか。前の所有者がキャリアとの契約で債務不履行や不正契約が発覚した場合、まったく関係のない善意の第三者である購入者が「通信できない端末」をつかまされてしまうリスクがある――これが「赤ロム問題」です。
この問題は中古スマホ業界において長年の課題でしたが、実は今、総務省によって制度の見直しが進められています。「赤ロムがなくなる」可能性すらある大きな動きの中、今回はネットワーク利用制限の歴史と問題点、そして今後の展望について解説していきます。
「赤ロム」ことネットワーク利用制限とは?
ネットワーク利用制限とは、スマートフォンなどの端末が通信キャリアの判断によってモバイル通信ができなくなる状態のことです。主な理由は以下の通りです。
- 前所有者の端末代金の未払い(分割支払いの滞納)が発覚
- 前所有者による契約キャリアとの不正契約(架空名義・虚偽申告など)が発覚
- 前所有者が盗難や詐欺による端末を取得が発覚
制限は端末のIMEI(端末識別番号)単位でかけられるため、たとえその端末が中古市場で第三者に販売された後であっても、突然「赤ロム化」することがあります。結果として、買った本人には何の責任もないにもかかわらず、通信・通話が一切使えなくなるという不条理な状態が発生してしまうのです。
ネットワーク利用制限の調べ方
ご自身の端末がネットワーク利用制限にかかっていないかどうかは、以下の手順で確認できます。
IMEI(製造番号)の確認方法:
- iPhoneの場合:設定 > 一般 > 情報 > 「IMEI」欄を確認※または、電話アプリで *#06# をダイヤルすると表示されます
- Androidの場合:設定 > デバイス情報/端末情報 > IMEI※または同様に *#06# で表示
各キャリアの判定ページ:
- ドコモ:http://nw-restriction.nttdocomo.co.jp/top.php
- au:https://www.au.com/support/service/mobile/network-riyoseigen/
- ソフトバンク:https://ct11.my.softbank.jp/WBF/icv
- 楽天モバイル:https://network.mobile.rakuten.co.jp/restriction/
判定結果で、「×」が出たら、ネットワーク利用制限(=赤ロム)がかかっていることになります。
中古端末の普及に伴い、赤ロムの弊害が顕在化
このネットワーク利用制限という概念が登場したのは、2009年ごろから。当時、端末の分割購入が一般化し、キャリアへの分割払いを踏み倒したスマホが中古市場に流通するようになりました。そこで、キャリアが分割払いの未回収リスクを減らすために取った策このネットワーク利用制限です。
その後、中古市場の認知度拡大やフリマアプリやネットオークションの普及により、赤ロムのリスクが一般ユーザーにも認知され始めました。2010年代前半からは、各キャリアもネットワーク利用制限の確認ページを公開し、誰でもIMEIを使って判定できる仕組みが整備されました。
さらに、2014年以降の格安SIM(MVNO)ブームでは、「格安SIM+中古端末」の組み合わせが注目され、赤ロムでないかどうかのチェックがより重要なポイントとなっていきました。
最大の問題は、赤ロムの原因が購入者ではなく、前の所有者にあるにもかかわらず、その不利益を中古スマホ購入者が一方的に被る点です。これは消費者保護の観点から見ても非常に不公平です。
中古スマホの販売事業者にとっても大きなリスクです。販売後に赤ロム化が発覚すれば、返金や交換対応、ブランド信用の低下といったダメージを被ります。中古端末事業者側としては、「販売時は○(制限なし)でも、将来×(赤ロム)に変わる可能性がある」という不確実性に常にさらされているわけです。
総務省に動き 2025年冬をめどにガイドライン改正へ
こうした背景を受けて、業界団体である一般社団法人リユースモバイル・ジャパン(RMJ)は長年にわたり、総務省に対して制度の見直しを提言してきました。その結果、総務省は現在、以下の2つの方向性で制度変更の検討を進めています。
(1)債務不履行による利用制限の原則禁止
端末の分割払いの未納などによって発生するネットワーク利用制限については、中古端末の新たな所有者には責任がないという考え方に基づき、制限そのものを原則禁止する方向で調整が進んでいます。
(2)不正利用による制限は最小限に限定
一方で、盗難・詐欺・不正契約などの悪質事案については、引き続きネットワーク制限が必要とされますが、その場合でもキャリア間で情報を連携させ、他社回線に逃げられないようにするなど実効性ある措置を講じる方向です。
総務省は2025年冬頃をめどに、制度見直しに関する報告書をまとめ、ガイドラインの改定に着手する予定です。これにより、赤ロムリスクのない中古端末の取引が広がり、消費者も安心して中古スマホを購入できる市場環境が整うことが期待されています。販売事業者としても、赤ロム保証の負担が軽減されることで、より安心・安定した在庫運用が可能となり、再流通の加速にもつながるでしょう。
まとめ:赤ロムは“過去の概念”になるかもしれない
長年、業界を悩ませてきた赤ロム問題が、ついに解消に向けて大きく動き出しています。「利用制限の原則禁止」という発想は、従来では考えられなかった大胆な転換ですが、それだけに中古市場へのインパクトも大きいといえます。これからは「赤ロムを避ける」時代から、「そもそも赤ロムという仕組みがなくなる」時代へ。中古スマホをもっと安心・安全に使える未来が、すぐそこまで来ています。
著者プロフィール
- 粟津浜一
1979年、岐阜県生まれ。筑波大学大学院 理工学研究科を修了後、ブラザー工業に入社し、研究開発に従事する。2009年1月、株式会社アワーズ(現:株式会社ニューズドテック)を設立し、代表取締役に就任。2017年3月には業界団体である一般社団法人リユースモバイル・ジャパンを設立し、初代理事長に就任。総務省やデジタル庁主催の検討会にも、構成員やオブザーバーとして参加。
創業以来、一貫して中古端末市場の専門家として活動し、これまでに100以上のメディアに出演した実績を持つ。
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