シャープが衛星通信サービスに参入、「2027年の5G NTN標準化でビッグバンが起こる」 AQUOSの小型化技術を生かして端末開発も
シャープは独SESと提携し2027年以降に日本で中軌道衛星通信サービス「O3b mPOWER」を提供する。5G NTN規格の標準化を見据えスマホで培った小型化技術や特許の知見を生かした独自端末を開発する。まずは建機や船舶などの法人向けから展開し2035年には車載分野へ拡大して売上高1000億円を目指す。
シャープが6月30日、ドイツの衛星オペレーターSESと、衛星通信サービスで提携することに基本合意したことを発表した。SESが提供する中軌道(MEO)衛星通信サービス「O3b mPOWER(オー・スリー・ビー エムパワー)」の日本での提供に向けて協議を重ねていく。
シャープがSESの衛星通信回線を用いたサービスを2027年以降に提供する。写真はPresident, Fixed Vertical, SES S.A.Jean-Philippe Gillet氏(左)と執行役員 Co-COO スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏(右)
O3b mPOWERは、大容量で低遅延、かつセキュアで安定した性能を特徴とする。シャープはスマートフォンで培った通信技術やデバイスの小型化、軽量化のノウハウを生かし、平面形状のフラットパネルにアンテナを搭載した、衛星通信向けデバイスの開発を進めている。
まずは2027年に建機や船舶向けに衛星通信サービスを提供し、2030年にドローン向けに広げる。2035年には自動車へも展開し、衛星通信サービスで1000億円の売り上げを目指す。
5G NTNが標準化される2027年以降、衛星通信が一気に普及する
シャープは6月30日に発表会を開催し、執行役員 Co-COO スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏が、衛星通信サービスを展開する狙いを語った。
携帯電話の人口カバー率は99%を超えているが、これは居住エリアを対象とした数字で、山間部や海などは含まれていない。面積カバー率だと数字は小さくなり、「地球レベルで言うとセルラー網だと20%しかない」(小林氏)。人口カバー率に含まれない未開地域でも建設産業や海洋産業などの需要があるため、今後、産業をさらに発達させていく上で、衛星通信は欠かせないというのがシャープの考えだ。
衛星通信の事業は急激に成長しており、Straits Researchの調査によると、市場規模は2025年の1025億ドルから2033年は2103億ドルへ成長することが見込まれている。その際の起爆剤になるとシャープが考えるのが、衛星通信の標準規格である「5G NTN」だ。衛星を含む非地上系ネットワーク(NTN)を活用し、5Gをより広域に拡張する技術のことを示す。この5G NTNが、標準化団体である3GPPによって、2027年に規格統一される見込みだ。
小林氏は「標準化が劇的に生活を変えたのは、初めての経験ではない」と述べ、携帯電話の世界で2000年代以降に3G、4G、5Gが標準化されて通信サービスが劇的に普及、進化したことを振り返る。こうした進化の道筋は、衛星電話でも同じことが当てはまると同氏は期待を寄せる。
現在、国内では静止衛星や低軌道衛星を用いた通信サービスが提供されているが、「衛星キャリアごとに独自の規格が織り込まれている」(小林氏)。衛星通信サービスを開発するには、端末や衛星、無線の評価システムなどが必要になるが、「全てバラバラでクローズドなシステムのため、開発には一定の時間がかかる」(同氏)。
しかし衛星通信の規格が統一されれば、「開発期間がより短縮し、コストも低減し、用途の開発が一気に進んでいく」と小林氏はみる。「2027年以降、衛星通信の規格、標準規格でビッグバンが起こる」(同氏)
5Gの特許を多数保有するシャープが5G NTNの標準化もリードする
衛星通信におけるシャープの役割は、端末を開発するだけではない。同社は5G標準必須特許の保有数が国内で2位(SEP Omnilyticsデータ)を誇り、5Gの標準化をリードしてきた。例えば携帯電話が基地局に接続したり、他の基地局に接続を切り替えたりする特許を持つ。
5G NTNにおいては、大気を電波が伝わる際の特性を試験する手法や、ドローンや自転車への搭載を想定した20×20センチの小型端末の標準化を、シャープが主導しているという。製品面では、スマートフォンAQUOSでアンテナ周辺を小型化する技術や、衛星通信用のフラットパネルアンテナの回路薄型化や小型化の技術を活用していく。
SESは、静止衛星(GEO)、中軌道衛星(MEO)、低軌道衛星(LEO)という複数の衛星軌道を活用した通信サービスを世界で提供している。米国を含む60以上の政府機関、30を超える航空会社、世界各国で高いシェアを持つ8キャリアなど、幅広い業態に向けてサービスを提供中だ。1万900を超えるチャンネルで20億人以上のユーザーに対して映像配信サービスを提供し、日本ではNHKと提携している。
今回、中軌道衛星のMEOを提供するメリットとして、SES President, Fixed Vertical Jean-Philippe Gillet氏は、18ほどの衛星で効率の高いシステムを稼働できること、低遅延を実現できること、地球全体をカバーできることを挙げる。
同氏は「5G NTNをベースにしたシャープとの提携は、宇宙ベースのサービスを地上につなげる上で鍵になる。5G NTNを標準化して低コストの端末を導入することは、地上インフラとつなげる上で最適な組み合わせになる」と期待を寄せた。
まずは中軌道衛星からだが、低軌道衛星も視野に
シャープ通信事業本部長の中江優晃氏は、SESと提携した理由について、互いの強みを生かせることを挙げる。SESはMEO衛星通信で60年以上の歴史を持つ、世界最大級のグローバル衛星通信事業者であり、5G NTNにも積極的に取り組んでいるとシャープは評価する。そこに、シャープが持つ小型化技術や5G NTN標準化の知見を掛け合わせることで、長期にわたってWIN-WINの関係を構築できるとする。
端末については、MEO衛星通信に対応したものを2027年に発売する予定で、LEO衛星通信や、LEO・MEO・GEOなどを切り替えるマルチオービット対応の端末、超小型衛星通信端末も開発している。
シャープは国内で、SESの衛星通信回線を利用する形でO3b mPOWERを展開し、料金プランの提供から端末の保守や設置、ソリューションまでワンストップで担う。
まずはMEOからの提供になるが、LEOについてもスコープに入っており、「用途によって展開できるサービスは異なるので、幅広く展開したい」(中江氏)とした。
Starlinkのように、通信キャリアと提携してスマートフォンとの直接通信を提供するという方向性もあるが、まずはB2B向けの提供からスタートする考えだ。
国内ではStarlinkが目立っているが、小林氏は、衛星通信サービスに新しい選択肢が入ることで、競争が起き、市場が拡大することにも期待を寄せる。「衛星通信は、これから大きく伸びていく産業。競争しながらきめ細かな実装をしていくとなると、1つのサービスだと現実的には難しい。互いに競争しながら実装を進めていく」(同氏)
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