「駅のQRコードが読み取れない」――ネットに落胆の声 なぜ“デジタル時刻表”が裏目に?
横浜市営地下鉄で紙の時刻表を廃止しQRコード化したが、現場の貼り紙でコードが隠れ読み取れない事態に。「切り出しシンボル不」が隠れると認識不能になるQRの特性が軽視され、効率化を優先したDXの脆さが浮き彫りになった。利用者からは満が噴出しており、公共インフラにおけるアナログ併用や現場運用の配慮の重要性が露呈した。
「駅の掲示板にあるQRコードの一部が隠されて時刻表を読み取れない」──。そんな困惑の声がネット上で大きな話題になっている。この事象の舞台となっているのは、「横浜市営地下鉄」だ。
横浜市交通局は11月1日から、「ブルーライン」と「グリーンライン」の全駅ホームに掲示していた紙の時刻表を撤去した。その代わりとして導入されたのが、掲示板に印刷された新たな「QR時刻表」だ。これに合わせて行われたダイヤ改正以降、駅のホームから従来の一覧表は姿を消し、乗客は自身のスマートフォンなどでQRコードを読み取り、発車時刻を確認する運用へと切り替わった。
しかし、運用の要であるはずのこのQRコードの一部が、現場での貼り紙によって隠されてしまい、結果として読み取りができず時刻表にアクセスできなくなっている状況が発生している。利便性を高めるためのデジタル化が、皮肉にも物理的な障害によって阻まれている形だ。これを受け、ネット上ではさまざまな意見が飛び交っている。
ネット上で噴出する困惑に落胆の声も
この状況に対し、SNS上では多くの利用者から厳しい指摘や疑問の声が上がっている。まず、運用の効率性については次のような意見が見られた。「年末年始の運行予定についても、QRコードのリンク先で表示するようにすれば、わざわざ紙を貼る必要はなかったのではないでしょうか」という、システム設計の不備を突く声はもっともだ。また、現場の対応に対しても「駅員の方は『これを利用する人はあまりいないだろう』と考えて、上から掲示物を貼ってしまったのかもしれません」といった推測や、「このような『お知らせ』を貼る手間をかけられるのであれば、最初から時刻表を掲示していただきたいものです」という皮肉混じりの落胆が寄せられている。
なぜQRコードは隠されると読み取れないのか? キーワードは「切り出しシンボル」
では、なぜQRコードは一部が隠されるだけで読み取れなくなるのか。QRコードの開発元である「デンソーウェーブ」(愛知県知多郡)によると、その仕組みには明確な理由がある。QRコードには「切り出しシンボル」と呼ばれる、コードの三隅に配置された正方形のマークが存在する。これはスキャナーがコードの位置や角度を瞬時に、かつ正確に認識するための目印として機能している。
3箇所の位置が確定することで、たとえコードが上下逆さまでも、斜めに傾いていても、正確に座標を補正できる仕組みだ。しかし、今回の事例のように1つでもシンボルが隠れてしまうと、角度や位置の基準が失われる。スキャナーはどこからどこまでがデータなのかを判断できず、読み取りエラーとなるのだ。
QRコードの三隅には「切り出しシンボル」という正方形のマークがあり、スキャナーが位置や角度を正確に認識する目印となっている。この3点が確定することで、上下逆さまや傾いた状態でも読み取りが可能になる。しかし、シンボルが1つでも隠れると基準が失われ、スキャナーはデータの範囲を判別できなくなる。その結果、情報の解析ができず読み取りエラーが発生するのだ(出典:デンソーウェーブ「QRコード開発ストーリー」)
SNS上でも「QRコードは、角にある3つの四角いマークで向きを判断する仕組みですので、そこを隠すとリーダーが正しく認識できなくなってしまいますよね」という声があるように、この基礎的な仕様が現場で軽視されたか、現場の人の知識不足が混乱を招いているようだ。
公共インフラに求められる配慮と対策とは?
時刻表は列車の発車時刻や停車駅を確認するために不可欠な情報だ。「通常の時刻表を掲示した上で、さらに詳細な情報サイトの存在をQRコードで案内するのが、適切な対応だと思われます」という意見がある通り、デジタルとアナログの併用を望む声は多い。
現状、QRコードが読み取れない事態への対策として、乗客自身が乗り換え案内アプリを活用したり、公式時刻表サイトをお気に入りに登録したりするなどの自衛策を講じる必要がありそうだ。しかし、「上から貼られているようですので、少しめくれば読み取れそうですが、勝手に剥がすと問題になる恐れがあります。駅員の方にお願いして確認してもらうのが良さそうです」という声があるように、せっかくのデジタル化が結果としてアナログ手段に頼る結果になるケースも出てきそうだ。
本来、掲示板のお知らせは利用者の便宜を図るためのものである。しかし、そのお知らせが重要な情報を遮断してしまっては本末転倒だ。今後、他の鉄道事業者でもペーパーレス化が進む中で、横浜市営地下鉄が直面したこの課題は、デジタル技術を公共の場で運用する際の大きな教訓となるだろう。現場での細やかな配慮と、利用者の利便性を最優先に考える姿勢が、真のDXを実現するためには欠かせない。
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