シャープが5G対応の衛星通信端末を披露 スマホ技術で小型化、2030年の実用化を目指す
シャープが5G規格対応の衛星通信端末を開発し、CEATEC 2025で総務大臣賞を受賞した。スマートフォン技術を活用して従来品の4分の1サイズ・重量を実現し、2030年の実用化を目指す。
シャープが開発中の、5G NTN(非地上系ネットワーク)通信に対応したLEO(低軌道)衛星通信ユーザー端末が、「CEATEC AWARD 2025」で総務大臣賞を受賞した。5G NTN通信の標準化に取り組んだ点が評価された。10月14日から17日まで幕張メッセで開催中のCEATEC 2025では、衛星経由で映像を伝送するデモを披露している。
衛星通信に5G規格を適用した。現在の衛星通信は各事業者が独自の通信方式を採用しており、端末の互換性がない。携帯電話は4Gや5Gといった標準規格で統一されているため、SIMカードを差し替えれば異なる通信事業者のネットワークを利用できる。この標準化に取り組むのがシャープだ。同社は3GPPで標準化活動をリードし、衛星通信を携帯電話と同じ土俵に乗せようとしている。
スマホのモデムを流用、60〜100Mbpsで映像伝送
会場では、11GHz帯を用いた5G NTN通信のデモを国内で初めて実施している。工事現場の遠隔制御を想定したソリューションで、衛星アンテナの前にノートPCをかざすと通信が遮られて映像が止まる。通信速度は60〜100Mbpsで、フルHDのストリーミング映像を遅延なく伝送できる。
5G対応の利点は通信性能だけではない。スマートフォン向けのモデムや回路を流用できるため、従来の衛星通信端末より大幅に小型・軽量化した。シャープの端末は446×446×66mmで重量7kg。従来品は90センチ角で重量30kg程度が一般的だったため、容積で約4分の1、重量で約4分の1に収まった。
シャープの担当者は「従来の衛星通信端末は専用の通信モデムを搭載している。5G規格に対応すれば、スマートフォンの開発で培った技術を生かせる」と説明する。
3GPPで端末側スペックを提案、4G NTNは規格化されず
シャープは標準化活動に注力している。3GPPにはStarlinkやEutelsat、SES、Intelsatといった衛星通信事業者や衛星メーカーが参加し、5G NTN通信の標準規格を策定している。
担当者によれば、「スマートフォンを開発してきたので、3GPPには以前から参加している。衛星通信の標準化が必要になった際、端末側として必要なスペックを提案できる立場にある」という。4G時代は衛星通信の市場規模が小さく、標準化の必要性が乏しかった。5Gから本格的に標準化が進む。
標準化の焦点は、小型の端末でも十分な性能を発揮できるスペックの策定だ。衛星メーカーと連携しながら、端末サイズを20センチ角程度に抑えつつ、実用的な通信性能を確保できる仕様を詰めている。
正式なサービス開始は2028〜2030年を予定している。衛星側も5G対応が必要で、2030年頃に対応衛星の打ち上げが見込まれる。欧州では「IRIS2」プロジェクトで衛星通信コンステレーションの構築が進んでおり、5年程度での実用化を目指している。
セルラーと衛星をシームレス切り替え
5G規格の標準化により、低軌道衛星、中軌道衛星、静止衛星をシームレスに接続できる。セルラー通信と衛星通信の切り替えも可能になる見込みだ。
担当者は「将来的には、セルラー通信が使えない場所で自動的に衛星通信に切り替わるような使い方ができる」と語る。用途ごとに最適な通信経路を割り当てるネットワークスライシング技術も応用でき、低遅延が求められる自動運転や機器の遠隔制御にも対応できる。
標準規格が確立すれば、複数のメーカーが端末を製造できる。スマートフォン向けのモデムメーカーも参入しやすくなる。
法人向けに展開、IntelsatやSESなど中高度衛星を想定
国内では低軌道衛星のStarlinkが勢いよく普及しているが、シャープが想定する衛星事業者はIntelsatやSES、Eutelsatなどの中高度・静止衛星の事業者だ。
エンドユーザーとして想定するのは法人だ。モビリティ分野では、車両、ドローン、建機、船舶といった移動体での利用を見込む。災害時のBCP(事業継続計画)対応も重要な用途で、自治体がビルの上に端末を設置しておけば、セルラー基地局が被災した際も通信を維持できる。この他、防衛関係での利用も想定する。
シャープは2025年2月、試作機を用いてLEO衛星と5G NTN通信で接続する実証実験に世界で初めて成功している。CEATEC 2025では、この技術が実際に動作する様子を確認できる。衛星通信が携帯電話と同じ標準規格で動く未来は、思ったより近い。
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