“PayPay追撃”ではなく「Suicaの価値向上」──新決済「teppay」の意義や狙いを聞いた
JR東日本は10月20日、モバイルSuicaアプリ内で利用できるコード決済サービス「teppay」の提供を開始した。従来Suicaが抱えていた残高上限2万円の課題を解消し、最大30万円までの高額決済や個人間送金に対応する。囲み取材に応じたJR東日本の高松奈帆人事業部長は、PayPay追撃ではなくSuica自体の利便性を進化させる独自戦略を明かした。
JR東日本は、10月20日11時からモバイルSuicaアプリ内で利用できる新たなコード決済サービス「teppay(テッペイ)」の順次提供を開始した。
同日サービスイン直前に、芸人シソンヌの長谷川忍さんらが出演する新CMを都内で公開し、ニュウマン高輪で決済体験会を実施。その後、JR東日本 マーケティング戦略部 Suica・決済基盤構築ユニット 決済・金融事業部長 高松奈帆人氏が報道陣の囲み取材に応じた。
ここでは、その囲み取材で分かったことを中心に、PayPayなどの巨大コード決済群に対するteppayの立ち位置や、teppayで解決した課題、teppayというネーミングの裏側、今後の展望を解説する。
teppayは「日常の買い物」から「高額決済・個人間送金」まで行動導線を意識
PayPay等先行他社との差別化――「コード決済単体で勝負するのではない」
―― コード決済市場でPayPayなどが大きなシェアを占めている現状に対するスタンスを教えてください。
高松氏 コード決済市場でPayPayさんが非常に大きなシェアを占めていることは、われわれも十分に認識しています。ただ、私たちはコード決済単体で勝負したいわけではありません。若い方からお年寄りまで、日頃多くの方にご利用いただいているSuicaをさらに便利にしたい――そんな思いでSuicaの進化に取り組んでおり、今回の「teppay」もその一環としてモバイルSuicaに搭載しました。
現在、モバイルSuicaは4500万枚以上発行されていますが、teppayはその1機能としてご利用いただくことになります。本日以降、モバイルSuicaアプリをアップデートしていただくだけで、誰でも簡単に使い始められます。これまでコード決済を敬遠していたお客さまにも、ぜひteppayを通じて手軽さを体験していただきたいと考えています。
Suica「2万円の壁」突破と「移動データ×購買データ」の創出
―― Suicaの課題解決やデータ活用についての狙いはどこにありますか。
高松氏 Suicaはアプリを立ち上げずにタッチ決済できるスピード感が強みですが、「事前にチャージが必要」「利用上限が2万円」という課題がありました。この上限を突破してほしいというお客さまからの長年のご期待に応えるのが、teppayの役割です。
teppayを追加することで高額なお買い物が可能になるほか、親子間で残高を送り合えるなど、新たな利便性を提供できます。両者を組み合わせて使っていただくことで、Suica自体の価値も高まると考えています。
また、Suicaの強みは電車やバスの利用に伴う「移動データ」をお預かりしている点です。ここに、これまで取得できなかった「高額商品の購買データ」を掛け合わせることで、お客さまにこれまでにない新しい価値をご提供できると考えています。
Suicaには事前チャージや上限2万円という課題があった。新機能「teppay」はこれを解消し、高額決済や残高送金を実現。移動データと購買データを掛け合わせ、Suicaを新たな生活の基盤へと進化させる(画像は携帯電話で利用できるモバイルSuica)
―― 将来的に交通系IC本体の2万円上限を緩和する考えはありますか。
高松氏 現時点では、コード決済機能を載せる形が最もスピーディーにお客さまへ価値を提供できると考え、本日teppayをリリースしました。もちろんSuicaの進化がこれで終わるわけではありません。2万円上限の緩和を含め、Suica自体をさらに便利にする取り組みは今後も継続して検討していきます。
決済音が「てっぺい」に決まったのはなぜ?
―― サービス名決定の裏側や決済音のこだわりについて教えてください。
高松氏 開発当初は「Suicaコイン」や「JRE Pay」といった候補もありました。しかし、モバイルSuicaだけを便利にしても、首都圏以外のエリアで「モバイルPASMO」をお使いのお客さまには利便性をお届けできません。やはりモバイルPASMOさんと一緒に取り組んでこそ意味がある、という議論になったのです。そのため、あえて「Suica」や「JRE」という名前を外し、両方のユーザーに親しんでいただけるネーミングを目指しました。
最終的に「teppay」に決まりましたが、お子さまからお年寄りまで使っていただくサービスとして、分かりやすさを重視しています。また、私たちの本業である鉄道から連想される「Travel」「Train」「Easy」「Partnership」の頭文字を組み合わせました。鉄道を想起させる「てっぺい」という響きで覚えていただければという思いも込めています。
teppayは、PASMOユーザーにも親しまれるよう工夫された名称だという。鉄道にちなんだ英単語の頭文字に加え、「てっぺい」という言葉の響きや決済音にも親しみやすさを込めている(画像はteppayのコード画面を利用者が店員に提示し、決済リーダーで読み取ってもらう様子)
決済音についても、「てっぺい」というサービス名称そのものを採用しました。親しみを感じていただけるよう工夫した音ですので、ぜひ多くの方に聞いていただきたいですね。
ポイント制度とクレジットカードを「ビューカード限定」にした狙い
―― ポイント還元や連携クレジットカードの仕様についてはどうでしょうか。
高松氏 2027年春にはモバイルPASMOでもteppayが利用できるようになります。モバイルPASMOユーザーの方に「JRE POINT」を直接付与するのは難しいため、まずは「teppayポイント」をためていただき、そこからJRE POINTへ交換していただく仕組みを予定しています。
また、連携できるクレジットカードを現在はビューカードのみに限定しています。ただし、銀行口座のひも 付けには幅広く対応していますので、ビューカードをお持ちでない方も口座を登録すればすぐにご利用いただけます。「モバイルSuica」「teppay」「ビューカード」、そして引き落とし口座としての「JRE BANK」を組み合わせることで最もお得になる設計にしていますので、まずはこの組み合わせでお楽しみいただければと思います。
ターゲット層・全国展開・資金移動業への見通し
―― ターゲット層や今後の展開、他社との違いについてお聞かせください。
高松氏 キャッシュレス市場におけるSuicaの強みは、若い世代が初めて手にするキャッシュレス手段になりやすい点です。高校生などは親御さんに定期券を買ってもらう機会も多いため、若い方からそのご家族、ご友人へとteppayの輪が広がっていくことを期待しています。
また、SuicaはJR東日本のサービスですが、モバイルSuicaのユーザーは全国にいらっしゃいます。もちろんteppayも全てのモバイルSuicaに搭載されますし、JR北海道さんのモバイルSuicaでもご利用いただけるため、全国のお客さまにお届けできます。
事業形態としては「前払式支払手段」からスタートしますが、今後お客さまからのニーズが強ければ、送金などが可能な資金移動業への参入も前向きに検討したいと考えています。
他社サービスとの大きな違いは3点あります。1つ目は、わざわざ新しくアプリをダウンロードする必要がなく、既存のモバイルSuicaをアップデートするだけで使える点。2つ目は、コード決済の残高から交通系電子マネー(Suica・PASMO)へチャージできる点。そして3つ目が、PASMOとSuicaというアプリの垣根を越えて残高のやりとりができる点です。例えば「親はJR、子供は私鉄沿線の学校に通っている」というご家庭でもスムーズに残高を移動できるため、日常の使い勝手は大きく変わるはずです。
Suicaを「生活のデバイス」へ進化させる第一歩
JR東日本が推進する「Suica Renaissance(Suicaルネサンス)」において、teppayはSuicaを単なる移動と少額決済の手段から、日常のあらゆる決済をカバーする生活のデバイスへと進化させる重要な役割を担っている。
2027年春のモバイルPASMO連携や、2028年度に予定されている「Suicaアプリ(仮称)」の登場に向け、交通インフラ事業者が手を組んだ新たな決済プラットフォームがどこまで浸透していくのか、今後の展開が注目される。
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